今度こそガラパゴス化しない!? 準天頂衛星「みちびき」の正式サービスがいよいよ始まる

日本版GPS構想にリスクはないのか

準天頂衛星「みちびき」が3機も打ち上げられた2017年

準天頂衛星システム(以下、みちびき)は、日本独自の衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)の構築を目的に2010年から進められてきた国家的なプロジェクトです。

初号機が2010年9月に打ち上げられてから7年目にあたる2017年には、2号機(6月1日)、3号機(8月19日)、4号機(10月10日)の3機が、いずれも種子島の宇宙センターから純国産のH-IIAロケットによって打ち上げに成功しました。これにより、2018年度からの正式サービス開始が可能になっています。

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ちなみに、みちびきの最大の特長は、日本からオーストラリアの上空を複数の準天頂衛星が地上から見て8の字となる軌道で運用されることです。

合計4機の衛星それぞれが軌道を時間的にずらすことにより、日本やその近海において、少なくとも1機が常に天頂付近にあることになるため、地方であれ、高層ビルが立ち並ぶ都会であれ、いつでもどこでも天頂から補完信号と補強信号を地上に放送することが可能になります。

何ができるのか?

では、実際にどのようなサービスが可能なのでしょうか。そのことを正しく理解するために、まずは、みちびきが提供するサービスには精度が異なる以下の3つのサービスがあることを確認しておきたいと思います。

①衛星測位サービス:誤差10m程度(GPSと同等の誤差)
②サブメータ級測位補強サービス:誤差1~2m程度
③センチメータ級測位補強サービス:誤差6~12cm程度

ちなみに、私たちにも身近なスマホの場合は、①のサービスまでしか使えません。アップルのiPhoneの場合、7/7 Plusからはみちびきの衛星測位サービスが使えるようになっていますが、精度自体はこれまでのGPSと同等です。

とはいえ、みちびきは天頂付近に長い時間留まるため、GPSのみを利用するケースと比較すると、特にビルの谷間や山間部などにおいて位置情報がより安定的に得られるようになります。

また、自家用車、バス、輸送用トラック、鉄道、船舶、建設機械、農業機械などの自動運転に活用する場合は、さらに精度が高い②や③のサービスも活用することになります。

ただし、みちびきだけでそれを実現することは現実的ではなく、既存のGPSや様々なセンサーとの併用で実現されていくと見られています。それには高度な技術が必要とされるため、「正式サービス」が開始される来年からは、将来の実用化に向けた実証化実験が一段と加速していくと考えられます。

“ガラパゴス化”しないのか?

このように高い精度の位置情報サービスを提供可能なみちびきは、今後さまざまな場面での活用が期待されるものの、一方で、技術は優れていても世界では普及しない、かつてのガラケーのようなことになってしまわないかが気になるところです。

ただし、こうした懸念を払しょくする注目すべきニュースが今年8月にありました。その内容は、Bosch、Geo++、三菱電機、u-blox、そして高精度GNSS測位サービスを行う配信会社が、Sapcorda Services社という新会社を立ち上げるというものです。

この新会社では、システムインテグレーター、自動車メーカー、受信端末メーカーなどがそれぞれの専門的な知見を持ち寄り、グローバルで利用可能な高精度測位サービスを実現することを目的としています。

その一社である三菱電機(6503)は、みちびきを活用したセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)との相互互換性を目指し、グローバルな高精度測位システム市場の創出に貢献したいとしています。

また、スイスの半導体メーカーであり、三菱電機と共同でみちびき対応の受信チップを開発しているu-bloxも、この新会社に積極的に関与していくと見られています。

一方、こうした動きとは別に、日清紡ホールディングス(3105)傘下の日本無線がCLASに対応したGNSSチップの開発に取り組んでいることも注目されます。

日本無線は1970年代からGNSS受信機の開発に取り組んでいますが、2017年1月に、みちびきが配信するL6信号(センチメータ級測位補強信号)と海外の複数のGPS信号を受信可能なチップの開発を発表しています。今後、こうしたチップが製品化されていけば、日本でも海外でも一台で対応可能なGNSS受信機が作れることになります。

このように、グローバルな協業での高精度GNSS測位サービス実用化への取り組みが既に始まっていることや、グローバル対応のチップ開発も始まっているため、“ガラパゴス化”への過度な懸念は不要ではないかと考えられます。

まとめ

みちびきの事業費の総額は正確にはわかりませんが、初号機の開発費は約400億円とも伝えられているため、これまでに相当な国費が投入されてきたことが推察されます。

その大型プロジェクトもいよいよ、来年からは実用化を迎えることになります。公共サービスですので利用料金は無料ですが、新サービスを使うことで、社会に役立つ新たな産業を生み出すことが関連事業者には求められています。

みちびきという国家的なプロジェクトをテコに、民間からどのような新事業が生まれてくるのか、また、ガラパゴス化を回避するための取り組みが加速していくかなどを引き続き注視していきたいと思います。

和泉 美治

ニュースレター

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和泉 美治

同志社大学文学部卒業後、エルコインターナショナル (現:京セラエルコ) に入社。英国バーミンガム大学にてMBA取得。
その後UBSフィリップスアンドドリュー証券 (現:UBS証券) に入社し、調査部にてエレクトロニクスセクターを担当。2002年より2013年までJ.P.モルガンにて産業用エレクトロニクス及び民生エレクトロニクスセクターを担当。
日本証券アナリスト協会検定会員。