いまさら聞けない「物価水準目標」、 2%インフレ目標に“サヨウナラ”?

FRB議長の交代を機に採用検討も

来年2月に米連邦準備制度理事会(FRB)の議長が交代することを機に、従来のインフレ目標に代わる物価水準目標の採用が取り沙汰されています。そこで今回は、物価水準目標に関連するこれまでの議論や論点をまとめてみました。

物価水準目標は2%を超えるインフレ率を容認

「物価水準目標」とは、ある時点の物価水準を基準にして、そこから一定幅の上昇率を目指す金融政策のことです。

現在採用されている「インフレ目標」ではインフレ率が前年比で2%になることを目指しており、この目標が達成されている限りインフレ目標と物価水準目標に違いはありません。

続きを読む

ただし、インフレ率が目標から外れると2つの政策に違いが表れます。

たとえば、2017年の物価を基準(100)にした場合、物価水準目標では実際のインフレ率にかかわらず、目標は2018年が102、2019年が104と2%の幅で上昇していきます。一方、インフレ目標では仮に2018年の実際のインフレ率が1%(101)となった場合、2019年の目標は2018年から2%上昇の103になります。

ポイントは、2018年の実際のインフレ率が目標を“下回った”場合、物価水準目標を採用していると2019年の目標は2%よりも高い数字が容認される点にあります。

2010年にはバーナンキ前議長の反対で採用見送り

物価水準目標への支持は以前からあり、近年では2010年の米国における量的緩和第2弾(QE2)の導入前後に議論が活発化しています。

当時の問題意識は、景気の回復にも関わらず雇用の改善が遅れていることにありました。たとえば、GDP成長率は2009年のマイナス2.8%から2010年はプラス2.5%へと持ち直していますが、失業率は2009年の9.3%から2010年は9.6%へと上昇しています。

雇用の回復に時間がかかっていたことから、より積極的な緩和を肯定するためにインフレ目標の引き上げや物価水準目標を推す声がFRB内の一部で挙がりました。

結局、バーナンキFRB議長(当時)が目標を達成できない場合にFRBの信頼性が失われるリスクを懸念したことから導入は見送られています。

また、実際のインフレ率が目標を上回った場合、物価水準目標を採用すると翌年以降の目標は2%を下回る計算となり、過度な引き締めを招く恐れがあることも警戒されました。

バーナンキ前議長の提案で再び脚光

いったんは下火になった物価水準目標ですが、ここへきて再び盛り上がりを見せています。

発端となったのは、バーナンキ前議長が10月に出席したカンファレンスで部分的な物価水準目標の導入を提案したことです。物価水準が目標を下回った場合に限定して物価水準目標を導入してはどうかと提起しています。

同じカンファレンスに出席していたブレイナードFRB理事は、この提案について、インフレ率が目標を下回った期間も含めて平均2%を目指すことで、金融政策を早期に正常に戻したいとする「正常化バイアス」を回避する手段になると述べ、興味を示しています。

サンフランシスコ連銀総裁が高い効果を主張

さらに、サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁が6日、2%という具体的なインフレ率よりも物価水準を目標にするほうが高い効果を導き出せる可能性があると主張したことが議論に拍車をかけています。

同総裁の問題意識は自然利子率の低下にあります。自然利子率とは景気を刺激も抑制もしない中立的な金利水準のことで、インフレ目標が導入された2012年頃には2.0%前後と考えられていましたが、現在はゼロ近辺にあると推計されています。

適正な政策金利は自然利子率にインフレ率を加えた数字となりますので、自然利子率が2%でインフレ目標が2%の場合、長期的に適正な政策金利は4.0%になりますが、自然利子率が0.5%に低下した場合、適正な金利水準は2.5%となります。

ウィリアムズ総裁は景気後退時の利下げ余地が低下しており、再びゼロ金利に直面するまでの金融緩和余地が従来よりも少なくなっていることを警戒しています。

ただ、インフレ目標を3%とすると適正金利は3.5%へと上昇し、利下げ余地も拡大することになりますので、緩和余地に余裕を持たせるために物価水準目標が有用であると説いています。

さらに、同総裁は16日、新たな政策枠組みを検討する際にインフレ目標の引き上げを排除すべきではないと述べ、物価水準目標は現在の枠組みに「比較的容易に」適合することから利点があるとの見解を示しました。

このほか、ニューヨーク連銀のダドリー総裁も物価水準目標に好意的であるほか、インフレ目標の引き上げを提唱しているシカゴ連銀のエバンス総裁も物価水準目標を積極的に支持しています。

パウエル新体制は転換の好機

FRBでは来年2月にパウエル氏が新議長に就任しますが、アトランタ連銀のボスティック総裁は14日、金融政策の見直しにつながるアイデアを議論するには「首脳陣の交代は好機だ」と述べています。

FRBがインフレ目標を採用したのは2012年と比較的最近のことであり、従来は採用に消極的でした。それが、2006年に議長に就いたバーナンキ前議長の強い要望とイエレン副議長(当時)が理解を示したことで、それまでの殻を破って導入に踏み切っています。

米共和党はというと、FRBの裁量的な金融政策には否定的であり、ルールベースの導入を望んでいます。10月に承認されたクオールズ理事もルールベースの導入を支持しています。

イエレン議長が退任した場合、7人の理事のうちあと4人を共和党が承認することになりますので、ルールベースの導入を支持する理事が過半を超えるのは時間の問題といえるでしょう。

物価水準目標は現行のインフレ目標よりも金融政策のルールが明確になる可能性を秘めていますので、パウエル新体制が導入に前向きとなる可能性は十分にあり、議論の行方が注目されています。

投信1編集部

ニュースレター

PR

投信1編集部

投信1編集部は、証券アナリストなど金融業界で長年の調査経験を持つメンバーを中心に構成されています。
金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデア、ビジネスパーソンの役に立つ情報ををわかりやすくお届けします。