本当に「とことん話し合えば、必ずわかり合える」のか?

長引く話し合いに潜む落とし穴

東京と大阪の弁護士で異なる、話し合いの進め方

「とことん話し合えば、必ずわかり合える」という言葉をよく耳にします。それはそうなんだけど……と、全面的に肯定できないのが正直な気持ちです。

国内の弁護士37,680人のうち、最も多いのが東京17,565人で、2位は大阪4,333人となっています(2016年3月31日、弁護士白書)。

1位と2位の東京と大阪では、弁護士の気質が異なると言われています。ある記者が真偽を確かめようと、この質問を大阪のべテラン弁護士にぶつけたところ、「気質がちがうかどうかについては何とも言えませんが、交渉ごとなど話し合いの進め方がちがうなと感じることはあります」との返答だったそうです。

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売買価格についての交渉であれば、大阪の場合、まずは高めの価格を提示し、相手の出方を見ながら妥当な価格を見出していきます。対して東京は、最初から妥当だと考える価格を提示してくることが多いようです。大阪の弁護士にしてみれば、最初の提示は高めの価格だと思っていますから、値下げに向かって交渉を進めていくことになります。

ところが東京の弁護士にとっては妥当な価格であり、譲歩するにしても幅は小さいのです。妥結できそうもないと判断し、「この話はなかったことに」ということになります。成立するはずの売買もみすみす逃してしまうこともないとはいえないようです。

交渉ごとにもスピード感が求められる時代に

最初から手の内を明かす東京、手の内を探るための駆け引きをしながら交渉をする大阪。前述の大阪の弁護士は、駆け引きの過程で信頼が生まれることがあるとも言い、「東京さんには、東京さんなりの駆け引きがあるんやろなぁとは思てますねんけど」と付け加えています。

別の大阪弁護士は、こんな体験を述懐しています。

トップ同士の雑談からビジネスが始まることも多いと言われるIT業界。米国IT企業のCEOがいきなり、自ら電話をかけてきたそうです。大阪弁護士が代理している企業の商品を独占購入するには「いくらだ」と切り出しました。しかし、まずはあいさつからと言い、大阪での交渉作法にのっとり、あえて金額には触れずに電話を切ったそうです。

CEOの出方をさぐっていたわけですが、その後はいくら待っても連絡は一切ありませんでした。しばらくして、そのIT企業は新たな企業と同様の交渉が成立したことを知ったそうです。「交渉にもスピードが求められる時代になったことを痛感した出来事」だったと、苦い思い出を振り返っています。

一度の譲歩が前例となり、次々と譲歩を迫られることもある

地域、国、業界によって異なる交渉文化。同じ文化の人同士なら、とことん話し合えばわかり合いやすいでしょう。どこまで譲歩すれば妥協できるかがわかるからです。今回は自分が譲歩しておけば、次回は相手が譲歩してくれるというのもよく聞く話です。だからといって、すべての交渉に通用するのでしょうか。

なかには、一度の譲歩が前例になり、次も、その次もまた前例通りの譲歩を求めてくるケースもあります。前例がありますから、話し合いを長引かせれば、いずれは望む条件で交渉が成立すると考えていると思えなくもありません。しかし、どちらか一方が得をする関係が長く続くとは思えません。

また、最初から交渉を成立させる気持ちがないのに、話し合いを続けるケースもあります。求める交渉相手は別であり、その交渉がよりよい条件で成立するまでの、いわばあて馬的に話し合いを長引かせていることもあります。

このような相手との話し合いをいつまでも続けたいと思う人は、まずいないのではないでしょうか。

停滞する話し合いは、理解能力不足か、解決の意思なし!?

交渉ごとについてではありませんが、東京の弁護士から言われたことがあります。

「2度までは許容しても、3度以上も同じ発言を繰り返さないといけないようなら、いったん、ご破算にしなさい」

話し合いが停滞するのは、理解能力に問題があるか、あるいは解決させる気持ちがないのかのいずれかだからだそうです。

とことん話し合えばわかり合える、というのはきれいごとだとまでは言いたくはありません。ただ、落とし穴も潜んでいることに目をつぶってしまうのも、ある意味で現実逃避と言えなくもないように思います。

話し合って解決するのが理想ですが、何事にも例外はあるということでしょう。

間宮 書子

ニュースレター

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國學院大學法学部卒業。法律系出版社、弁護士事務所勤務を経て、現職に。
ビジネス法務を中心に、ビジネス全般、旅やエンタメなど広く取材・執筆に従事。
現在は埋もれていても100年後に大化け、通説となるようなネタを求めて活動中。