ドラマ「陸王」が描くファミリービジネスは何を教えてくれるのか

変化のマネジメントが強いファミリービジネスをつくる

老舗足袋メーカーを舞台にしたドラマ「陸王」

TBS系列で現在放送中のドラマ「陸王」。池井戸潤氏原作の同名の小説がドラマ化されたもので、「半沢直樹」や「下町ロケット」と同様、日曜日の夜にじっくりと見て、月曜日からの仕事を頑張るという人もいらっしゃるのではないでしょうか。

「陸王」は、埼玉県行田市にある、100年続く老舗の足袋メーカー「こはぜ屋」の4代目社長が主人公です。昔ながらの足袋だけでは先細りしてしまうと考え、足袋の製造技術を用いた、けがをしないランニングシューズの開発に乗り出すというストーリーです。

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当然、開発を進めていくと、次々に難題が降りかかってきます。約20人の社員、年商約5億円の中小企業ですから、常に資金繰りに悩まされ、開発するための時間も労力も限られます。知名度や実績がないという理由で、営業はなかなか進まず、開発に必要な素材の入手もままなりません。

遅々として進まない開発に、開発チームは疲れ、時に衝突が起きることもあります。外部からの嫌がらせや妨害にもあったりします。

多くの難題を1つ1つ乗り越え、中小企業が新製品の開発に邁進していくことにはドラマ性があります。それがうまく表現されているところが、ドラマ「陸王」が人気を得ている理由かと思います。

「陸王」をファミリービジネスという事業形態の視点で見る

私はこの「陸王」のドラマを、中小企業のサクセスストーリーとしてだけではなく、「ファミリービジネスと呼ばれる事業形態でどのような問題が起きるのか」、「ファミリービジネスとしてうまくマネジメントするための勘所はどこか」という視点を持って見ています。

ファミリービジネスの定義はいろいろありますが、ここでは、「企業の所有者(オーナー)と、経営者(マネジメント)と、家族(ファミリー)という3者の利害関係の調整を必要とする事業形態」とします。

「ファミリービジネス白書(2015年版)」によると、日本の企業全体の97%、上場企業(全市場)の53%がファミリービジネスとのことですから、ファミリービジネスとは特殊なものではなく、ごく自然な事業形態と言えます。ですが、ファミリーという外からは見えにくい要因が絡むことで、全体として複雑なものに見えてしまうのがファミリービジネスと言えます。

ファミリービジネスでは「ファミリー」と「ビジネス」が相互に影響を与え合う

ファミリービジネスを見るにあたっては、ファミリーがどのようにビジネスに関わっているかという視点が重要です。ファミリーとビジネスは、良くも悪くもお互いに影響を与え合うからです。

「陸王」では、足袋づくりだけでは将来先細りだけれど、どうしたらいいか分からずに社長が悩むシーンがあります。時を同じくして、家業手伝いの長男は、将来何をやりたいか分からずに漠然と就職活動をしていて、内定が取れない状況が続いています。

そんな父子は何か事あるごとに苛立ち、ちょっとしたことでお互いに怒鳴りつけることもあります。コミュニケーションがうまく取れず、どんどんすれ違っていきます。ファミリーとビジネスが悪く影響し合っている状況です。

ところが、社長がシューズ開発という明確な目標を設定し、ビジネスに変化が起き始めると、タイムラグはありますが、ファミリーの方も変化していきます。シューズ開発に巻き込まれていくうちに、長男とのコミュニケーションも好転していきます。

「陸王」では、ビジネス側の変化が先に来てファミリーにも好影響を与える順番になりますが、逆も真なりで、ファミリー側の変化により、ビジネス側が好転することもあります。

ファミリー内のコミュニケーションの状況を知るには?

私はファミリービジネス向けのコンサルティング/アドバイザーの仕事もしていますが、ファミリーの状況をヒアリングする際には、食卓の様子を聞くようにしています。食卓のシーンから、ファミリー内での人間関係や、コミュニケーションの状況がある程度把握できるからです。

「陸王」でも、夕食の食卓のシーンが何度も出てきます。社長夫婦、長男、大学進学を控えた高校生の長女という4人家族ですが、最初は長男以外の3人で囲んでいた食卓が、社長と長男のコミュニケーションがうまく取れるようになるにつれ、4人全員で食卓を囲むシーンが増えていきます。

ファミリー内がうまくまとまってきていることを食卓で描写しているように思います。

変化をマネジメントすることが強いファミリービジネスをつくる

「陸王」の中で、シューズ開発を始めると決断する時に、「将来のことを考えると、古いものを守るために古いことばかりやっていてはいけない」というセリフが出てきます。ビジネスについてのセリフですが、このことは、ファミリーについても言えることです。

ビジネスにしても、ファミリーにしても、放っておいても絶えず変化していくものです。変化するものであることを受け入れ、その変化をうまくマネジメントしていくことが、ファミリービジネスを強くする秘訣になります。

ドラマ「陸王」は、これから後半を迎えます。ファミリーとビジネスがお互いに影響し合うという視点を持って見てみると、ビジネス(ファミリー)での変化がファミリー(ビジネス)にどう影響を及ぼすか、どの変化をどのようにマネジメントするべきなのかなど、多くの気づきが出てくるかと思います。

藤野 敬太

ニュースレター

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藤野 敬太

東京大学経済学部を卒業後、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(現日本アイ・ビー・エム)等を経て、2001年から2013年まで、日興アセットマネジメントにて、アナリストおよびファンドマネージャーとして日本株ファンドの運用に従事。
現在は、オフィス・ラコルドの代表として、ファミリー向け・ファミリービジネス向けのコンサルティングおよびアドバイザー業務を展開する。
CFP(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、シニア・プライベートバンカー(日本証券アナリスト協会認定)。日本ファミリービジネスアドバイザー協会執行役員・フェロー