中小企業の廃業を食い止められるか〜事業継続の間は相続税猶予

「事業承継税制」の優遇措置拡大の方針

好業績にもかかわらず、廃業を選ぶ中小企業が多い

政府・与党は2018年度税制改正で、中小企業の代替わりを促す「事業承継税制」の優遇措置を拡大する方針であることを明らかにしました。

「事業承継税制」の正式な名称は「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予及び免除の特例」といいます。「事業承継税制」の概要は、中小企業など非上場企業の株式を後継者が相続または贈与を受けた場合に、一定の条件を満たせば、相続税・贈与税の納付が猶予されることです。

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中小企業庁の調査によれば、中小企業経営者の平均引退年齢は、中規模企業で67.7歳、小規模事業者では70.5歳となっており、高齢化が進んでいます。さらに、60歳以上の経営者のうち、50%超が廃業を予定しているそうです。

理由として、事業を続けても縮小するだけと答える人が約6割いる一方で、4割の経営者が好業績にもかかわらず廃業を予定しています。後者のような企業が事業承継をしない場合には、雇用や技術、ノウハウが失われてしまう可能性もあります。

「後継者難」の背景には、高額な相続・贈与税の負担の問題が

廃業の理由として、「子どもに継ぐ意志がない」「子どもがいない」「適当な後継者が見つからない」と後継者難を挙げる経営者も少なくありません。

文字どおり「社長としてふさわしい人材がいない」というところもあるでしょうが、非上場企業では、多くの場合、「自社株の相続・贈与も含めて引き受けてくれる人材がいない」という理由もあるようです。

創業者が何十年もかけて企業を成長させてきたような企業では、自社株が高額な評価額になることがあります。ただし、非上場のため、第三者に売却することができず、換金性がありません。そのため、オーナー企業では、財産のほとんどが株式ということも珍しくありません。

相続人(後継者)がこれを相続する場合、納税資金がないという状態にもかかわらず、多額の相続税・贈与税が課せられます。このため、中小企業の中には、事業承継を先延ばしにしているところが多いのです。

前述した「事業承継税制」はこの問題の解決を支援するのが目的です。非上場企業の相続・贈与にあたって、発行株式数の3分の2について、相続税はその80%、贈与税は全額の支払いを猶予するというものです。

ただし、猶予を受けるには、都道府県知事の認定を受けることや、後継者が代表者、筆頭株主であること、資産管理会社でないこと、申告期限後5年間は雇用の8割以上を維持していることと、といった条件を満たす必要があります。

負担を軽減することで、スムーズな事業承継の促進に期待

「事業承継税制」は、2008年度の「経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)」の施行に伴い始まりました。ただし、実際の利用は年間500件程度にとどまっています。

要因は、前述したように、猶予を受けるには一定の条件があり、その条件を満たさなくなると猶予されていた税金を払う必要があることです。特に従業員の雇用の維持などを約束できないとする企業も少なくありませんでした。

そこで、冒頭に述べたように、政府・与党は2018年度税制改正で、「事業承継税制」の優遇措置をさらに拡大しようとしています。

詳細については議論が進められている途中ですが、「猶予される株数を現在の3分の2から全額に引き上げる」、「従業員の雇用要件を条件付きで撤廃する」といった要件の緩和のほか、一定の条件を満たせば、納税の猶予ではなく免除にするといったことも検討されています。

海外では、英国(100%免除)、ドイツ(85%または100%免除)、フランス(75%免除)のように、事業承継負担を軽減しているところが多く、日本との差が指摘されていました。

今回の税制改革で経営者の代替わりが進む可能性があります。M&A(合併・買収)など親族外承継も含め、制度や市場の整備により、事業承継が活発化することが期待されます。

下原 一晃

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下原 一晃

マーケティング会社、リクルートなどを経て、PRプランナー・ライターとして独立。
株式投資、投資信託をはじめとする資産形成や、年金、相続などに関する情報提供を行っている。あわせて、個人投資家がテクニカル理論を身に付けるためのヒントや知識の紹介にも取り組んでいる。
日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA)。