かなり前のことなので、どこで聞いたのか、誰が言ったのかは明確な記憶がありません。それなのに、何かにつけて思い出す言葉があります。

「小説を書くだけだったら、誰でもすぐにできる。ただプロの小説家であれば、自分の生きざまが裏付けになっていなければならない。自分の人生で書いた小説でなければ、人に読ませる価値はない。そこが一番、難しい」

小説はフィクションであり、ウソの世界です。ノンフィクションは、かぎりなくウソに近い事実がおもしろいそうですが、フィクションはかぎりなく事実に近いウソがおもしろいそうです。

音楽もフィクションですが、プロを名乗るにはやはり「事実」が不可欠なのは小説と同じではないでしょうか。いくら愛や友情、平和を歌っていても、奏でる人間が真逆の人生を送っていたら興ざめです。

「相性が合う」「一緒にいて楽しい」で始まり、半世紀を過ごす

ポピュラー音楽で、愛や友情、平和を否定する歌は少ないようです。にもかかわらず、多くのアーティストたちが仲間割れをし、離合集散を繰り返しています。思い通りにいかないのが人生ですから、彼らを責める気持ちにはなりませんが、聴いていてしらけてしまうことがないでもありません。

そのなかで結成以来のメンバーで現在まで活躍しているのが、ザ・ワイルドワンズとジ・アルフィーです。ありそうで希少、奇跡ともいえるものです。

ザ・ワイルドワンズは1966年、故加瀬邦彦氏が雑誌でメンバーを募集し、結成されました。加瀬氏はメンバーの選択基準を、「自分と相性が合いそうかどうか」に置いたと語っています。以来50年超ですから、加瀬氏の目は正しかったようです。

ジ・アルフィーのデビューは1974年、高校時代の同窓生とその音楽仲間が集まって自然発生的に結成されたようです。ミュージシャンをめざす多く若者たちが他人の音楽を見下すのがかっこいいという風潮のなかで、坂崎幸之助、桜井賢の両氏を「気負ったところがなく、一緒にいて楽しかった」と高見沢俊彦氏は語っています。

長命の理由は、「スターが出なかった」「そろって次男」だから

ワイルドワンズはグループが長命の理由を「スターが出なかった」からだと言っています。とはいえ最盛期の人気はかなりものでしたが、どちらかといえば熱狂的なファンというより、優等生型の女性が多かったようです。グループサウンズの多くがNHKから排除されたなかで、ワイルドワンズは紅白歌合戦にも出場しています。

当時はファン同士が険悪で、応援するミュージシャン以外はこけおろすのが普通でしたが、ワイルドワンズは他ミュージシャンのファンからも悪く言われることはなかったようです。

悪く言われないというところは、アルフィーも同じです。ファンでなくても、アルフィー嫌いという声はあまり聞いたことがありません。

アルフィーは長命の理由を「そろって次男」だからと言っています。長男とちがい一番になることが期待されていないから、譲り合えるというわけです。現在のリーダーは高見沢氏ですが、当初はお互いに譲り合ってリーダーになろうとしないので、週代りにしていたそうです。

「スターが出ない」「週替わりのリーダー」、人を押しのけようとしないのは、両グループの共通点といえそうです。

失敗した人が一番傷ついているから怒鳴らず、ケンカもしない

両グループの共通点は、もう一つ見つかります。ワイルドワンズは創設者であり、年長の加瀬氏が強力なリーダーだったのでしょうが、メンバーは「加瀬氏から一度も怒鳴られたことはない」と述懐しています。一度だけ取材でお会いしたことがあるのですが、そのときも加瀬氏は常に、他のメンバーを前面に出そうとしていたのを思い出します。

アルフィーも「音楽のことでケンカしたことは一度もない」そうです。他のグループが失敗したメンバーを責め、殴り合いのケンカをしていた横で、どうしていいかわからずトランプ遊びをしていたこともあるとか。「失敗した人が一番傷ついているんだから、責めてもしかたない」と、ラジオで語っています。

厳密にいえば、ワイルドワンズは解散したことがあり、途中加入の渡辺茂樹氏、加瀬氏は他界していますので、現在は結成当時のメンバーそのままではありません。しかし鳥塚しげき氏、植田芳暁氏、島英二氏の結成メンバーに加え、加瀬氏の子息である友貴氏がときおり参加するなど、世代を超えた長命ぶりです。現在も、ケネディハウスで定期的に出演しています(オフィシャルサイトはこちら)。

アルフィーには解散歴はないものの、結成時のメンバーが1人脱退しています。以後はメンバーに変動なく現在もテレビ、ラジオで活躍し、武道館で定期的に大規模なツアーコンサートを行うなど、名実ともに「現役トップミュージシャン」として活躍し続けています(オフィシャルサイトはこちら)。

人生で奏でる音楽に接するとき、希望や勇気という抽象的な言葉が一気に現実味を帯びてしまうのが不思議です。

間宮 書子