この1月で就任から1年を迎える米国のドナルド・トランプ大統領。就任前の同氏に対して、最後にロングインタビューを行ったジャーナリスト、マイケル・ダントニオ氏がまとめた書籍『熱狂の王 ドナルド・トランプ』から、トランプ大統領の本質に迫ります。

有名人のゴシップから政治まで、トランプはさまざまなジャンルに取り憑かれている。トランプは当時のオバマ大統領に対して基本的に嫌気がさしていたが、それは大統領が「弱い」からだ。オバマについては過去に二度、インタビュー中に触れている。

なぜオバマが嫌いだったのか

「成功」についての一般的な話をしているときに、トランプはオバマ大統領の評価に話をそらせた。一度目は、オバマが勝者の素質を欠いていて、「何度も負けているオバマをテレビで見るのはいやだと、誰もが思っている」と述べ、二度目は、大統領は精神的にタフではないと言った。

「すべては精神的なことに尽きる。もしもオバマに精神力があれば、ロシアのプーチンと一緒にランチを食べるはずはない。オバマには精神力がないのはこれからも変わらない。それはDNAの問題だからだ」。

トランプは自ら築き上げたイメージに固執し、過去について語ったり自己分析をしたりするのを嫌うことで有名だ。彼は大衆受けのする言い回しを繰り返し、情報をもてあそぶのが得意だった。「この話は使ってもいいが、私から出た情報だとは言わないでもらいたい」と前置きしつつ、最近の成功について語ることもあった。

こうしたトランプのやり方については、1997年の『ニューヨーカー』誌でマーク・シンガー記者が述べている。トランプは同じことを、私たちに対しても何度も試みた。

「尊重に値する人間はほとんどいない」

トランプはよく、「自分はニューヨーク・ミリタリー・アカデミー(NYMA)が生み出した戦士であり、アスリートである」と語る。NYMAの教官で「鬼軍曹」のあだ名を持つテオドール・ダビアスは、まだ少年だったトランプを手荒く扱い、同時に、戦う精神力を植え付けた。

最初のインタビューで彼は、競争心旺盛なアイデンティティの核となった要素は、「クラスで一番、男性ホルモンが多かったこと」だとしている。また、彼が高校に入る前に家を追い出されてNYMAに入れられたことで、「生き延びることを学ぶ」と同時に、他者への共感能力に悪影響が及んだことも間違いない。そのことは、「他人を尊重することはできないね。尊重に値する人間はほとんどいないから」というトランプの言葉を説明してくれる。

どう生き延びるか

この率直な言葉を聞いて、私はトランプに言った。「たいていの人は、相手から失礼なことでもされない限り、当たり前のように他人を尊重していますよ」。

するとトランプは次のように答えた「それはいい。だが、私が今まで学んできたこととは違うな。人間の悪い部分をたくさん見てきたせいで、最悪のことを考えるようになったのさ。まあ、これは私の長所だと思っているがね」。

マンハッタンを見下ろすコンクリートのタワーで、山積みの現金の上に座っている人間としては驚くべきことだが、トランプは自分の人生を苦しい闘いだと語る。「人生はどう生き延びるかだ。どうやって生き延びるかが問題なのだ」。

10時間の取材の中で表れた「本音」

おおよそ10時間の会話の中で、競争と人間の本質について語るとき、トランプは最もよく彼の本音を表した。トランプは、人生とは終わりのない闘いであるととらえている。トランプが自分自身を「勝者」と呼び、嫌いな人間を「負け犬」と呼ぶのもそのためだ。

「汗水垂らして働くことは大切だ。もちろん、しっかり準備して心構えを持つこともね。だが、一番大事なのは、『持って生まれた能力』だ」

トランプは折に触れて、自分がゴルフからビジネスまですべてに秀でているのは、遺伝子レベルで才能があるためだ、という考えを持ち出す。「私には『土地』に関する能力(土地の価値がわかる特殊な嗅覚)がある」とまで言ったりもする。

息子も信奉する「血統」への考え方

このトランプの血統信仰については、彼の息子ドナルド・トランプ・ジュニアの「私は競走馬の血統理論を固く信じています」という発言を聞けば、はっきりとわかる。

彼はマンハッタンにそびえるトランプ・タワーの中で、父親のオフィスがある天井の方向を指差しながら言った。「父は驚くほど多くの成功を手にしましたし、母も元オリンピック選手で、素晴らしい仕事をしています。ですから遺伝学的に見て、私は平均より素質があると思っています」。

貧富の格差に関心が高まっている時代には、相続したにせよ、自分で得たにせよ(トランプの場合はどちらも当てはまる)、巨万の富を正当化するために「遺伝的優越」を持ち出すのは便利なやり方だ。研究によると、富と権力の持ち主は、そうでない人と比べて、自分たちの地位は「持って生まれた能力」に起因すると考える傾向が強いという。

もちろん、出自もある程度は影響するだろう。しかし、人間を形づくる要因は多様であり、トランプのように、一つのことがらを「決定的要素」であるかのように見なすのは、魔法を信じるようなものではないだろうか。

(マイケル・ダントニオ『熱狂の王 ドナルド・トランプ』をもとに編集)

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