ビジネスパーソンのなかには、人事評価は評価者(上司)によっても随分変わる…そう感じている人もいるのではないでしょうか。

今回は、20代の頃に人事評価で最低点を付けられたものの、その後別部署への異動をきっかけに40代前半で部長にまで昇格したAさんにお話を伺うことができました。「今までの話でよければ」と笑いながらもAさんが語ってくれたその道のりとは。

「あなたにはついていけません」 思わず出た一言が最低評価のきっかけに

Aさんは大学卒業後、一部上場企業に就職。新入社員時代は今一つやる気のない社員だったと苦笑いします。「新入社員が書く日誌に『今日は眠かった』なんて書いて上司に提出したりしていました。信じられないですよね。でも新入社員時代の上司は厳しくもあたたかく、辛坊強く指導してくれました」とAさん。

そんな新入社員時代を過ごしたAさんですが、数年たつと仕事も覚え、やりがいも感じるようになってきました。しかしある年、思わず出た一言がきっかけで直属の上司に最低評価をつけられてしまいます。

「当時の上司は周囲からの評判があまりよくない人で…その上の上司からも同情されるくらい。彼に対する苦情がくるのでいろいろ改善をお願いしたのですがダメで。あるときついに『あなたにはついていけません』と言ってしまったんですね。それが決定打になったようです」

「今でこそあの時の彼の気持ちもわからなくはないんです。もし自分が相手の立場だったら、そりゃあショックだし」とAさんは振り返ります。

新天地でも壁にぶつかる

「上司に嫌われると出世しない」などと言われることがありますが、Aさんのケースはまさにそれに当てはまったパターンといえそうです。そんなとき、他部署で人材公募が行われることになり、応募したAさんは合格して異動することに。しかし、これで解決とはいきませんでした。

「飛び出したら飛び出したで、新しい部署では完全によそ者扱い。『お前は自分で手を挙げてきたんだろ』と突き放されて。ずいぶん悩みましたが、このままではいけないと、考えを根本的に変えることにしました」

「他責」をやめたら風向きが変わった

退路はない、仕事をもらえるかどうかも評価されるかどうかもわからない状況。「それが一番キツかった」とAさんは語ります。

悩んだAさんがまず大きく変えたのは「他責にするのをやめる」ということでした。うまくいかないことがあっても他人の振る舞いや環境のせいにするのをやめたというのです。「そうしたら、風向きが向かい風から追い風になるように、これまでとは違う方向に人生がまわりだした」とAさんは語ります。

「何があってもブレない軸」を作った

同時にAさんは「仕事に関する考え方、生き方などの軸を考え抜いた」ともいいます。

「何があっても変わらない軸になるものです。本当に血が出るほど絞り出すような気持ちで考え抜きました。いろんな資料を見て、いろんな話を聞きに行って。そうして自分なりの軸ができると、歴史上ビジネスで成功した人物がなぜそういう行動をとってきたのかといったことが、すっと腑に落ちた。その頃から上司とのコミュニケーションも一気に加速しました」

ポリシーを決めたことでおのずと行動も決まり、信頼と評価がついてきたのではないか、とAさんは分析しますが、一方で、こうしたポリシーは「考え抜かないとブレる」ともいいます。

「ブレる誘惑なんて、山のようにあります。揺さぶりや批判。そんなことにいちいち右往左往していたら、結局は信頼なんてされません」

「他者からの指摘」は受け止める

他責にせず、ポリシーに沿った行動をするようになって新しい部署でも信頼と評価を徐々に高めていったAさんですが、その過程では上司だけでなく、周囲や部下からも厳しい指摘を受けたことがあるといいます。

「お互いに間違ったことをしたり言ったりしていないけれど、ちょっとしたことで行き違いそうになることってありますよね。ブレるものかと力が入りすぎていたのか…そういうときですかね。でも、それは自分の責任ですから。きちんと受け止めて、直すべき点は直すようにしました」

指摘にムッとして相手のせいにしているようでは、昔の上司と同じ――Aさんにはそういう思いもあったのかもしれません。

「話を聞かせてもらえる年長者」を作る

Aさんは日常からヒントを得ることも大切にするようになったといいます。ヒントを得るためにしていることのひとつが「年長者の話を聞きにいく」というもの。「特にテーマを決めているわけでも、直接的な答えを求めるわけでもないんですが、お話の中から自分の中にある課題のヒントを拾えることがあるんです」

無理に成果を出そうとせず「指先くらいの小さなヒントが拾えたらラッキーくらいに思っているのがいいのかも」とAさんは話します。

おわりに

Aさんのケースではいったんは評価を下げられたものの、見直すべき点を見直し、自分なりの努力を積み重ねた結果が認められ、部長昇格にまでつながったといえそうです。Aさんは「周りの人にたくさん支えてもらったからですよ」といいます。それも、Aさん自身が課題を乗り越えたからこそだといえるのではないでしょうか。

LIMO編集部