2017年第4四半期に注目点として挙げていたポイントのうち、米国税制改革で大きな動きが出てきましたので、今回はそれを振り返っていきたいと思います。

税制改革への期待と警戒感

米議会での審議が進展し、税制改革法案が可決、トランプ大統領による署名も速やかに完了しました。

今回の税制改革の目玉は、法人税を35%から21%へ引き下げることです。米国企業が海外で得た利益の大半について非課税となる税制改正も含まれます。そして、米国企業が海外に留保した利益を米国に戻す際には、1回限りの課税が行われ、税率は現金・流動資産で15.5%、固定資産で8.0%となります。

2025年までの時限措置ではありますが、個人所得税率も引き下げられ、基礎控除引き上げや子供の税優遇措置拡大なども盛り込まれました。

この新税制は2018年から適用されます。結局のところ、当初からトランプ政権が掲げていた減税案は、税率の違いこそあるものの、議会共和党によってほとんどが実現したことになります。中間選挙を控え、危機感が議会共和党を税制改正案成立に動かしたのでしょう。

トランプ政権と共和党は、税制改革法案は景気をさらに押し上げ、企業がより多くの雇用を生み出すことになると主張しています。一方で、労働市場は求人募集件数でも過去最高水準に近い状態で、米連邦準備制度理事会(FRB)をして「完全雇用状態に近い」という状態が続いています。

景気の状態が良く、労働市場の引き締まりが継続する中、上述の通り財政政策が景気刺激策として発動されることになります。そうなると、求職者の不足から、賃金上昇の懸念も頭をよぎります。2018年の平均賃金の伸びは、3%を超えてくるとの見方も一部で出始めています。

緩やかな成長と低インフレによる物価の安定という適温経済(ゴルディロックシナリオ)の継続という株価を支えてきた前提が揺らぎ、警戒感が強まることも考えておく必要があるでしょう。

2018年の金融政策はどうなる?

加えて2018年の米国金融政策は、なかなか難しい判断を迫られるのではないかと筆者は推測しています。

今回の米国政策金利上げの局面は2015年12月に始まり既に5回を数えています。FRBは2018年も、さらに3回の利上げを実施する見通しを示しています。これは市場の予想を上回るものです。

前述の通り、税制改革も実施され、景気刺激策が採られますので、金利が市場の予想より上昇するというシナリオも想定しておくべきでしょう。

FRBは、2015年12月に始まる5回の利上げを緩和的な金融政策のスタンスから中立的なところに戻すという説明に終始してきましたが、2018年も同様の「中立的な政策」との説明では済まなくなると思います。その意味で、FRBの金融政策の舵取りは難しいものになっていくことでしょう。

米国企業の中には、米国の税制改革の成立を受けて、一時金の支給や追加投資策の実施を表明するところも出てきました。税制が米国経済の成長率をどれくらい押し上げていくことになるか、市場は今のところ控えめな評価が多いですが、心理的な効果も加味すると、振れが出てくると思われます。

1月のトランプ大統領による一般教書演説の内容に、インフラ投資計画が加わるとの観測もあります。2018年第1四半期は、財政出動による景気刺激効果を市場がどう消化していくかに注目していきたいと思います。

ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一