2018年に、日銀が金融超緩和からの出口戦略を検討し始める可能性があると、久留米大学商学部の塚崎公義教授は予想しています。

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黒田日銀総裁がインフレ率2%を目指して懸命に金融を緩和して5年が経ちますが、いまだにインフレ率は高まってきません。日本銀行は、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続するという「オーバーシュート型コミットメント」を導入していますので、出口戦略は遥かな遠い将来のことだと思っている人が多いでしょう。

しかし、筆者は年内に出口戦略が検討され始める可能性があると考えています。もちろん、ビックリ予想ですから「必ず開始される」などと言うつもりは毛頭ありませんが(笑)。

インフレ率2%以下でも出口戦略を検討か

日本銀行法第二条は、「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」と定めています。つまり、国民経済の健全な発展が日本銀行の目的なのです。その手段として物価の安定を図ることが求められているわけです。

現在の日本経済は、景気が良く、雇用情勢は絶好調で、健全に発展しつつあります。そうであれば、インフレ率2%にこだわる必要はありません。現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」には、様々な副作用が指摘されていますし、量的緩和を続ければ出口戦略が困難になることも容易に想像されますから、早めに出口に向かった方が良い、という論者も(筆者を含めて)大勢いるのです。そのあたりのことは、別の機会に。

現在の日銀の審議委員の顔ぶれを見ると、可能性が大きいとは思えませんが、日銀総裁が交代されたタイミングで「景気は十分回復したので、異常な金融政策を少しずつ正常なものに近づけていきたい」と宣言する可能性はゼロではないでしょう。

欧米では、物価上昇率が目標に届かなくても出口に向けた歩みを始めているのですから、日本も追随することは十分可能です。2%目標を廃止すると円高になりかねませんから、2%目標は「将来に向けて長期的に達成すべき目標」と再定義すれば良いでしょう。

予想インフレ率が上昇して2%が視野に入る可能性も

筆者は、インフレを予想しています。労働力不足が深刻化しているため、「値上げをして利益を稼ぎ、それで省力化投資をしよう、賃上げをして労働力を確保しよう」と考える企業が増えているからです。

ヤマト運輸が労働力不足を理由に値上げをした時、ライバルは追随値上げをしました。ライバルも労働力不足で苦しかったからです。

重要なのは、業界全体が値上げをしても、業界全体の客数はあまり減らず、したがって各社の客数も減らなかった、ということです。そうなれば各社は再値上げを検討するでしょう。もしかすると、「他社より値上げ率が低いと、他社の荷物が当社に流れ込んで、処理できなくなってしまう。他社より値上げ率を高くしなければ」といった「値上げ競争」が始まるかも知れませんね(笑)。

各社は、「値上げして稼いだ利益で省力化投資を行ない、賃上げを行って異業種から労働力を引き抜いてこよう」と考えるはずです。そうなると、異業種も労働力を引き抜かれてはたまりませんから賃上げを迫られるでしょう。その分だけ値上げする企業も増えるはずです。そして、異業種でも宅配便業界と同様に、「値上げしても客数が減らなかったから、再値上げをしよう」という動きも広がるかもしれません。

「働き方改革」でサラリーマンの残業時間が短くなれば、その分だけ労働力不足は加速します。「わが社は残業が短いです」という宣伝が新卒採用市場のキーワードになれば、各社が人材確保のために残業削減競争に走るかもしれません。労働力不足が各社の残業を減らし、日本経済全体としての労働力供給を減らしてしまう可能性もあるわけです。

専業主婦のパートは年収の壁がありますから、「時給が上がると働く時間を短くする」というケースも多いので、「労働力不足になればなるほど時給が上がって労働力の供給が減り、さらに時給が上がる」ということも起こり得るでしょう。

今年中にインフレ率が2%にいくとは思いませんが、上記のようなことを考えると、年末頃には「そろそろ出口戦略のことも考えて始めておきましょう」といった雰囲気になる可能性は否定できません。

ちなみに、筆者のインフレ予想に関しては、拙稿『ヤマト運輸の値上げはインフレの号砲』を併せてご覧いただければ幸いです。

予想外の出来事の可能性も

予想外の出来事としては、大地震によるインフレが考えられます。大都市を大地震が襲えば、復興のための資材も人材も猛烈に不足して激しいインフレになるでしょうから。

北朝鮮関係では、日銀の金融引き締めは考えにくいですが、トランプ米大統領とアラブ諸国が本格的に対立すれば、石油ショック的なことは起こり得ますね。

まあ、予想外の出来事については「トンデモ屋」の得意分野ですから、筆者は参戦しないことにしておきましょう(笑)。

本稿は以上ですが、インフレや金融政策などの基本的な事項は拙著『一番わかりやすい日本経済入門』をご参照ください。

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塚崎 公義