地方には不動産価値の伸びしろがある都市も

日本国内の不動産は、資産価値という意味では一部を除いて「先行きは明るくない」という見方が大勢かと思います。総人口が減る上に、新築住宅を建てすぎて供給過剰、空家が増えて家賃も上がらない。

都市圏では生産緑地法改正により土地の需給バランスが崩れるという2022年問題、地方では買い手も借り手もつかず固定資産税負担だけ嵩む「負動産」と、巷には資産価値毀損のニュースに溢れています。

でも不動産はローカルな存在ゆえ、全国一律に没落していくわけでありません。日本全国にアンテナを張って探せば、今後、街が活性化して、不動産価値の上昇が十分見込める都市も相当数あると考えます。

3大都市圏以外では、たとえば金沢市を不動産的に伸びしろある都市として私は高く評価しています。その背景には、「インバウンド観光需要の成長余地」があります。

人気観光地として注目される金沢市

日本人の人口は減っても、以下のように外国からの観光客入り込みはここ5年で4倍近くの爆増ぶりです。

622万人(2011)→ 836万人(2012)→ 1036万人(2013)→ 1341万人(2014)→ 1974万人(2015)→ 2404万人(2016)

従来は、東京~箱根・富士山~京都・大阪の「東海道ゴールデンコース」が外国人観光の主流でしたが、ここ数年は行き先が多様化しています。

日本的な文化伝統に触れられ、博物館、美術館、日本庭園、グルメ、温泉など観光資源が豊富。かつ北陸新幹線によって交通アクセスが大幅に改善した金沢市も、近隣アジア諸国や欧米の観光客に愛される人気観光地の1つになりつつあります。

現状、金沢を代表とする石川県の訪日観光客シェアは、北陸3県のなかでは健闘しているとはいえ、まだ全国の2%程度(2016年の推計で48万人)。

以下に挙げるような、世界から見た金沢観光の注目度の高まりから考えれば、伸びしろは非常に大きく、近い将来、訪日客の10%が金沢を訪れても不思議ではないと私は思います。

  • 旅行雑誌「トラベル・アンド・レジャー」ウェブ版「2017年に訪れるべき都市50選」で、日本からは唯一、金沢が紹介されている(出所:50 Best Places to Travel in 2017, Travel+Leisure)
  • 一度は訪れたい。世界、魅惑の30の駅」で、金沢駅が東アジアで唯一、17位にランクインしている(出所:30 of the Best Train Stations in the World, The HostelBookers Blog)

宿泊施設の選択肢として浮上する「町家」

金沢インバウンド観光が全国と比べて際立つ特徴は、欧米系の旅行客が多いこと。石川県を訪問する欧州、米国、豪州旅客のシェアは全体の27.6%と、全国平均の13.4%を大きく上回ります。金沢の持つ文化的魅力が欧米人に支持されているのでしょう。

その中で、外国人(特に欧米人)向けの宿泊施設として、通常のホテル以外にも「町家」と呼ばれる日本家屋を改修した旅館・民泊の人気が高まっています。

京都の町家民泊はすでに有名ですが、金沢も京都に負けず劣らず、町家が数多く残る都市として知られています。その建築様式や意匠の多様性に関しては京都を凌ぐという説もあるほどです。

観光で盛り上がる金沢市街地では、現在ホテル用地の争奪戦状態。また、旅館・民泊として営業できそうな町家も、売りに出れば瞬間蒸発するほどで、取引価格も上がっています。

それでも、土地建物に改修費込みで1~2千万円台で出るものも多く、京都市内の町家に比べれば数分の1の水準。仕入れが安い分ネットの見込収益が10%に達する案件も多く、まだ伸びしろがあると言えます。

私が代表を務める資産管理会社でも、金沢の将来性に注目して、徳田秋声の小説『町の踊り場』に出てきた築115年の由緒ある町家を買ったばかり。今後は、金沢の歴史的景観を守り育てながら、町家旅館として収益も上げていきたいと思います。

【データ出典】
日本政府観光局(JNTO)「2017 訪日外客数統計
石川県観光戦略推進部「統計からみた石川県の観光 平成27年
訪日ラボ「石川県のインバウンド事情

鈴木 学