日銀はインフレ率2%にこだわらず超緩和を止めよ

効果は薄く副作用のある金融政策

日銀は、インフレ率が2%を超えるまで金融の超緩和を続ける模様ですが、久留米大学商学部の塚崎公義教授は、超緩和を止めるべきだと主張しています。

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黒田日銀総裁がインフレ率2%を目指して懸命に金融を緩和して5年が経ちますが、いまだにインフレ率は高まってきません。日本銀行は、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続するという「オーバーシュート型コミットメント」を導入していますから、当分の間は超緩和が続く可能性が高そうです。

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しかし筆者は、超緩和は効果が薄い上に副作用もあるので、早期に止めるべきだと考えています。そう考える理由を以下に記します。

超緩和は効果が薄い

不況期の金融緩和は、そもそも効果が薄いので、金融政策は紐だ、と言われています。紐で引く(金融引締で景気を悪化させてインフレを止める)ことはできても押す(金融緩和で景気を回復させる)ことはできない、というわけです。景気が悪くて工場の稼働率が低い時に「金利を下げたから工場を増設しましょう」と言われても、従う人は少ないですから。

まして、金利がゼロの時の量的緩和は、効果が薄いはずです。日銀が長期国債を大量に購入して長期金利を押し下げる効果はあるでしょうが、もともとゼロ金利時には長期金利はそれほど高くありませんから、設備投資を増やす効果は限定的でしょう。

今回のアベノミクスで金融緩和が効いたのは、「偽薬効果」によるものでした。投資家たちが「黒田緩和によって世の中に資金が出回れば、株やドルが値上がりするだろうから、その前に買っておこう」と考えて株やドルを買い、それによって株やドルが実際に値上がりして景気を回復させたのです。

しかし、実際には世の中に資金は出回らなかったのです。日銀に国債を売却して札束を受け取った銀行は、それを貸出に用いるのではなく、日銀に預金してしまったからです。したがって、実際には景気回復に効果があるはずのない政策で景気が回復してしまったことになります。このあたりのことについては、拙稿『アベノミクス5年の記念日に、不思議だった景気回復を振り返る』をご覧ください。

したがって、超緩和はこれ以上続けても景気を回復させる効果は薄いでしょう。世の中に資金が出回ったわけではなく、人々は既にそのことを知っているからです。緩和を止めると発表すれば、株価は少しは下がるでしょうから、多少の影響はあるかも知れませんが、限定的でしょう。

銀行の収益悪化で貸し渋りが始まるリスク

銀行は、超緩和で収益が悪化しています。ゼロ金利(実際にはマイナス金利)だと、預金部門のコストがそっくり赤字要因となります。融資等に必要な資金は、他行からゼロ金利で借りてくれば良いので、預金部門は不要なのですが、廃止してしまうと将来市場金利が高くなった時に困るので、廃止できないのです。

マイナス金利は、これとは別の方向から収益を直撃します。集まってしまった預金を日銀に預けるとマイナス金利だし、他行に貸そうと思っても他行は借りてくれないし、現金を金庫に積んでおくためには大きな金庫を買わなければいけないので、銀行は何としても貸出を増やしたいわけです。

しかし、金利を下げてライバルから客を奪おうとしても、ライバルも同じことを考えるので、客は奪えません。銀行業界全体としては、「全部の銀行が金利を下げたけれども客は増えず、各行の収益が圧迫されただけ」ということになるのです。

「金利を下げれば設備投資をする会社が増えて銀行貸出が増える」ことは稀ですし、他業界から客を奪ってくることも容易ではありません。牛丼の安売り競争であれば、ラーメン屋から客を奪ってくることも可能なのでしょうが、銀行業界はそうではないからです。

長期金利がゼロ%であることも、銀行には痛手です。「預金を集めて長期国債を買っておけば、長期国債が値下がりするリスクはあるものの、ある程度の金利は受け取れる」ということさえもないわけですから。

銀行が赤字になり、自己資本が減ってくると、「自己資本比率規制」によって銀行が「貸し渋り」をすることになりかねません。自己資本比率規制とは、大雑把ですが「銀行は自己資本の12.5倍しか貸出をしてはならない」という規制なので、自己資本が減った銀行は貸出を減らさなければいけなくなるのです。

ETFの大量購入で株式市場が歪む、等の問題も

日銀は、ETFという投資信託を大量に購入しています。日銀が直接株主になって上場会社の経営に口を出すわけではありませんが、日銀が大量に株を買うことによって、株価が本来あるべき値段より高くなってしまう、等々の問題が生じかねません。

日銀が国債を大量に購入していることで、財政赤字を削減しようという政府の意欲が削がれている、という人もいます。政府は「財政赤字を減らさないと、皆が政府の破産を心配して国債を買ってくれない」と考えるはずなのに、日銀が購入すると政府がそういう心配をしなくなる、というのです。

これについては、筆者は重要視していません。日銀が買わなければ、日本人投資家が喜んで日本国債を買うはずです。彼らは、日本国債を買わなければ米国債などを買うことになり、為替リスク(ドル安になって損する可能性)を抱えることになるからです。

超インフレのリスクが高まる、という人もいます。人々がインフレを予想すると、銀行預金を引き出して物を買います。銀行は、日銀に巨額の預金をしているので、それを引き出して顧客への現金支払いに使います。そうなると、物が売れて物の値段が上がるので、一層人々のインフレ予想が強まる、というわけです。銀行が日銀に預金をしていなければ、そうしたことは起きにくい、というわけです。

これについても、筆者はあまり心配していません。日銀は、インフレを防ぐ手段は数多く持っていますから。

出口戦略のリスクが高まる

日銀は、いつかは超緩和を止める必要があります。その際、経済に悪い影響が生じかねないので、悪影響を最小限度に抑え込むための工夫が必要となります。「出口戦略」です。超緩和が続けば続くほど、出口戦略が難しくなります。日銀が持っている国債等が増えれば増えるほど様々な問題が出口戦略に際して出てくるのです。そのあたりの話は次回。

本稿は以上ですが、金融政策や景気等々についての基礎的な事柄については、最近の拙著『一番わかりやすい日本経済入門』をご参照ください。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

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塚崎 公義


1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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(雑誌寄稿等)
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