誰もに訪れる死をどのように迎えるか

2017年11月、コマツ元社長の安崎暁氏(80歳)が「感謝の会」として開いた生前葬が、「終活」の1つのあり方として話題になった。

安崎氏は個人で新聞広告を出し、10月上旬に胆のうがんが見つかり、肝臓や肺などに転移し手術は不可能と診断されたことを報告。残された時間を「クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)」を優先し、副作用の可能性のある放射線や抗がん剤などの延命治療はしない考えを明らかにした。感謝の会には約1000人の関係者が集まり、明るく、楽しく行われたという。

人は必ず死ぬ。その最期をどんな形で迎えるのか。できれば苦しまずに、家族や親しい友人らに囲まれながら安らかに逝きたい、と願うのがふつうだろう。

逆に最も避けたいのは、「孤独死」ではないか。小さなアパートで独り、誰にも見守られず、息絶える。さらにそのまま放置され、アパートの住人が異臭に気づき、腐乱死体で発見される……。想像したくない姿だ。

孤独死は不幸なのか〜医師である著者の答えは?

日本では年間約130万人が死亡する。そのうち約3万人が「孤独死」と推計されているが、実際にはその2~3倍いるともいわれる。背景には単身世帯の増加がある。

婚姻率の低下で、生涯独身者も増えている。50歳まで1度も結婚をしたことがない人の割合を示す「生涯未婚率」は、男性23.37%、女性で14.06%(2015年の国勢調査)で、過去最高を更新。男性の4人に1人、女性の7人に1人が生涯未婚ということだ。

仮に結婚していても、夫婦のどちらかが先に死ぬわけで、結果的に独り暮らしになることもある。多くの独り暮らしの中高年が孤独死への不安を抱いている。

そんな不安をやわらげてくれるのが、本書である。孤独死は本当に不幸なのか、と著者は問う。答えは、「孤独死は、そんなに悪いものではありません。まあ、至福の境地とは申しませんが、最悪の事態でもないのです」。

著者は現役の医師だけに、人はどのようにして孤独死に至るのかという解説や、死後のトラブルを防ぎ、きれいに孤独死するために必要な準備や心構えについて具体的に記す。実用的で、文字通りガイドブックである。

また、副題に「一人で生きて死ぬまで」とあるように、そもそも独身は不幸なのかという問題意識が著者にはある。そんなことは決してないというのが著者の考えで、自身も独り暮らしで孤独死に向けた準備をしているという。

筆者は孤独死は誤解されているという。孤独死には大きく2つのパターンがある。1つは、誰にも看取られずに独りで死ぬこと。もう1つは、死体がすぐに発見されず長期にわたって放置されることだ。この2つは別問題であり、それを防ぐ対策も、生じた時の対応も違うのに、同じ「孤独死」でくくられることに問題があるという。

一般に多くの人が心配するのは後者だが、これは孤独死が原因ではなく、死体の発見が遅れることが直接の原因である。だから孤独死そのものではなく、孤独死を早期に発見できれば防げる。

実際いろいろな仕組みがある。たとえば、ガスや電気の使用量をセンサーでチェックし高齢者の安否確認を行うサービスなどのほか、高齢者向けの宅配弁当を利用するといった手もある。

「足るを知る」生活と心穏やかな独り暮らし

高齢の独り暮らしは、経済的な不安も大きい。年金の受給開始年齢は引き上げられるし、金額もすずめの涙。貯蓄も心もとない。メディアでは老後破産や下流老人といった言葉が踊り、不安を増幅させる。そこで著者は老後も何らかの形で働き続けることを提案するとともに、身の丈に合った生活、「足るを知る」ことが大事だと述べる。

具体的に「シンプル・ライフ」の具体的な生活費を概算している。食費は1日1000円(1カ月3万円)。高齢者は必要な栄養摂取量も少ない。お手軽簡単レシピなども載っている。家は首都圏の郊外ならば古い賃貸アパート(ワンルームや1K)が4万円くらい。水道・光熱費や通信費が1~2万円として、1カ月8~9万円あれば最低限の生活ができる計算だ。

娯楽は、図書館で本や映画、音楽などのソフトを借りればタダだ。年を取れば田舎より都会が住みやすいという著者の主張も納得だ。都会では他人の目を気にしなくていいし、歩ける距離にたいていのものがあるので車もいらない。

と書いてきたが、本書は「孤独死」をすすめているわけではない。孤独死にまつわる誤解や不安を減らし、いざとなれば孤独死でも悪くないという心持ちになれば、独り暮らしでも少しは心穏やかに過ごせるだろうということ。

結果的に家族や友人知人に見守られながら死ぬとすれば、もちろんそれはけっこうなことである。50代目前の未婚の筆者も少し気が楽になった。

孤独死ガイド 一人で生きて死ぬまで
松田ゆたか 著(幻冬舎)
1100円(税抜き)

田之上 信