日銀の出口戦略は、どのようなリスクがあるのか、久留米大学商学部の塚崎公義教授が解説します。

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日銀は、いずれは超緩和をやめる時が来ます。その時のことはその時に考えれば良いのかもしれませんが、筆者はそうは思いません。現在の金融政策を評価するためには、出口で起こり得る混乱の大きさも考える必要があるからです。

長期国債が暴落する

世の中のインフレ率が2%を超え、日銀が出口を模索し始めるということは、ゼロ金利が遠からず解除されるということです。

長期金利のゼロ状態が解除されるということは、日銀が長期国債を購入しなくなるかもしれません。現在は、金利ゼロの長期国債を購入しても、日銀が100円で購入してくれることがわかっているから投資家たちは安心して長期国債を購入していますが、日銀が買わないかもしれないと思った途端に投資家は怖くなります。

しかも、インフレ率が2%を超えているということは、長期金利が2%以上あることが自然ですので、長期金利はそこまで跳ね上がるはずです。そうなれば、金利ゼロの長期国債は暴落するでしょう。

そこで、投資家たちは、日銀が出口戦略を検討し始めたという噂が流れた途端に、国債を一斉に売却します。10年物国債は発行済のすべての国債が一気に日銀に売りつけられることになるでしょう。年限がそれより長い国債は、文字通り暴落するでしょう。

設備投資需要が急増してインフレが加速する

長期金利が急上昇することが容易に予測できる時には、企業は借金をして設備投資をするでしょう。家計も借金をして家を建てるでしょう。景気が良く、インフレ率が上昇している時に、大量の工場や家が建てられるとすれば、インフレを加速するでしょう。

通常であれば、景気が回復してインフレの足音が聞こえると、長期金利が上昇して設備投資等を抑制するのですが、日銀が長期金利をコントロールしているため、むしろ駆け込み需要を喚起してインフレを加速してしまう、というわけです。

しかも、それは需要の先食いですから、建設が一巡した後は、景気が腰折れするかもしれません。金融政策による景気の舵取りは極めて難しいものとなるはずです。

そうしたことを考えると、長期金利をコントロールするという現在の政策は、問題が多いように思います。そうはいっても、今から撤回することは難しいのでしょうね。金融緩和が後退した印象を与えかねませんし、撤回の仕方も難しいです。

いきなり撤回すると、約束を破ったことになりかねません。「10年債はいつでも日銀に買ってもらえる」という市場の信頼を裏切ることになりますから。

そこで筆者は、以下の宣言をすべきだと考えています。「長期金利の目標を、0%と0.1%の間と定める。この幅の下限は0%に固定したまま、上限を2カ月ごとに0.1%ずつ引き上げていく。本当の出口を迎えた時のショックを和らげるための、ウォーミングアップである」。

市場実勢が上限を下回るようになれば、「長期金利については日銀は関与しない」と宣言すれば良いのです。出口戦略における長期国債市場の混乱を考えると、長期金利の目標だけでも早期に撤廃(実質無効化)しておくべきだと考えている次第です。

なお、筆者の案は、現在の政策の誤りを認めることにもなりかねないので、新しい日銀総裁が就任したタイミングでの発表が望まれます。

日銀が債務超過になる

日銀は巨額の国債を持っています。その大半が、金利ゼロです。一方で、負債は銀行から預かっている準備預金です。これも、金利はほぼゼロです。

インフレになり、日銀が超緩和を解除すると、日銀が保有している長期国債が暴落することになります。日銀がこれを時価評価すれば債務超過になります。簿価で評価し続ければ、ただちに債務超過に陥ることはありませんが、それでも時間の問題で債務超過になるのです。

インフレ率が2%になると、人々の「買い急ぎ」を防ぐために、日銀は準備預金に利子を払う必要が出てきます。資産が金利ゼロの国債なのに負債に金利を払えば、債務超過になるわけです。

もっとも、これは政府が日銀の増資を引き受ければ良いだけの話なので、たいしたことではありません。日銀が超緩和をしていなかったら、どれくらいの利払いが必要であったかを考えれば、日銀の増資を引き受ける資金など惜しむべきではありません。

日銀が債務超過に陥っても、事態が正常化すれば日銀は自然と利益が得られますから、時間をかけて債務超過を消すことも可能です。自分で印刷した紙幣で国債を購入すれば、国債の利払いが受けられるのですから、楽な商売です(笑)。

このあたりのことは、拙稿『日銀が債務超過になりそうだが、大丈夫か』をご参照いただければ幸いです。

ETFの売却で株価が下がる

日銀は巨額のETFを保有していますから、これは少しずつ売却していく必要があります。長期国債は持っていれば満期が来て償還されますが、ETFは満期がありませんから。そこで、日銀が売ると株価が下がることが懸念されます。

もちろん、時間をかけて少しずつ売って行くのでしょうから、それほど大きな影響はないと信じたいですが、「長期にわたって巨額のETFの売り物が出続ける」ということが、市場参加者のマインドを冷やしてしまうことは否定できないでしょうね。

超緩和の長期化で出口の混乱は増すのか

上記は、出口戦略の難しさを示唆していますが、超緩和が明日終わる場合と、10年後に終わる場合とで、出口戦略の難しさは異なるのでしょうか。

長期金利のコントロールをやめることで長期国債が暴落するリスク、設備投資需要等が先食いされてインフレが加速するリスクについては、超緩和の出口の時期が影響することはないでしょう。いつ出口を迎えても困難なはずです。もちろん、上記の筆者案で今から出口の困難さを緩和していけば別ですが。

日銀の債務超過については、日銀が巨額の国債を持てば持つほど債務超過額は大きくなっていくはずですから、超緩和の長期化は出口の混乱を増しかねません。政府が日銀の増資を引き受ける場合でも、日銀の債務超過を放置する場合でも、野党やマスコミの批判は厳しものとなるでしょうね。

超緩和が長期化すれば、「政府が超緩和のおかげで払わずに済んだ金利」も増えて行くのですが、野党やマスコミは、そうした事情は考慮しないでしょうから。

悪くすると、日銀の増資が政争の具に使われてしまい、市場が「日銀が債務超過になると円の信用力に傷がつく」と考える可能性があります。それによる市場の混乱は、日銀が抑え込むことが難しいでしょうから、厄介なものとなるでしょう。

日銀保有のETFが増えていくことについては、出口の混乱を増す要因に違いありません。将来売りに出されるETFの量が多いほど、市場参加者のマインドを大きく冷やすでしょうから。

本稿は以上ですが、金融政策や景気等々についての基本的な事項は拙著『一番わかりやすい日本経済入門』をご参照ください。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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塚崎 公義