財務省は国の赤字を家計の赤字にたとえるな!

国と民間の「連結決算」で見てみよう

財務省は財政の危機的状況を訴えていますが、久留米大学商学部の塚崎公義教授は、財政赤字を家計の赤字にたとえることに反対しています。

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緊縮財政を急ぎたいと考える財務省は、国民に危機感を持たせたいのでしょうが、国の財政を家計の赤字にたとえた説明をして、国民をミスリードするのは問題です。

財政赤字を家計にたとえるのはミスリーディング

財務省は、「我が国の一般会計を手取り月収30万円の家計にたとえると、毎月給料収入を上回る38万円の生活費を支出し、過去の借金の利息支払い分を含めて毎月18万円の新しい借金をしている状況です。家計の根本的な見直しをしなければ、子供に莫大な借金を残し、いつかは破産してしまうほど危険な状況です」としています(日本の財政関係資料、平成29年4月)。

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しかし、家計の赤字と国(日本国という意味ではなく、地方公共団体と区別するために中央政府を国と呼んでいる)の赤字は全く違うものですから、両者を同一視することはできません。

我が家が家計を改善するため、旅行計画を中止したとします。我が家の家計は改善する一方で、旅行会社の利益は減り、旅行会社の社員の給料は減るでしょうが、そんな赤の他人のことは知ったことではありません。我が家の家計が黒字になることが重要なのです。

しかし、国の場合は違います。国が財政赤字を削減するために公共投資を中止したとします。建設会社は国にとって赤の他人ではなく、大切な国民です。建設会社が赤字になったり社員が失業したりすれば、大切な国民が困るだけではなく、税収も減りかねません。下手をすると、景気対策を求められて財政赤字がむしろ拡大してしまう可能性もあります。

架空の家庭を想像してみよう

チョッと不思議な、架空の夫婦を想定してみましょう。孤島に住む夫婦は自給自足しています。夫は家を所有していて、妻から家賃を毎月30万もらっています。家計の支出は毎月48万です。毎月18万不足するので、その分は妻から借金をしています。

48万の内訳は、家事労働の対価として妻に払う給料が38万、妻から借りている莫大な借金の金利支払いが10万です。自給自足ですから、夫婦間で金のやり取りをしているだけですね。

夫は妻から巨額の借金をしていますが、いつかは家賃を値上げすれば良いわけですし、数十年すれば子供に自分の借金と妻の融資が相続されてチャラになるわけですし、焦る必要はありません。妻が「返して」と言ってくることもなさそうです。

妻が持っている金融資産は建てですが、は家族間でしか通用しない通貨なので、妻には返してもらうインセンティブがないのです。

妻が「もう貸さない」という可能性はあります。妻が貸してくれないと、夫は妻への支払額を減らすため、頼む家事の量を減らします。夫が「妻からの借金が多すぎるから、妻への支払いを減らそう」と考えても同じことになります。

夫は、妻が家事の手を抜くので、不味い料理を食べることになります。妻は稼ぎが減りますし、労働の充実感も減ってしまい、「暇つぶしに昼寝でもして人生を無駄に過ごす」ことになりかねません。それは夫婦二人を不幸にするだけですね。

そうした事態を避けるため、夫としては、それほど必要のない家事でも妻に頼んで、妻の人生を充実させてあげるほうが良いでしょう。その結果として夫が妻から借りる金額が増えたとしても、夫婦合計の幸福度が高まるなら、そうすべきです。

夫が借金を減らしたいならば、家事量を減らすのではなく、家賃を上げれば良いのですし、何もせずに子供に相続されてチャラになるまで待っても良いのです。

夫を国の財政、妻を民間部門だと考えてみよう

上記の「夫」を「国の財政」に、「妻」を「民間部門」に置き換えてみましょう。国は民間から毎月3兆円の税金を徴収し、4.8兆円の歳出を行っています。毎月1.8兆円だけ不足するので、その分は国債を発行して調達しています。

国債を買っているのは、国内民間部門です。4.8兆円の内訳は、国内民間部門への通常の歳出が3.8兆円と、過去に発行した国債の利払いが1兆円です。つまり、鎖国しているので、金は国内で行き来しているだけなのです。

実際には貿易等の取引も行われていますが、経常収支が黒字なので、本稿では簡単にするために鎖国だと考えても問題ないでしょう。政府または民間部門が海外から巨額の借金をしている場合は様々な問題が生じ得ますが、そうではないので。

政府としては、いつか増税すれば良いのですし、そうでなくとも数千年経てばすべての問題は解決するので、焦る必要はありません。一人っ子と一人っ子が結婚して一人っ子を産むことで日本人が減り続け、最後の一人がすべての資産と負債を相続することになるからです。

民間投資家が国債を売却することはなさそうです。売却した代金で米国債を買うことはできますが、そうなると為替リスクを抱えてしまうので、それよりは黙って日本国債を持っていた方が安心ですから。

民間投資家が新発国債を買わなかったり、政府が緊縮財政策をとったりすれば、民間部門の失業が増えてしまいます。失業というのは、労働力を無駄に捨てることですから、それよりは無駄な道路でも作った方がマシであり、そのための財政赤字はやむを得ないでしょう。

重要なことは、国と民間の「連結決算」で見ること

国の借金が大きくても、民間部門から借りているならば、数千年後にはゼロになります。それなら、国と民間の連結決算で考えて皆が最も幸せになれるような選択肢を選ぶべきです。「政府が民間から巨額の借金をする」のと「緊縮財政で大量の失業者が街にあふれる」のと、どちらが政策として優れているか、筆者には自明に見えるのですが・・・。

余談ですが、数千年も待たなくても、増税のタイミングはきっと来ます。筆者としては、少子高齢化による労働力不足が深刻化する10年後には増税のタイミングが来ると考えています。「増税をして景気が悪化しても失業者が増えない」なら気楽に増税できるからです。

一方で、性急な財政再建で景気を殺してしまっては元も子もありません。景気は「税収という金の卵を産む鶏」なのですから。

本稿は以上ですが、財政や景気等々についての基礎的な事柄については、最近の拙著『一番わかりやすい日本経済入門』をご参照ください。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

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塚崎 公義


1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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(雑誌寄稿等)
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