仕事で上司に頑張って説明したのに、家でパートナーに面白い話をしたつもりなのに、「で、何が言いたいの?」とか「あなたの話、わかりにくいんだよね」と言われた経験はありませんか?

 物事を筋道立てて考える「ロジカルシンキング(論理思考)」は、いまやビジネスの必須スキルのひとつと言われています。ここでは、『問題解決のためのロジカルシンキング』の著者、生方正也さんが、そのコツを解説します。

筋道立てて考えるための2つの基本

 みなさんの中には、会社でロジカルシンキングの研修を受けたことのある方もいるかもしれませんが、人によっては「難しそう」「堅苦しい」「時間がかかりそう」といったイメージもあるようです。

 実際には、ロジカルシンキングは、とてもシンプルで、柔軟で、スピーディな行動につながります。そして、そんなロジカルシンキングには、「2つの基本」があります。

1.「目的」をはっきりさせる

2.「枠組み」で考える

 それぞれ順に説明していきましょう。

1.まずは「目的」をはっきりさせる

 仕事をしていると、「どうも相手と話がかみ合わない」「話があちこちに飛んで議論が進まない」ということも多いかもしれません。ロジカルシンキングの第一歩は、「考える目的」を押さえることです。ビジネスシーンのように、結果が求められるような場面ではなおさらです。解決策を考えるにしろ、説得するにしろ、そもそも何を解決するのか、何を説得するのかがはっきりしていなければ、ロジカルに問題を解決したり説得したりすることもできないでしょう。

 相手と話がかみ合わなかったり、議論が進まなかったりするときは、多くの場合、「目的がはっきりしていないこと」が原因です。目的が別のものにすり替わったり、一部の目的しか見ていなかったりするときにも、同じ状況に陥ってしまいます。

 もちろん、最初から目的を間違ってしまうことは、あまりありません。しかし、いつの間にか目的のすり替えが起きたり、目的の一部だけに注目してしまったりすることがあるのです。そのため、何かを考え始める前には、「いまここで考えるべきことは何だろう?」というように、「目的の確認」を習慣づけることが必要です。

目的を押さえるためのヒント

 それでは、きちんと目的を押さえるためには、どんな点に注意すればよいでしょうか。ここでは、そのヒントを2つ紹介します。

(1)目的を達した後のことを考える

 目的とは、本来は「未来志向」のものになるはずです。たとえば、会議の目的は「会議が終わったあとで何かが実現できるようになっていること」、資料作成の目的は「完成した資料を読んだ人がその内容を理解し、次の判断や行動につなげること」、顧客からのクレーム電話への対応の目的は「顧客と自社の認識の違いを解消し、顧客の持つ不満をなくすこと」です。

 このように、すべての活動の目的は、「それが首尾よく終わったあとの結果」にあるということを、常に頭に入れておきましょう。

(2)「立場」と「状況」を意識する

 たとえば、自社の商品に顧客からクレームがあった場合、「顧客と直接対応する人」と「商品開発する人」とでは、考える目的が違います。

 考える目的は、できるだけ具体的にする必要があります。そのために、自分はどの「立場」で目的を考えるのか、いまどのような「状況」に置かれているのかを明確にしなければなりません。これらを明確にすることで、目的を具体的にしていくことができるのです。

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2.「枠組み」で考える

 目的が明確になり、ロジカルシンキングを始める段階でひとつ注意していただきたいのは、「思いついたことを手当たり次第に挙げていくようでは、うまくいかない」ということです。そこで活用したいのが「枠組み」です。枠組みとは、考えるべきことをいくつかの大きな要素に分けたもの、つまり「考えるべき要素のセット」です。文章なら「起承転結」、生活なら「衣食住」、感情なら「喜怒哀楽」、野球なら「走攻守」といったものが代表的です。

 仕事の中で、枠組みとして活用すると効果的なものが、ビジネス関連の「フレームワーク」と呼ばれるものです。たとえば「マーケティングの4P」と呼ばれる、製品(Product)、価格(Price)、流通チャネル(Place)、プロモーション(Promotion)などは、聞いたことのある方も多いかもしれません。

枠組みをつくる3つのコツ

(1)大くくりにする

 枠組みは、大くくりにしてとらえるのが有効です。考えようとしていることをはじめから細かくとらえようとすると、細部にとらわれて、ヌケやモレが生じてしまいます。そうならないためにも、まずは3~5つ程度の大きなくくりで考える必要があります。

 細かいポイントがいくつも挙がったら、いったんそれを3~5つ程度にまとめてみる。まとめたものが5つを超えるようだったら再度3~5つ程度にまとめる。こうしたことを丁寧に繰り返していくと、次第にしっかりした枠組みが出来上がっていきます。

(2)俯瞰する

 枠組みをつくるために有効な頭の使い方が「俯瞰する」ことです。ある事象を俯瞰したい場合は、「○○についての情報」と言い換えてみることが有効です。

 たとえば、上司から資料の修正を指摘されているとき、個々の指摘を一つひとつ丁寧に拾っていってもいいですが、「全体の構成についての指摘」「表現についての指摘」「グラフや表の使い方についての指摘」などのような形でとらえておけば、あとで上司からの指摘内容を振り返るときに混乱しなくなります。こうしたことができるのは、個々の指摘を俯瞰しているからに他なりません。

(3)絵にする

 文章を使わずに状況を表現してみることも、枠組みをつくるやり方のひとつです。これを「絵にする」と呼びます。ただ、絵心に富んだイラストを使う必要はまったくありません。一般に「ポンチ絵」と呼ばれるような、マルやバツなどの記号と文字だけで表現した模式図程度で十分です。

 考えたいことの全体を絵にしてみると、相手の説得に役立つだけでなく、自分の中で考えモレがないかを確認することができるようになります。

 たとえば、コミュニケーションにはどんな枠組みがあるかを考える際、別図に示すような絵が描けていれば、情報の「送り手」「受け手」「伝えたい内容」「コミュニケーションのチャンネル」「受け手の反応」というような枠組みを思い浮かべることができます。

 このように、まず「目的をはっきりさせて」から、「枠組みを用いて考える」ことで、思考の効率が一気に上がります。ぜひお試しください。

(『問題解決のためのロジカルシンキング』をもとに編集)

 

■ 生方 正也(うぶかた・まさや)

HRデザインスタジオ代表。東京大学文学部卒業。日産自動車、ウイリアム・エム・マーサー(現マーサージャパン)、グロービスを経て独立。人材開発・組織変革に関するコンサルティングや、ロジカルシンキング・仮説思考などの指導・著作活動を行っている。

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生方 正也