さらに社会問題化する高齢者の「孤独死」

「孤独死」について考えたことはありますか? 孤独死とは、一人暮らしの人が誰にも看取られること無く死亡することを言い、基本的に自殺は含まれません。生活中の突発的な疾病(心臓発作や脳出血など)によって死亡するケースもありますが、高齢者が持病の重篤化や老衰などでそのまま亡くなるパターンが「孤独死」のイメージではないでしょうか。

先般、国立社会保障・人口問題研究所が公表した今後の世帯数予測を見ると、現在既に社会問題化しつつある孤独死がより一層深刻になる可能性が高まっていると考えられます。

孤独死で亡くなる高齢者(65歳以上)は全国で年間4万人と推察

まず、現在の日本社会において孤独死で亡くなる高齢者はどれくらいいるのでしょうか。

内閣府の調査によれば、平成27年に東京23区内で65歳以上の一人暮らし死亡者のうち、自宅での死亡者数は3,127人となり、過去最高を記録しました。平成15年が1,451人だったので、12年間で2倍超に増加したことになります。

この東京23区内の孤独死データを基にすると、全国では3万5千人~4万人の高齢者が孤独死で亡くなっていると推察されます。平成29年の全国における自殺者が2万1千人(速報値)であることを考えると、孤独死の多さが理解できましょう。

ちなみに、平成27年の全死亡者数は約129万人だったので、高齢者による孤独死の割合は3%前後と推測されます。恐らく、直近の平成29年では3%を大きく超えているものと思われます。

2040年の高齢者の単身世帯数は約900万と推計予測

さて、前述した今後の世帯数予測によれば、65歳以上の単身世帯数は、

  • 2015年:6,253(32.6%)
  • 2020年:7,025(34.0%)
  • 2030年:7,959(37.4%)
  • 2040年:8,963(40.0%)

(注)単位:1,000世帯。カッコ内は65歳以上の全世帯数に占める単身世帯の割合。

と推計されています。基本的には、「単身世帯数=一人暮らしの人数」と考えていいでしょう。今から22年後の2040年には、65歳以上の総世帯数の4割が単身世帯となるわけです。このままでは孤独死する高齢者数が増加することは、容易に想像できます。

賃貸住宅に頼らざるを得ない高齢者は2040年に約320万人

そこで問題になるのが、孤独死を迎える自宅が持家なのか、それとも、賃貸住宅なのかということです。現在、日本の持家比率は約61%(全世代平均)ですが、過去の推移から見ても今後の大幅上昇は期待し難い状況にあります。

仮に、この持家比率が65%まで上昇したとしても、2040年には約320万人の高齢者が賃貸住宅暮らしということになります。これら高齢者を全て公営賃貸住宅で受け入れることは不可能に近いものがあり、大部分を一般賃貸住宅に頼らざるを得ないはずです。

一人暮らしの高齢者が賃貸契約を結ぶのは容易ではない

しかし、家主の立場になって考えると、一人暮らしの高齢者に貸すことは容易ではありません。連帯保証人がいたとしても、最大の理由は、いわゆる“孤独死リスク”です。

一般に、孤独死が発見されるのは死後数週間を経過した時と言われますが、現実問題として、体液が染み込んだ部屋は特殊洗浄が必要になり、多額の費用がかかります。しかも、現在の民法では、自殺でない場合、遺族や連帯保証人に対して損害賠償の請求ができません(一部は上限)。

賃借人が死亡して多額の費用を要したMさんの事例

最後に、以前に実例として紹介したMさん(50歳代前半)の後日報告を載せておきます(『マンション投資に潜むリスク、「室内での賃借人の死亡」の現実』)。Mさんは所有するワンルームマンションを賃貸していましたが、賃借人(40歳代前半)が何らかの急性発作により室内で死亡、10日後に発見されました。

Mさんによれば、特殊洗浄費用に約60万円を要し、Mさんの負担分は約45万円に上ったようです。Mさんの物件事故は高齢者の孤独死ではありませんでしたが、今後は高齢者に貸す場合に躊躇するのは避けられないだろうとのことでした。

“孤独死時代”に向けた保険や社会保障の整備が急務

昨今、こうした社会情勢に合わせた家賃保証や特殊洗浄費用負担など“孤独死保険”の類も登場していますが、まだまだ不十分です。今後迎えるであろう“孤独死時代”に備えた様々な社会保障の整備・強化が求められるでしょう。

孤独死なんか関係ないと思っている方々も多いと思いますが、直接的にも(ご自身が高齢になって孤独死)、間接的にも(前掲のMさんのような場合)、その影響を受ける日はもうすぐそこまで来ているのかもしれません。

LIMO編集部