先端基板で潤う装置・部材メーカー

MSAP/高精細FPC需要増で関連各社が増産投資

本記事の3つの注目ポイント

  • これまでパッケージ基板向けの製造技術であったMSAPがスマートフォンのマザーボード分野にも普及
  • 装置・材料メーカーにとって新たな事業機会が生まれ、三井金属などの配線板材料メーカーは積極的な増産投資を展開
  • 車載分野も電装化の進展で基板需要が拡大。FPCのほか5G時代を見据えた高周波基板の一気拡大が期待できそう
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iPhone Xには2枚のMSAP基板

 2017年のプリント配線板業界では、アップルのスマートフォン(スマホ)のメーンボード(メーン基板)に小型・高集積化を実現するMSAP(モディファイド・セミアディティブプロセス)技術が採用された。業界では大きなサプライチェーンの変更や技術革新が起こり、久々に盛り上がりを見せた。従来MSAPが適用されていた先端のアプリケーションプロセッサー(AP)やメモリー、モジュールなどの小型パッケージ基板とは異なり、大面積のメーン基板への展開により消費される部材(極薄電解銅箔、めっき薬品、ドライフィルムレジストなど)や装置(直接描画装置、検査装置など)の需要が一気に活気づいている。

 iPhone Xのメーン基板には、2枚のMSAP基板(10層板と8層板)が搭載され、L/S(ライン/スペース)30μm/30μm(以下30μmL/S)を実現している。全層にMSAPが採用されているわけではなく、このうち6層がMSAPを適用している。携帯電話の時代よりも基板面積を4分の1程度まで大幅に縮小しており、これにより電池容量を大幅に稼ぐことができ、半導体パッドの狭ピッチ化にも対応したため、高機能スマホの誕生に貢献しているのだ。

 今回のMSAPのメーン基板やリジッドフレキ基板市場の立ち上がりにより、直接描画装置(DI)をはじめ、関連する外観検査装置などの装置市場に加えて、キャリア付き極薄電解銅箔や高性能めっき薬品、2層FCCLなどの部材市場も潤っている。

 DI市場はメーン基板向けMSAPに対応して、細線化とアライメント精度を向上させたDI機市場がブレイクし、市場は過去最高の出荷増で沸き立つ。足元も好調で受注残を数多く抱え、企業によっては18年も前年比2~3割増の出荷を見込む。現在、需要は一段落しているものの、早晩、中国スマホメーカーが一斉にメーン基板への採用に動き出せば、次なるMSAP対応投資が活況を呈すことは間違いない。

 スマホメーカーは20年ごろまでこのMSAPを延命させていく考えで、メーン基板の細線化はMSAPで20μmL/Sまでを視野に入れている。18年モデルにも30μmL/Sを適用するが、19年以降は25~20μmL/Sが有力視されており、こうなると基板メーカーは18年末前後をめどにまた新たな投資に踏み切る可能性が出てくる。周辺部材・製造装置メーカーへの技術開発や投資拡大を誘発すると見られる。今後、アップルやサムスン電子などトップブランドのスマホメーカーによる新製品の開発動向を注視しておく必要がある。

 基板の設備投資は旺盛だ。特にトップベンダーのAT&Sは、以前から中国・重慶工場にサブストレートライクPCB(SLP)という名称で専用棟の建設を進めてきており、本格稼働に入っている。当初は歩留まり確保に苦労したようだが、ほぼ量産対応が完了したようだ。さらには、上海工場での立ち上げも完了した。また、キンサス、コンペック、ユニマイクロンなども17年以降から年間で2億~4億ドル規模の投資を断行するなど各社が大型投資に踏み切っている。

 ただし、製造技術のハードルが高く、当初は各社とも歩留まりの向上で苦戦を強いられた。その難しさの1つには、すでに実用化段階にあるMSAPによるFCCSPやメモリー基板とは異なり、ワークサイズの大判化が挙げられる。さらにメーン基板では30μmL/Sの微細な回路から70~80μmL/Sまでの配線幅が混在することも厄介な要因だ。また、配線の長さの問題を指摘する関係者もいる。特に最後のパターン仕上げ時のフラッシュエッチングといわれる工程で、めっき薬品との相性などにより配線形状に不良が発生して歩留まりの悪化を招くため、高度な生産管理技術が求められている。

 いずれにせよ各社は苦労している。余談だが、アップルの最新スマホ向けでは、当初有力視されていた台湾企業が脱落して事実上、AT&Sの独壇場になっているとの声が聞かれる。当初、“スーパーサブ”として期待されたイビデンは、AT&Sのバックアップとして控えていたようだが、AT&Sの急峻な歩留まり向上で出番がなかったようだ。なお、イビデンは今春発売されるサムスン電子向けのハイエンドモデルへのMSAP基板の納入が内定しているもようで、北京工場での増産対応を継続している。

材料業界が大幅投資を実施

 MSAPの場合、極薄電解銅箔を適用するケースが増えている。すでにFCCSP基板では三井金属のマイクロシン(キャリア付き極薄銅箔)が業界デファクトであるが、これが今回メーン基板にも採用された。同社は需要が急増するとみて、18年末までに都合3段階の投資に踏み切り、マレーシア工場を中心に増産中だ。生産能力を月産390万m²まで拡張し、16年時点から倍増する勢いだ。いかに急激な需要増を見込んでいるか想像がつくだろう。

急激な需要拡大が進むマイクロシン

 また、iPhone Xの主画面は液晶から有機ELパネルに切り替わった。ここでは実績のある韓国サプライチェーンが幅を利かせている。有機ELパネルはサムスンディスプレーが供給し、リジッドFPC(5層)は、主にインターフレックス、BH、ヨンプーンが主要プレーヤーだ。

 最新のスマホには二十数点ものFPC基板が採用されるようになった。さらには高速無線充電などの新たな機能が追加された。高速無線充電は大電流・放熱対応などが求められるため、厚銅(70μm厚)の電解銅箔のニーズも出てきた。

 新機能などの追加により搭載数量が増加しているため、高屈曲性と寸法安定性に優れる2層FCCLも需給が逼迫している。このため、2層CCL最大手の新日鉄住金化学は増産対応を進めてきており、年間生産能力を1200万m²体制に引き上げている。17年の販売は過去最高の1100万m²に達したとみられており、18年も綱渡りの需給状況が続きそうだ。中長期的にも需要増が見込まれるため、同社は現在の生産拠点である千葉ならびに九州に次ぐ第3の拠点整備の検討に入っている。

 今後のスマホでは、さらなる高機能・高信頼性が要求されるようになり、従来とは異なるHDI基板メーカーや材料・装置メーカーが入り込む余地がある。

 アップルに続き、サムスン電子は18年モデルからこのMSAPのメーン基板を採用すると言われており、さらに中国スマホメーカーが1~2年遅れで追随することになれば、基板や周辺部材・装置メーカーは新たな技術開発や生産能力の拡大を迫られることになろう。
 実際、三井金属鉱業では、新たにこうした動きが顕在化した暁には、第4弾のマイクロシンの大型投資に踏み切る構えも見せている。

車・5Gも需要を刺激

 さらに、クルマのEV化・自動運転などを視野に入れた電装化比率の増大により、基板需要が一気に拡大している。なかでもFPCの伸長に期待する声がある。「車載用途向けは、車載電子部品が安全化対策・ハイブリッド化・EV化の加速で、車の生産台数以上の成長が見込まれる。過去数年のCAGR(年平均成長率)は20%で、今後も15%以上の成長を期待できる」(MFインフォメーションの宮崎博明氏)と、低成長が当たり前の基板業界にあって、FPCのひときわ高い伸びを予測する。

 5Gなどの次世代通信規格対応の整備で、低伝送損失などの高周波用基板材料の開発も加速してきた。5GはLTEの約100倍の「超高速通信」を実現するIoT時代の基本通信インフラとも言われている。LTEの10分の1の「超低遅延」が可能となり、4K/8Kといった超高解像度動画のストリーミングなどが実現でき、IoT、自動運転、VR(仮想現実)、ドローン、ロボットなど、リアルタイムでクラウドと連携する次世代の通信規格だ。5GがIoT時代の通信インフラとなり、車やスマホをさらに進化させていく構図だ。

 このため、基板材料には伝送損失を少なくし、電気特性を向上させるニーズが高まる。パナソニックは、17年6月に「高熱伝導率・低伝送損失 ハロゲンフリー多層基板材料」を製品化している。スモールセルに搭載されるRFパワーアンプ用基板材料として、スモールセルの小型化や安定稼働に貢献するのが狙いだ。日立化成も低伝送損失の多層材料も開発済みだ。この分野では米ロジャースの材料がデファクトとなっており、その牙城を崩そうと日系材料メーカーも本腰を入れ始めた。

 その高周波用途市場においては日東紡が注目される。同社はプリント配線板の主要原材料となるガラスクロス不織布の原糸となる細番手ヤーンのトップサプライヤーで、同社しか製造できない型版もあるくらい、業界で名を馳せている。その部材が、スマホなどがますます高機能化していくなかで、軽薄短小ならびに高周波ニーズの高まりに伴い、ヤーンの極細径化製品ならびに低誘電特性が要求されるNEガラスなどの特殊なガラス製品の供給能力の拡大を求められている。そのため、台湾や国内の生産拠点で増産準備に追われているのだ。

 特に、三井金属や日東紡などの担当事業部では、いずれもその分野で圧倒的なシェアを誇るということもあって収益力が向上している。三井金属のマイクロシンが含まれる機能材料事業の17年度上期売上高は前年同期比14%増の806億円、経常利益は同2.3倍の140億円と大幅増益となった。高機能スマホ向けメーン基板に同社のキャリア付き極薄電解銅箔(マイクロシン)が本格採用され、業績拡大を牽引したためだ。

 日東紡も細番手ヤーンを擁する原繊材部門が好調に推移しており、その営業利益率は2割を突破している。大きな投資を継続しながらも高収益力を維持していく戦略だ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 野村和広

まとめにかえて

MSAPはパッケージ基板のなかでも、特にスマートフォン(スマホ)用プロセッサーのFCCSP(フリップチップ・チップサイズパッケージ)基板を中心に用いられていた製造技術。しかし、スマホ用プロセッサーの一部は「基板レス」のファンアウトパッケージ(iPhoneなど)に移行しており、パッケージ基板メーカーとしてはMSAP生産ラインの有効活用が1つの課題となっていた。そういった意味ではマザーボード分野への普及は、生産ラインを埋めてくれる「救世主」となってくれている点も見逃せない。記事にもあるとおり、iPhone以外の他スマホへの広がりが今後の焦点となりそうだ。

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