ダウが史上最大の下げ幅! 米好景気に潜む2つのリスク

利上げリスクが保護貿易懸念とオーバーラップ

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1月の米雇用統計が予想以上に強い数字となったことから、利上げペースの加速が警戒されて米株価が急落となりました。ただ、背景には米保護貿易への懸念もあるようで、今回は好調な米経済に潜む2つのリスクを整理してみました。

米好景気に潜む2つのリスク~保護貿易と利上げ

10-12月期の米国内総生産(GDP)成長率は前期比+2.6%と7-9月期の+3.2%から減速しました。ただし、柱となる個人消費は+3.8%と前期の+2.2%を大幅に上回り、3年ぶりの大幅増を記録したほか、国内最終需要も+4.6%と内需が力強く伸びています。

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内需の拡大で輸入が急増し、貿易赤字が拡大したことでGDPが1.13%ポイント押し下げられたほか、生産が消費に追い付かず、在庫の減少がGDPを0.67%ポイント押し下げています。

内需の高い伸びを踏まえると、米景気は“+2.6%”という数字以上に好調で、過熱感さえうかがわせる内容といえるでしょう。こうした中、1月の米雇用統計では雇用者数が前月比+20.0万人、賃金の伸びが前年同月比+2.9%と、ともに事前予想を上回ったことから景気過熱への警戒感に拍車をかけたようです。

ところで、CNBCが1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)を前に実施したフェドサーベイによると、ウォール街のファンドマネージャーらが現在最も懸念しているのがトランプ政権の保護貿易の動きであり、続いて利上げが景気にブレーキをかけることが挙げられています。

米雇用統計では堅調な数字が確認されたにもかかわらず、5日には1175ドル安の急落となりました。背景にはこの2つの懸念への警戒感が急速に広まったことがあるようです。

米保護貿易の動きが鮮明に、ドル安容認やセーフガード発令で

先月の24日、ムニューシン米財務長官が「弱いドルは国益」と発言し、ドルが一時急落しています。この発言に対し、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が「国際通貨基金(IMF)加盟国間の合意に反する」と非難したほか、麻生財務大臣も「貿易や国際競争力のために為替レートを目標としないことは20カ国・地域(G20)での合意事項」として適切な対応を求めています。

ムニューシン発言の前日、23日にはトランプ大統領が太陽光パネルと洗濯機に輸入関税をかける大統領令に署名し、緊急輸入制限(セーフガード)が発令されています。セーフガードの発令は2002年以来16年ぶりのことで、トランプ政権発足前から危惧されていた保護貿易への動きがいよいよ明確になっています。

セーフガードは世界貿易機関(WTO)でも認められていますが、今回はWTOルールではなく米国内法に基づく一方的な措置となっています。太陽光パネルは中国、洗濯機は韓国を念頭に置いた措置となっていますので、中国や韓国がWTOへ提訴して紛争に発展することが懸念されています。

米国は既に中国による知的財産権侵害の調査を開始し、関税による制裁の発動も視野に入れており、加えて鉄鋼やアルミ製品に対してもセーフガードを検討中ですので、今回のドル安容認発言やセーフガード発令は将来の貿易戦争の入り口に過ぎない恐れもあるわけです。

景気に過熱感、利上げによる景気のブレーキを警戒

1月FOMCの声明文では2%の物価目標の年内達成に強い手ごたえを伺わせる内容となりましたが、目標達成への自信は最近の経済指標に裏付けされています。

10-12月期の個人消費支出(PCE)物価指数は前期比年率で+2.8%と前期の+1.5%から倍近い伸びとなり、目標とする2.0%を一気に飛び越えています。また、基調的な物価の動きを示すエネルギーと食品を除いたコアPCEも+1.9%と前期の+1.3%から伸びが加速しており、2%は目と鼻の先にあります。

また、10-12月期の雇用コスト指数も前年同期比2.6%上昇と2015年1-3月期以来の大幅な伸びとなったほか、10-12月期の単位労働コストも前期比年率+2.0%と7-9月期の-0.1%からプラスサイドに転じています。これらの数字は、労働市場のひっ迫が賃金の上昇につながっている可能性をほのめかしています。

さらに、1月の雇用統計で賃金の伸びが+2.9%へと加速したことで、インフレ目標の達成への確信がさらに高まりました。

FRBはこれまで、低インフレや賃金の低い伸びを警戒して緩やかな利上げを継続してきましたが、インフレの兆しがうかがえることから利上げペースを加速するかもしれません。ウォール街では利上げペースの加速が景気の腰を折るのではないかと警戒されています。

賃金上昇はフライング?

ただ、1月の雇用統計での賃金上昇には慎重な見方もあります。

まず、一部企業が減税によるボーナスの支給を公表しており、その影響が出た可能性があります。この場合、影響は一時的であることが予想されますので持続的な上昇とは区別する必要があるのかもしれません。

また、週労働時間が低下しており、これには米北東部を襲った記録的な寒波が影響した可能性があります。仮に、週払いでの賃金が固定されていた場合には、労働時間が低下すると単位時間当たりの賃金は上昇することになります。

加えて、時間当たり賃金は伸びましたが、週労働時間が低下したことから週ベースでの賃金は低下しています。結局のところ、所得は伸びておらず、収入という観点で見ると賃金は伸びていないといえます。

このほか、非管理職の賃金の伸びは+2.4%と前月から横ばいとなっています。賃金の伸びは管理職以上の高所得層に限られていた可能性があり、幅広い層に浸透していない恐れもありそうです。

保護貿易を警戒、物価見通しは慎重に

ウォール街は今、米保護貿易の動きと利上げスピードに神経質になっています。こうした中、1月下旬から2月上旬にかけて、米保護貿易の兆候が明確となるとともに、利上げスピードが加速する恐れが出てきたことが今回の株価急落を招いたようです。

とはいえ、最新の米経済指標では景気の底堅さが確認されていますので、景気そのものにはまだ安心感があります。ただし、保護貿易の動きは米国のみならず、世界経済に悪影響を与える可能性もありますので、この点には引き続き警戒が必要となりそうです。

インフレ見通しについてはやや慎重になる必要があるかもしれません。インフレ率の上昇にはドル安と原油高も影響していますが、2日の雇用統計発表後には米長期金利の上昇でドルが主要通貨に対して全面高となっており、ドル高はインフレ抑制要因となるからです。

賃金の上昇が減税や寒波による一時的な要因である可能性が残されていることもあり、金利とドルの動きとともに、物価の基調的な強さを判断するにはもう少し時間が必要となりそうです。

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