値下がりが売り注文を増やすから、市場が暴走する

「売りたくない売り」が強要される株式市場

株価が時として大幅に下落するメカニズムを久留米大学商学部の塚崎公義教授が解説します。

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買い注文が減ると値段が下がり、少ない買い注文と少ない売り注文との数が一致したところで新しい値段が決まる、というのが世の中では普通ですが、株式市場では、そうならないことがあります。

最初は割高感からの売り

今回の米国の株価下落の背景には、株価の割高感がありました。そうした時に金利が上昇したため、割高感が一気に高まり、売り注文が増え、買い注文が減り、価格が下がりました。これは、自然なことです。

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「上がりすぎたから下がった」ということに加え、「金利上昇という株価を押し下げる出来事があった」のですから、下がるのは当然です。

普通ならば、「買いたいけれど、今は割高だから値下がりを待って買い注文を出そう」という人が大勢いるので、ある程度値下がりすると買い注文が増えます。一方で「割高だから売りたいと思っていたけれど、ここまで値下がりしたら割高とは言えないから、売るのはやめよう」と考える人が増えるので、売り注文が減ります。

そうして、新しい価格で売りと買いが均衡するのですが、株式市場の怖いところは、そうならない場合があることです。

売りたくない人からの売り注文が増える

自己資金で投資をしている人は、自分が売りたい時に売り、買いたい時に買うことができますが、借金をして株式投資をしている人は、そうではありません。

「信用取引(証券会社から借金をして株式を買うこと)」をしている人は、証券会社から「追証(追加証拠金)」を迫られることになります。証券会社としては、このまま株価が下がり続けて投資家が破産してしまうと、証券会社が損失を被ってしまうリスクがあるため、それを避けるために追証を要求するわけです。

その時、投資家が追証を支払う資金を持っていれば良いのですが、そうでない場合には「泣く泣く」株式を手放す必要が出てきます。

株価が1000円の時に値上がりを信じて信用買をした投資家が、株価が800円に値下がったら、「絶好の買い増しチャンスだ」と思うはずなのですが、そんな時に持っている株を売らされるわけです。さぞかし悔しいでしょうが、契約ですから仕方ありません。

銀行から借金をして投資している投資家についても同様です。銀行が投資家の倒産を心配して、融資の返済を求めてくるからです。銀行融資は貸出期限があるので、「すぐに返せ」とは言ってこないでしょうが、「1カ月後の期限には借り換えには応じないから、返してほしい」と通告されれば、株を売るしかありません。

1カ月以内に株価が戻ると確信できれば良いですが、そうでなければ、怖くて持っていられませんから。「今の株価は安すぎるから、いつかは必ず戻るだろうから買い増しをしたいのだが、1カ月以内に戻るか否かは全く読めないので、売るしかない」というわけです。

先物を買っている投資家も、状況は同じです。上がると思ったから先物を買ったのに、値下がりして買い増ししたい時に「強制的に売らされる」わけです。

機関投資家には「損切り」のルールあり

多くの機関投資家(顧客の資金等を運用しているプロの集団)は、「損切り」というルールを定めています。これは、「損失が一定以上になった担当者は、とりあえず持っている物を全部売って頭を冷やせ」というルールです。

損失が膨らんでくると、冷静な判断ができなくなるから、頭を冷やせ、ということですが、そのまま損失が膨らんでいくと取り返しがつかないほどの損失を被るおそれがあるから、といったこともあるようです。

これは、担当者にとっては辛いルールです。「損を取り返したい」という焦る気持ち、「今の安値なら、買えば必ず儲かる」という気持ちに逆らって、持っている物を売らなければならないのですから。

相場にとっても、これは辛いルールです。多くの機関投資家の担当者が損切りをすると、株価はさらに下がり、さらに多くの人々が「売りたくない売り」を強要されることになるからです。

投機が相場の下落を増幅

株価の下落幅が一定以上になると、「売りたくない売り」が出てくることが容易に予測できるため、「先回りして売っておこう」という動きが出てきます。先回りして売っておき、売りたくない売りによって値下がりしたところで買い戻せば良い、という投機的な動きです。

こうした積極的な投機でなくても、「今の値段なら買いたいが、少し待てばさらに値下がりするだろうから、買わずに待とう」という動きも出てきます。これは投機家に限らず、一般の個人投資家も参加する「投機」ですね。

筆者はコンピューターによるプログラム売買は詳しくないのですが、もしかすると「一定以上の値下がりがあったら、売りたくない売りが出てくるから、その前に売れ」といったプログラムがあらかじめ組み込まれているのかも知れませんね。

初心者は、狼狽売りに注意

このように、株価には一度下落を始めると、そのまま下落を続けるメカニズムが内包されていますから、割安になっても売られ続けるわけです。

その時に、「割安になったから買おう」と考える初心者も多いでしょうが、割安になっても下がり続ける場合も多いので、「落ちてくるナイフを掴もうとするのは危険だ」ということは覚えておきましょう。

しかし、さらに大きな問題は、初心者であればあるほど、株価が値下がりを続けると「この世の終わり」が来るような気がして狼狽売りをしてしまう、ということです。割安になるまで値下がりしたら、いつかは戻ると思ってジッと売らずに我慢する、といったことは、「言うは易く行うは難し」ですが。

以下は余談です。筆者は、株価の予想屋ではありませんし、偉そうなことが言える立場にはありませんが、それゆえに初心者に対して「淡々と毎月少額の積立投資を続けよう」と説いています。最大のメリットは、初心者が陥りやすい「上がると買いたくなり、下がると売りたくなり、結局高値で買って安値で売る」といった失敗が避けられることです。

今ひとつのメリットは、毎月一定額の購入をしていると、高い時には少ない株数を、安い時には多い株数を購入することができるので、長期投資をしている間を平均すると、意外と安い単価で購入できることです。

今ひとつ、値下がりした時に焦らずに済むことです。長期投資と割り切っていれば、「いつかは戻るだろう」と考えて落ち着いて事態の推移を眺めることができます。その際に重要なことは、「本日時点での投資損失」を計算しないことです。本日で投資を終了して持ち株を売却するわけではないなら、そんな計算をしてストレスを溜めることに何の意味もないからです。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

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塚崎 公義


1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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(雑誌寄稿等)
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