自分は子供に何を伝えられるのか?

自分の背中を見て育つ子供。彼らに何を伝えることができているのか。親として、日頃そのようなことを考える人も少なくないだろう。伝えたい「想い」はあるが、どのように話すべきなのか、いつ、どういったときに言うべきか。そんな風に悩んでいる人も多いのではないだろうか。

本書『魚を与えるのではなく、サカナの釣り方を教えよう』は、起業家兼不動産投資家として活躍し、不動産関連書籍を多数出版する浦田健氏の最新作だ。

浦田氏がこれまでの経験の中で見出した、人生において大切だと考えられるものが、お金と幸せの法則、ビジネスの成功法則、コミュニケ―ション、運をつかみ成功する、という4編に分けられ、33のメッセージにまとめられている。そして、親の立場から子供に対して伝える形でわかりやすい言葉を選びながら進んでいく。

タイトルを見たときは魚を「お金」に読み替え、お金を与えるのではなくお金の稼ぎ方を教えよう、と読むとよいのかとも思ったが、実際のところ、本書は単純な「お金の稼ぎ方」のノウハウ本ではない。ここで述べられているのは、仕事をしていく人々に向けた、心の持ち方、考え方に関するメッセージだ。

見方によっては巷にあふれている成功法則の本の一種ともいえるが、さまざまな苦難を乗り越え、現在成功を収めている、そしてビジネスを続けている起業家の言葉、実体験をともなった内容であるだけに、イメージをつかみやすいだろう。

職場や取引先とのコミュニケ―ションで役立つ具体的な会話のノウハウなど、ビジネスパーソンが明日からでも実践できる内容も多い。

また、小学生の子供のために向けた書かれたとする、語り掛けるような言い回しは、わかりやすくかみ砕かれているというだけでなく、そのメッセージを難しく捉えすぎたり、逆に簡単に捉えすぎたりする「大人」の勝手な解釈も排除してくれる。シンプルに本質に迫る内容だといえよう。

迷いが多い自分自身のために

本書を読み進めているうちに、子供に伝えられるように、大人である自分自身が魚を釣れる名人になろう――そういった浦田氏のメッセージもにじみ出てくる。

「これでよかったのか」「いつになったら仕事がスムーズにできるようになるのか」などと、日々考えながら仕事をしている人も多いだろう。浦田氏が本書で言う通り、人生は「ドラクエ」――ロールプレイングゲームのようなものだ。実践していくうちに少しずつレベルが上がる。そうすると装備が変わる。進むべき道も開ける。新たな出会いがある。

最初の街にいつづけても、レベルはなかなか上がらない。新しいゾーンに踏み入り、ヒントを探し出したりという努力が必要だ。一方で、いきなりラスボスと戦おうとしても到底勝ち目はない。そもそもいきなりラスボスのいる城にたどり着けるはずもない。ゲームなら誰もがわかることだろう。抜け道などないことも知っている。

これが頭ではわかっているのに、仕事になると挑戦することにしり込みしてしまったり、いきなり完璧を目指そうとしてしまう。そうした人には「完璧を目指さない。7割を目指す」という浦田氏のアドバイスが心に迫るのではないだろうか。

7割できたら、残りの3割のうちまた7割できるようにする。これを繰り返し、できる限り100%に近づけていく。こうした取り組みを実践し、成功を収めた人の言葉だからこそ力強く響く。

毎日完璧を求めて肩に力が入りすぎていると感じているビジネスパーソン、うまくいかないと嘆いているビジネスパーソンの肩の力も少しは抜けるのではないだろうか。今悩んでいることがある人、うまくいっていないという人にも何らかのヒント、気づきがありそうだ。

また、人生で起こる出来事は何事も捉え方次第でまったく違うように映るということは、これから社会に出ていく人たちにも知っておいてほしいことだ。

言うは易く行うは難し、かもしれない。しかし自分次第で世界は変わる、そのことを知っていれば、これからの世界の見え方もきっと変わってくるに違いないし、おそらく何らかの形で一度は降りかかるであろう苦難を乗り越える方法の選択肢を一つ増やすことになるのではないかと思う。

まとめ

本書を読み、親として、人生の先輩として、自分自身が子供に伝えたい内容が同じかどうか、一度自分の考え方と照らし合わせてみるのもよし。また、大人が自分を振り返るためにも役立つだろう。自分自身が魚釣りの名人になるために、自分が子供になった気持ちでその言葉に素直に耳を傾けてみるのもよいのではないだろうか。

魚を与えるのではなく、サカナの釣り方を教えよう 起業家の父から愛する子へ33の教え

著者:浦田 健
出版社: 実業之日本社

LIMO編集部