就職活動が本番を迎えています。そこで、久留米大学商学部の就職支援責任者である塚崎公義教授の学生向けアドバイスを紹介します。

就活の始まりは、自分を見つめること

就活は、選ばれるプロセスであると同時に、選ぶプロセスである。自分は何がしたいのか、就職先に何を求めるのか、自分の人生観と照らし合わせて、じっくり考えよう。高い給料がもらえるならハードな仕事も厭わないのか、地元で働きたいのか、自動車が好きだから自動車関連の仕事がしたいのか、他人の役に立ちたいから介護の仕事をするのか。

自分の長所や短所を見つめ、適正を判断することも重要である。歌が下手なのに歌手を志望しても仕方ないからである。もっとも、自分の長所や短所は、自分ではなかなか見つけにくいであろうから、親や友人等々の意見も素直に聞いてみよう。特に、短所について他人の意見を聞くのは辛いが、自分の歌が下手だと知らずに歌手を目指してしまう悲劇と比べたら、それくらいの努力は惜しむべきではなかろう。

特にこだわりがないのであれば、消費者向けのコマーシャルをやっている会社は避けた方が良いであろう。多くの学生が受けるはずだからである。たとえばビールの会社と鉄の会社であれば、「同じくらい良い会社なのに、ビール会社の方が倍率が数倍高い」、といったことは頻繁に生じているのである。

企業研究で難しいのは社風

企業研究の第一歩は、企業の公式なホームページやパンフレット等々である。そこに記されていることはしっかり理解しよう。その上で、公式文書ではわからない情報をどう得るのかを工夫しよう。

非公式情報は重要である。安くて美味しいレストランの情報は、レストランの公式情報だけ見ても得られない。すべてのホームページに「我がレストランは安くて美味しいです」と書いてあるから(笑)。履修登録の際に教授が撃墜王なのか仏なのかという情報は、大学の公式なシラバスからは得られない。そうした情報を得るための人脈や情報網が極めて重要なのである。

就活においても、ブラック企業であるか、男女差別が激しいか、ワンマン社長へのイエスマンばかりの会社か、といった情報は、公式情報からは得られない。キャリアパスについても、海外転勤の可能性が大きいとか、ジェネラリスト志向なのかスペシャリスト志向なのかとか、知りたい情報は多いはずだ。

各大学の就職部には、そうした情報が集まっているであろうから、聞いてみることが第一だろうし、今はインターネット上で学生間の噂も容易に入手できる。インターネット情報は、信用できないものも少なくないが、何の情報もないよりはマシだろう。

就活先で知り合った学生は、情報交換相手として積極的に活用しよう。ライバルに情報を教えることに抵抗を感じる就活生も多いようだが、ギブアンドテイクで2人とも得をすれば良いのだ。たまたま「2人とも同じ第一志望で、そこの定員が1人である」という場合は別であるが(笑)。

そうした情報で、ある程度志望先を絞ったら、会社の人と実際に会ってみよう。説明会に来る人や、会社が紹介してくれたOB・OGでも良いが、そうした人々は会社に都合の悪いことは言わないだろうから、話を割り引いて聞く必要がある。本当に望ましいのは、自分の知っている先輩や、友人が知っている先輩を紹介してもらうことであろう。大学の就職部がOB・OGを紹介してくれるなら、それも良い。

OB・OG訪問は、一石三鳥なので、ぜひ

OB・OG訪問で最も重要なことは、会社内部の人から本音の話を聞くことである。当然、社風を知るだけではなく、「ホームページに書いてあることについて、確認したり、追加で質問したりする」ことも可能であろう。こうして企業研究をしておくことが、説明会や面接でライバルに一歩差をつけるためには大いに役に立つのである。最低限、「御社が第一志望であるからこそ、手間をかけて企業研究をしたのです」というアピールにはなろう。

加えて、リクルートスーツを着て社会人と会うこと自体が「場慣れ」に役立つ。面接は、緊張せずに自分を見せることが重要であるが、リクルートスーツを着て社会人に会うだけで緊張するという学生も少なくないので、少なくともそうした点だけはOB・OG訪問で克服しておきたい。

今ひとつ重要なのは、「OB・OG訪問で◯◯先輩のお話を伺い、大変活き活きと仕事をしておられることがよくわかりました。私もぜひ、◯◯先輩のように活き活きと仕事ができる職場で働きたいと思い、御社を志望しました」と言えることである。志望動機の書き方を悩む学生が多いなかで、これは文句のつけようがない志望動機となろう。

これは、訪問を受けた先輩にとっても、決して悪い話ではない。人事は先輩に感謝するかもしれない。そうだとすれば、OB・OG訪問に応じてくれた先輩への恩返しも同時にできることになる。

すべての会社に「第一志望です」と答えるべき

「嘘をついてはいけない」というのが教育の基本であるから、教育者である筆者が学生に「嘘をつけ」と言うわけには行かないが、本音と建前の使い分けは重要である。むしろ、就活というのは本音と建前の使い分けを学び、子供が大人になっていく過程だ、と考えよう。

第一志望の学生もそうでない学生も、皆が第一志望だと答えるのだ。そして、面接官も当然に、そのことは知っているわけだ。従って、第一志望だと答えることに罪悪感を感じる必要はない。では、なぜ聞くのだろうか。

一つには、志望動機の書き方や返答時の態度等で本当に第一志望なのか否かの見当をつけようとしている、ということがあろう。今ひとつは、むしろ「本音と建前の使い分けができる学生か否か」を見極めているという面もあろう。

想像してみよう。優秀な学生が「御社は滑り止めです」と答えたとする。君が面接官だったら、何を考えるだろう。「この学生は、内定を出しても他社へ行くだろうから、内定を出すのはやめよう」と思うだろう。

今ひとつ考えることは、「この学生を採用したら、トラブルメーカーになりかねない。課長が遊びに行っている時に取引先から課長に電話があった場合、正直に答えてしまうかも知れないから」であろう(笑)。

内定を辞退する時は速やかに連絡を

もちろん、常識はわきまえる必要がある。滑り止めの会社に「第一志望です」と答えて内定をもらっても、本当の第一志望から内定が出たら、滑り止めには直ちに断りの連絡をしよう。それは当然の礼儀だ。「怒鳴られるかも知れないから連絡したくない」と思う気持ちはわかるが、断りの連絡をしないと相手企業に大きな迷惑をかけることになりかねないのだから、それは当然の義務だと考えよう。

「断りの連絡もしない奴は人間のクズだ」と怒る人もいるかも知れない。筆者はそこまで言わないが、後輩や大学に迷惑がかかることは知っておいてほしい。

筆者も企業様から「内定辞退の連絡をしてこない学生がいて、迷惑を被った。もっとしっかり教育して欲しい」と苦言を呈されることがあるし、悪くすると「あの大学は教育ができていないから、内定辞退の連絡をしてこない学生が多い。来年からは、あの大学からの採用はやめておこう」と思われてしまうかも知れないのである。そうした事態はぜひとも避けてほしい。

P.S.
最後に、努力に関する、筆者の好きな言葉を贈ろう。「努力をしても報われるとは限らないが、努力は重要だ。努力して悪い結果になったときには、運の神様を恨んで生きればいいが、努力をせずに悪い結果になれば、努力をしなかった過去の自分を恨んで生きることになるからだ」

頑張りたまえ。諸君の健闘を祈る。

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塚崎 公義