皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。

3月8日に、財務省から国際収支統計(1月、速報)が発表されました。

今回の発表された統計では、(海外とのモノやサービスなどの取引状況を示す)経常収支が6,074億円の黒字で、東日本大震災後の1月としては最も大きい黒字額となりました。黒字幅の拡大は、モノやサービスの輸出から得られる代金や海外への投資からの配当などの(合計値としての)受け取り超過額が増加したことを示しています。

また、暦年で見ても、2014年に約4兆円まで落ち込んだ経常収支の黒字額は、2015年に約16兆円、2016年に約20兆円、2017年(速報)に約22兆円と、基調として経常収支の黒字額が増加しています。

経常収支が黒字であることは基本的には(わが国に)外貨の受け取りがあることを示します。そして、この外貨が円に転換されるのであれば(本邦企業の国内での配当金支払いや設備投資、モノの購入には円が必要です)、外貨売り・円買いが行われるため、外貨安・円高要因となります(実需の円高要因と呼ばれることがあります)。

前述の通り、経常収支の黒字額は2014年に底をうったものの、(為替相場を年末ベースで見た場合)2013年末に105円の前半であった米ドル/円は、2015年末には120円台前半となっており、少なくとも、この期間においては、(理屈とは異なり)経常収支の黒字額拡大と米ドル高・円安が同時に進展しています。

また、2017年では、経常黒字の変化と比較して、米国と日本の金利差に対する思惑が、いっそう為替の決定要因として強かったと思われます。したがって、(黒字額が臨界点を超えたとの考え方はありうるにしろ)、急に経常収支黒字の増加基調が米ドル安・円高要因として効き始めるとの解釈には、私は違和感を感じます。

それでは、2018年になって、米国長期金利は上昇し、(少なくとも長期金利の)日米金利差は拡大したにもかかわらず、どうして米ドル安・円高が進展しているのでしょうか?

これには、トランプ大統領の通商政策に対する思惑のような(従来より)強い材料が出てきたと説明することが一番簡単なのですが、あえて視点を変えて、2017年の主役であった(と考えていた)「日米金利差という要因」の「将来に対する予見性の確からしさ」が弱くなったかを考えたいと思います。

まず、米国の金利上昇に対する思惑が弱くなったとは思えません(むしろ、インフレ懸念は強まっていると感じています)。とすれば、日本の金利が上昇することで、日米金利差が拡大しないと考える人が増えた場合に、 「将来に対する予見性の確からしさ」が弱くなったと捉えることができます。これは、日本の金融政策について正常化(出口と呼ばれることがあります)が市場参加者に意識され始めたと捉えることもできそうです。

私自身は、日本において、金融政策が正常化に向かう時期は、まだまだ先であると考えていますが、市場には日銀が金融政策の正常化に向かう時期が近いとの見方が一定以上ある可能性があります。

それでは、「トランプ大統領の通商政策全体に対して、日本が及ぼすことができる影響力は限定的」と考えざるを得ない中、仮に100円を割れるような米ドル安・円高が進展した場合に(なお、私は円安を見込んでいます)、日本にとって選択可能な政策はどのようなものとなるのでしょうか?

(短期間での大きな為替変動を除き)米ドル買い・円売り介入は、(政治的に)困難であると考えます。この考え方の根底には、今の円の水準が本邦企業の経済活動を困難にさせるような「大きな円高水準」にあるかについての疑問があります(逆に、(今の円の水準では)企業に与える影響は限定的と考えることもできます)。

以下に、「日本の実質実効為替レート()」と「米ドル/円()」を示します。実効為替レートとは、「特定の2通貨間の為替レートを見ているだけでは捉えられない、相対的な通貨の実力を測るための総合的な指標です。具体的には、対象となる全ての通貨と日本円との間の2通貨間為替レートを、貿易額等で計った相対的な重要度でウエイト付けして集計・算出したもの」 (日銀ホームページからの引用)です。そして、この実効為替レートに、物価調整を施したものが実質実効為替レートです。

これを見ると、(過去との比較では)今の円の水準が前述のような大きな円高水準と理解することは困難です(図表1)。

図表1:日本の実質実効為替レートと米ドル/円レートの推移
2000年1月~2018年2月:月次

※実質実効為替レートは2018年1月まで
出所:ブルームバーグのデータを基にアセットマネジメントOneが作成。

枚数が尽きてしまいました。次回以降に、円高が進展した場合の対応策をさらに考えたいと思います。

(2018年3月9日 9:00執筆)

柏原 延行