国会の審議遅延で「働き方改革関連法案」の成立時期が先送り?

ふと気が付くと3月も最終週になり、今年は桜の開花も例年になく早い、あるいは、早かった地域が多いようです。他方、桜前線北上のスピードと対照的に、遅々として進まないのが安倍政権の肝入政策の1つである「働き方改革」に関する国会審議です。

これは一連の“森友疑惑”の混迷により、国会における証人喚問や野党の審議拒否などで大幅に遅れたことが原因です。先日の証人喚問実施後、まずは2018年度の予算成立が最優先されるため、働き方改革関連法案の成立はまだ先になるという見方が支配的です。一体、いつになるのでしょうか。

各企業の春闘は交渉妥結を迎えているが・・・

一方で、国会の審議空転とは関係なく、各業種や各企業では春闘が終盤を迎えており、主要企業では既に終結しています。今春闘の最大の焦点の1つだった残業時間規制に関しては、法案成立を先取りするような形で労使間の妥結になった企業も少なくありません。

「働き方改革」が浸透することに伴い、生産性が改善して、無駄な残業時間やいわゆるサービス残業がなくなることは、労使両者にとって良いことであることは確かです。

消費増税以降、足元の個人消費は“風前の灯火”

しかしながら、「働き方改革」の浸透に伴って心配されるのが、個人消費への影響です。端的に言えば、毎月の残業代が大幅に減ることが予想されるため、それがそのまま可処分所得の減少となって個人消費が停滞するのではないかという懸念が拭えません。

そもそも、GDPに占める個人消費の寄与度を見ると、2015年度は+0.2%、2016年度は+0.3%の若干のプラスに止まるなど、アベノミクス始動当初の勢いは全く見られていません。この最大要因と見られるのが2014年4月に実施した消費増税であり、実際に2014年度は▲1.5%の大幅マイナス寄与となりました。

「働き方改革」に伴う残業代減少額は最大で年間▲8兆円超に

こうした状況を鑑みると、残業代の減少は大きなマイナス要因になりかねないと思われます。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、2017年の1人当たり1カ月間の平均残業代は19,560円です。

今後審議される見込みの、政府が検討する罰則付きの残業上限規制(年間720時間以内など)により、仮に残業時間が毎月60時間に抑えられた場合、残業代が大幅減少することは間違いないと言えましょう。

実際、複数の民間シンクタンクの試算によれば、年間の残業代が約▲5兆円から▲8兆5,000億円減少するとされています。試算結果にはやや幅がありますが、これだけ残業代が減って、個人消費に影響が出ないとは考え難いものがあります。

賃上げムードは高まっているが、十分とは言い切れず

一方で、こうした残業代減少の影響は軽微、あるいは、限定的という見方が少なくないのも事実です。その根拠になるのが、ベアを含む賃上げと、一時金(ボーナス)増加の2つです。本当にそうでしょうか?

まず、年々賃上げムードが高まっており、今春闘でも多くの企業で賃上げ交渉が妥結しました。しかし、政府が“要求”した+3%アップを満たした企業は、非常に少なかったと見られます。

たとえば、春闘に大きな影響を与えると言われるトヨタ自動車の労使交渉の結果を見ると、賃金上昇はベアを含めて+3.3%となりました(金額では毎月11,700円の増加、組合員平均)。しかし、ベア額が異例の非公表になるなど、賃上げ実施に苦労した跡がうかがえます。

最大手のトヨタ自動車ですら、やっとのことで+3%超を実現したくらいですから、他業種や他企業がそれ以上に苦戦したことは容易に推察できます。

ちなみに、少し古いデータですが、3月14日時点の日本経済新聞社の調査によれば、今春の労使交渉で+3%以上の賃上げ(月収ベース)をすると答えた企業は約22%に止まりました。その後の労使間交渉の妥結分を反映したとしても、さほど変わらない可能性もあります。

年に1~2回付与される一時金の小幅増加は効果があるのか?