就職活動では、なかなか内定にたどり着けない学生がいる一方で、いくつもの内定を獲得する学生がいます。そうした就活勝ち組の中には就活をゲーム感覚でとらえているケースもあるようです。今回は、より高い年収が若いうちに手にできる就職先を狙って内定を手にしたというケースを例に、就活生と採用側の駆け引きについて考えてみました。

希望就職先の決め方はどうする

皆さんは就職先をどのように決めたのでしょうか。自分の興味のある仕事であったり、挑戦してみたい職業を中心に就職活動をしたという方もいるでしょう。一方で、高い給与を得られる産業を事前に調べ、その中から企業を選んで就職活動を行ったという人物もいます。

A氏は有名大学の文系学部出身。若くして高年収を手にできる企業を探し、その中でも最も条件のいい日系金融機関に就職を決めました。

A氏はその理由をこう説明します。

「そもそも若くして稼ぎたかったというのと、自分のキャリア形成を考えた際に最も市場価値が高くなる企業を選びました。商社なども年収が高くて魅力的なのですが、採用が決まっても自分の希望の事業部に配属されるとは限りません。配属先次第で自分の人生が決まってしまうというリスクは取りたくなかったですね。実際に大手総合商社に勤める大学のOBに話を聞きましたが、そのOBも修正軌道が難しそうだったですから」

自分の希望を強く主張する就活生はあり? なし?

自分の希望通りの配属にならないというのは金融機関でも同じでは、という質問にA氏は次のようにいいます。

「私が面接を受けた金融機関の中には、明確に希望する配属先を聞くという金融機関がありました。そうではないという金融機関はこちらの希望順位を下げました。新卒の最初の配属先が必ずしも支店や支社ではないというのはOB訪問などでわかります」

人事部は学生の配属希望など聞いてくれるものなのでしょうか。

「私は、就職後の3年間は営業としてよりもファイナンスのスキルを磨きたいという考えだったので、配属で希望がかなわなかったらすぐに辞めるといっていましたし、将来は外資への転職や起業を考えているとも公言していました。人事部もそれを知っていたと思います。今考えるとよく自分を採用してくれたと思いますが」

就職をロールプレイングゲームにたとえる

実際の配属はどうだったのかを尋ねたところ、A氏の回答は次のようなものでした。

「若干希望とは異なりましたが、こちらの要望がほとんど通ったという印象です。おかげでみっちり現場で経験を積むことができ、次の転職もまた考えた通りの企業に就職することができました」

「転職という言葉がありますが、同じスキルやバックグラウンドを活かして違う会社に行くのなら”転社”であり、移籍というのが正しい表現です。ゲームで考えればわかりやすいでしょう。人によって状況は異なるかもしれませんが、専門性に軸を置いた場合には、仕事を変えるといってもドラクエのように勇者から商人になるわけではありません。同じ職業でレベルアップしていくというのが基本でしょう。であれば、最初の就職先の配属にはこだわるべきだと思います」

優秀な人材の採用風景

では、こうした学生の強い要求に採用側はどう対応すればよいのでしょうか。現在ベンチャー企業を経営し、採用も行うB氏は次のようにいいます。

「今の若い優秀な人材は、お金への執着心が強い人ばかりではありません。自分のしたい仕事ができるのかに始まり、この仕事は世の中でどういった意味があるのかという、こちらからするとフワっとした動機で就職活動をしていることもあります」

実際に採用の現場では良い人材が獲得できているのでしょうか。

「優秀で若いエンジニアに対して、『君のスキルを活かせば当社でこんなに儲けることもできるよ』といっても、『その仕事には興味ないんで』といってあっさり断られたこともありました(笑)。なかなか難しいのが実際です。したがって、彼らの要求をどこまで飲むかという判断が必要ですね」

人事部としての対応はどうすべきか

では、人事部はどう対応すればよいのでしょうか。

前出のA氏はこういいます。

「私が最初に就職した金融機関は、専門性が必要な部署に大学の専攻からすると異色の人材を採用していました。人事部の懐が非常に深いというか挑戦的というか、表現は難しいですが面白い人材を採用していましたね。業界ナンバーワンの企業がよくもここまでと思ったものです」

「実際、入社してその後数年で辞めていく社員も多かったですが、中には退職して、今はメーカーでジェット機のエンジンを作っていたり、教育アプリをつくる会社を立ち上げているケースもあります。会社としてはそうした人材を一時でも抱え、働いてもらっていたということをまずは良しとするのが現実的なような気がします。今どきは新卒で入った会社で定年まで勤め上げることが目標という人がほとんど、ということはないでしょうから」

-就活をうまくやり過ごすためには人事部との駆け引きも時には必要-

LIMO編集部