日本株はなぜ下がる? 日本が漁夫の利を得られる米中貿易戦争だが・・・

米中貿易戦争で日本の株価が下がる理由を久留米大学商学部の塚崎公義教授が解説します。

日本には漁夫の利の米中貿易戦争

米国が中国からの輸入に関税を課し、中国も報復関税を課そうとしています。米中貿易戦争で世界の景気が悪化するのではないか、と世界が心配し、株価も世界的に大きく下げています。

たしかに、米国と中国の景気は悪化するかも知れませんが、日本は漁夫の利を得ることができるので、むしろ景気は良くなるかもしれません。中国が米国からの輸入に関税をかければ、中国が米国から輸入している品目が日本からの輸入に振り替わることで、日本の輸出が増えるかもしれないからです。

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中国の対米輸入品は、中国の国内では作れないから、わざわざ人件費の高い米国から輸入しているわけですから、米国からの輸入が難しくなれば、日本から輸入される可能性は決して低くないでしょう。

このあたりのことは、拙稿『米中経済戦争は、日本に漁夫の利』をご参照ください。

世界景気の悪化で日本景気も悪化すると予想して株価が下落?

そもそも筆者は、世界の景気がそれほど悪化するとも思っていません。

米国の対中国輸出は減りますが、米国が中国から輸入しているものを国内で生産するようになれば、米国の総生産はそれほど落ちないかもしれませんし、日本の中国向け「漁夫の利輸出」が増えれば、中国の景気が悪化した分だけ日本の景気が良くなるかもしれません。

調整には時間がかかるでしょうから、一時的な混乱(生産の減少、地域によっては一部品目の価格の高騰や暴落)が起こり得るでしょうが、世界が大不況に陥る、といった話ではないでしょう。

そもそも、トランプ大統領は商売人なので、本気で喧嘩をするというよりは、ハッタリで相手の譲歩を引き出すつもりだと思われます。ハッタリが成功するためには、相手に「あいつなら本当にやりかねない」と思わせる必要がありますが、その点、彼は交渉の適任者ですから(笑)。

在米日系企業の対中輸出が減ることは、当然あるでしょうが、彼らは米国の企業です。彼らがリストラをすれば、失業するのは米国人です。日本の景気には関係ありません。

彼らの親会社への配当は減るでしょうが、それで日本の平均株価が大幅に下がるようなインパクトがあるとは到底思われません。

米国の矛先が日本に向く懸念から株価が下落?

米国の矛先が日本に向く可能性は、ゼロではありませんが、低いでしょう。「鉄鋼の輸入制限で日本が対象国から除外されなかった」ことを気にしている人がいるようですが、あれはトランプ大統領による国内支持者向けのポーズです。

米国の対日鉄鋼輸入額は年間2000億円ですから、ほとんど影響はないでしょう。単に「同盟国であっても対米貿易黒字の大きい国にはきちんと対応している」というアピールをしたいだけです。

将来、トランプ大統領が対日輸入を大幅に制限したり、円高誘導で日本を困らせたりすることもないでしょう。米国にとって最大の懸案は、長期的な中国との力関係の変化であり、同盟国である日本との関係を悪化させてまで貿易戦争を繰り広げることは全く合理的ではないからです。

日本に対しても、何らかのハッタリ戦略を採ってくる可能性は十分にありますが、その場合にはトランプ大統領のご意向を忖度して、総理が訪米する際にでも「お土産」を持参すれば良いだけのことです。

たとえば、「カナダから輸入している品目を、日本の商社の米国支店がカナダから輸入して日本に輸出することで、米国の対日貿易赤字を減らす」などというのは選択肢でしょう(笑)。

日本株下落の一因は「パブロフの犬」

株価の短期的な変動は「美人投票」ですから、理屈ではなく、皆が下がると思えば下がるのです。そして、投資家たちは「米国の株価が下がった翌日は日本の株価も下がる」と思っています。なぜなら、過去にそういう日が多かったからです。

そこで、米国の株価が下がると、理由は問わずに「今日は日本株が値下がりするだろうから、売ろう」と考えた投資家たちの売り注文が増えて、実際に下がることになるのです。

米国にはエネルギー関連の上場企業も多いので、原油価格が下がると米国の株価が下がり、それにつられて日本の株価も下がることがしばしばあります。日本経済にとって、原油価格が下がって困ることはほとんど何もないのに。今回もそれと同じことでしょうね。

「米中貿易戦争の懸念で米国の株価が下がったから、日本の株も下がるだろう。日本株を売っておこう」と考えた投資家が多いのでしょう。日本が漁夫の利を得ようと、原油安の恩恵を受けようと、「美人投票」の力には勝てませんから(笑)。

リスクオフによる売りも一因

投資家たちが「リスクはあるが、金儲けのために投資しよう」という積極的な気分の時を「リスクオン」と呼びます。反対に、「儲けることより、リスクを減らして静かにしていよう」と消極的に考える時を「リスクオフ」と呼びます。

貿易戦争などが起きそうな時には、世界中の投資家が「リスクオフ」になる傾向にあり、そうなると「世界中の株を全部売って静かにしていたい」と考える売り注文が増えるので、日本株も値下がりすることになりがちです。

今ひとつ、日本が対外純資産の黒字国だということも影響しています。日本人投資家は、多額の米国債を持っています。これは、「為替リスクはあるけれども、金利が高いから米国債に投資しよう」という投資家が多いことを意味しています。

そうした時に、日本人投資家がリスクオフになると、米国債を売ってドルを売って資金を日本に持ち帰るようになりますから、ドル売り注文が増えてドル安円高になります。ドル安円高は株安の要因なので、株が下がります。

海外の投資家が、金利の低い円を借りてドルに替えて米国債を持っている場合も同様です。彼らがリスクオフになると、米国債を売ってドルを円に替えて円の借金を返そうとするので、ドル安円高になるのです。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

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塚崎 公義


1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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(雑誌寄稿等)
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