NANDフラッシュを手がけるサムスン電子や米Micron Technologyが、3D-NANDの生産強化のため新工場の建設を正式に発表している。同じく東芝やIntelも新工場の建設を進めており、2018~19年も半導体設備投資は3Dが牽引していく。

 一部で過剰投資の懸念もあるが、需要が引き続き堅調に推移すること、次世代プロセスへの移行で工程数が伸びていることから、需給バランスはそれほど崩れず安定したものとなりそうだ。

中国・西安、シンガポールでそれぞれ新工場建設を正式発表

 サムスンは3月末に中国・西安工場の第2期棟の起工式を開催した。同社は17年8月に、西安工場に対し向こう3年間で総額70億ドルを投じるMOU(覚書)を陜西省政府と締結。今回の投資はこれに沿ったものだ。

 第2期棟は19年中に完成予定で、フルキャパシティーは月産10万枚を想定。第1期棟とあわせて西安工場で同22万枚の生産能力を保有することになる。

 なお、サムスンは17年末から韓国・平澤工場でも第2期棟の建設を計画している。18年内の着工、20年の生産開始を見込んでいる。

 Micronも次世代の3D-NAND生産に対応すべく、シンガポールに新棟を建設する。新棟の第1期投資は19年夏までの完成予定で、初期ウエハーのアウトプットは19年第4四半期(10~12月)を計画する。

 同社はシンガポールで3D-NANDの集中生産体制を敷いており、北部のFab10N/10Xのほか、南部のFab7(旧TECHセミコンダクター)でも2D-NANDから3Dへの転換を進めている。18年中にシンガポール内の工場はすべて3Dに切り替わる予定だ。

Micronが新ファブを建設するFab10の外観

 今回、Fab10N/10Xに隣接する土地に新たに建屋を建設する。建設にあたっては、シンガポール経済開発委員会の支援を受けるという。

 新棟建設によって、クリーンルームスペースは拡張されるものの、今回の投資目的は次世代プロセスへの対応が主な目的で、ウエハーキャパシティーの増強にはつながらない見込みだ。

Intelは大連で第2期立ち上げ、東芝も四日市で投資進行中

 Intelは中国・大連工場で第2期棟の立ち上げを進めている。新棟は17年末に工場棟が完成し、2月から製造装置の搬入を開始。6月から月産3万枚規模で試験生産を開始する予定だ。最終的に新棟は同10万枚まで拡張が可能で、製造世代も第1期棟で生産していた32層品ではなく、64層品となる見込み。

 東芝は目下、四日市工場第6製造棟(Y6)の投資を進行中だ。Y6は2期に分かれており、1期工事は17年末から製造装置の導入を開始。稼働は18年夏を見込む。同時に2期工事が進められており、現在は建屋内のクリーンルーム化工事および搬送設備の導入を進めている。Y6全体としては18年末に竣工予定で、今後既存のY5の3D化に向けて重要な役割を果たしていくことになる。

 また、東芝では四日市工場とは別に岩手県北上市にNANDの新製造拠点の建設を計画しており、18年2月から土地造成工事に着手している。従来は20年ごろの稼働開始を見込んでいたが、現在は稼働時期を19年に前倒しするスケジュールに切り替わっている。

「価格弾力性」と「製造工程数の増加」が市況を保護

 ほぼすべてのNANDメーカーが大型投資を敢行するなか、不安視されるのは過剰投資の反動による市況の悪化。すなわちNAND価格の下落だ。

 しかし、NANDはビット成長率が今後も年間40~50%見込める市場であり、価格弾力性が働く産業構造となっている。つまり、足元では価格が下がっているものの、これによって顧客側としては搭載容量を増やそうという意欲が増し、ビット成長につながる。DRAMは年間ビット成長率が20%台前半で推移しており、この価格弾力性が働きにくくなっている。

 さらに現状の3D-NANDは、従来の2D品に比べて製造工程数が格段に伸びている。加えて、同じ3Dでも多層化(48層→64層→96層)すればするほど、工程数が伸びるかたちとなっており、新ファブを建設するグリーンフィールド投資を行っても、単純なウエハーキャパシティーの増加につながりにくくなっていることも考慮しなければならない。

 一見、過剰投資にも見える主要各社の新工場建設だが、「価格弾力性」と「製造工程数の増加」によって、一気に市況が悪化するリスクはそれほど高くないといえそうだ。

(稲葉雅巳)

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳