2015年(ヒツジ年)から、日本市場でラム肉の需要をさらに盛り上げるためにスタートしたラムバサダープロジェクト。MLA豪州食肉家畜生産者事業団が立ち上げたもので、ラム肉に対して情熱を持った食のプロの集団で、メンバーはラムバサダーと呼ばれる。

ラムバサダーはラム+アンバサダーの造語だ。今までラムバサダーは第1弾で9人、第2弾で7人が任命され、フレンチ、中華、お肉屋さん、フードコンサルタント、スパイスのスペシャリスト、ラーメンクリエイター、和食シェフなどがいる。

今回、ラムバサダープロジェクト第3弾として、3月29日(ニクの日)に渋谷で「LAMBASSADOR III」のイベントが開催された。当日は新たに加わった6人のラムバサダーが発表され、ラムバサダーが作った羊肉料理が振る舞われた。

ジンくん含む6人のラムバサダーが新たに加わり、総勢22人になった

開催の挨拶では、「羊肉は国民あたり一人年間200グラムしか消費していません、東京オリンピックが開催される2020年に向け、宗教問わず食べられるラム肉を、いろいろな国、宗教の方に提供していきます。まずプロ向けにアプローチし、飲食店に来るお客さまに伝わり、最終的にはスーパーなどの量販店でも、ラム肉売り場が当たり前にあるのが僕たちの願いです」と、MLA豪州食肉家畜生産者事業団の三橋一法さんは抱負を述べた。

羊肉のプロフェッショナルであるラムバサダーの6人

今回任命され、新たに加わったラムバサダーの6人を紹介すると、ジンギスカン店「羊SUNRISE」のオーナーである関澤波留人さん。ワインスペシャリストであり料理研究家の沢樹舞さん。BBQデザイナーで、REALBBQ株式会社代表の井川裕介さん。ユーキャン主任講師、MIIKU日本味育協会代表理事の宮川順子さん。西麻布のイタリアン、サッカパウでエグゼクティブ・シェフを務める田淵拓さん。最後に「北海道からきました。これからは北海道のジンギスカンだけでなく、日本全国にジンギスカン、ラム肉を広めるために活動しようと思っています! 応援よろしくね♪」と語るのは、羊ケ丘展望台出身である、ジンギスカンのジンくん。

田淵拓シェフの「ラムチョップカツレツ ミックスハーブ&ラムバルサミコソース」

 

宮川順子さんの「ラムバラ肉の春風味」

 

関澤波留人さん、井川裕介さんの「チルドマトンと土浦産レンコンの羊脂揚げ」

 

沢樹舞さんの「ラムリエット」は、オージーワインにピッタリ

羊肉は臭いという間違った認識

羊肉、とくにマトンの臭みが苦手なイメージを持っている人も多い。羊肉の脂が劣化すると独特の臭みが出てしまうからだ。現在マトンの9割は冷凍だが、輸送技術や冷凍技術・解凍技術が向上したおかげで冷凍のマトンでも柔らかく、臭みがなくおいしく食べられるようになっている。さらに羊肉を専門に扱える職人が増えたのも大きい。

鮮度の「鮮」という漢字の中に羊が使われているのには、魚も羊も新しい肉でないと食べられない、おいしくないという理由から、2つの漢字を組み合わせて鮮になったという説があるほどだ。

2004年に首都圏を中心にしたジンギスカンブームが発生したのだが、牛肉がBSE問題で輸入禁止になったことも後押しし、羊肉の輸入量が増加。最終的には東京だけでも200店以上のジンギスカン店が存在した。しかし羊肉の知識がない人が調理したことによって、臭い、硬いというレッテルを貼られてしまい、ブームは収束し、その間違った認識が現在でも払拭されていない。

国産の羊が1万7000頭しかいない理由

日本国内で消費される羊肉の99%は輸入品で、オーストラリア産が60~70%、ニュージーランド産が30%程度、残りわずかがアイスランド産、ハンガリー産、フランス産だ。

新鮮な状態で食べるのには、国産の羊を増産すればいいのでは? と思うが、輸入羊には関税がまったくかかっていないこともあり、国内生産するよりも輸入したほうが手っ取り早いのだ。ちなみにオージービーフは冷蔵肉、冷凍肉ともに税率が38.5%から冷蔵肉29.3%、冷凍肉26.9%に下がったものの、高い関税をかけることで国産牛肉を守っている。

さらに日本の気候も影響しているという。羊齧(かじり)協会主席であり、第1弾のラムバサダーでもある菊池一弘さんによると、「羊は温暖湿潤気候の日本では育てるのが難しく、北海道や北東北、岡山の蒜山(ひるぜん)高原、長野の高原で飼育されています。簡単に言うと、米を育てるのに適した土地は羊の飼育には向かないということです」

続けて「また、羊飼いの方が日本では20~30人しかいません。羊の数も動物園、マザー牧場で飼っている羊を入れても、日本全体で1万7000頭。オーストラリアは7000万頭、中国は2億5000万頭も飼っているのです。過去には日本でも93万頭まで増えた時期があったのですが、日本での飼い方が伝承されずに、指導者不足なのが現状です。たとえばですが、羊を飼っている人がラムとマトンの違いを理解していないこともあるのです」

ラムとマトンは国によっても定義が違うのだが、オーストラリアでは、ラムは永久歯が生えていない子羊のことで、1本永久歯が生えるとホゲット、永久歯が2本以上(ただしオスは去勢された羊のみ)生えるとマトンと識別しているとのこと。

オーストラリアでは週1回食べるくらいの高級肉である羊

肉の世界の格式として一番上位になるのが子羊だ。さらに羊は宗教によって禁忌がないという2つの理由から、天皇・皇后が主催する園遊会では、皇居宮内庁御料牧場で育てられた羊肉料理が振る舞われるのが伝統となっている。

また、日本と違ってオーストラリアでは羊肉は高級肉として扱われている。だから日本に来たオーストラリアの人たちは、安い金額でジンギスカンの食べ放題ができることにビックリするという。

高級食材である羊肉が、日本ではおいしく安く食べられるのだ。これからは肉の選択肢の一つに羊を加えてみてはいかがだろうか。

鈴木 博之