はじめに

転職を考えていて、転職サイトを見比べ条件を比較しているという方。仕事内容、勤務地や給与など様々な条件が並んでいますが、特に気になるのは「給与」の表記ですね。「年収1,000万円」と書いてあれば、1,000万円が手元にもらえると思っていませんか?ただ給与と書かれていても、それが年収なのか手取り収入なのかによって、実際にもらえる金額に大きな差が出てくるのです。

目次

1. 会社員なら知っておくべき知識その1、年収とは
2. 会社員なら知っておくべき知識その2、所得とは
3. 会社員なら知っておくべき知識その3、手取り収入とは
4. 転職の際に必要な情報と注意すべき点は
5. 源泉徴収票の見方をマスターしよう
6. ビジネスパーソンならちゃんと把握しておこう、年収と所得の違い

1. 会社員なら知っておくべき知識その1、年収とは

住宅ローンの契約や、アパートの賃貸借契約の際によく聞かれる「年収」。自分の年収を正しく把握しているでしょうか。年収を理解するためには、まず給与明細の見方から学ぶ必要があります。

会社員(パートタイム勤務やアルバイトも含む)として企業から給与をもらっている人は「給与所得者」と呼ばれます。一般的に、会社員は毎月会社から給与明細をもらいます。この給与明細には「支給額」や「振込額」といった項目が記載されていますが、この金額の差はどうして生じているのでしょうか。

会社は従業員に代わり、住民税や所得税、社会保険料などを給与から天引きして国や地方自治体に納めています。これを源泉徴収といいます。支給額は源泉徴収前の金額で、基本の給与に加え、役職手当や残業代、通勤手当など会社から支給されるすべての手当の合計額となります。対して振込額は税や社会保険料に加え、財形貯蓄や社食代など必要経費を天引きした後の金額を示しています。「月収」とは、給与明細でいう「支給額」を指します。

それでは「年収」はどのように計算するのかというと、毎月の給与と賞与の支給額の合計になります。また、年収は毎年会社から配布される「源泉徴収票」でも確認することができ、源泉徴収票の総支給額の金額がそのまま年収となります。源泉徴収票を見るのが一番早いのですが、会社によっては配布が遅いこともあるので、その場合は手元の給与明細の支給額を足して自分の年収を把握するようにしましょう。

2. 会社員なら知っておくべき知識その2、所得とは

年収と似たような言葉に「所得」があります。所得は年収と異なり、あまり人に聞かれる機会もないため、つい意識しないまま過ごしてしまいがちです。しかし所得も会社員ならば知っておくべき、給与に関する重要な用語なのです。それでは、「所得」とは何を指すのでしょうか。

所得は、所得税の計算の際に必要になる数字です。一般的に所得税は、1年間に得た収入から、それを得るために払った必要経費を差し引いた額に対して課税されます。例えば自営業者なら、売り上げから商品の仕入れ代などの経費を差し引いた額を確定申告し、所得税を納めています。

一方会社員の場合は自営業者と異なり、自分で確定申告をするのではなく、会社が源泉徴収によって本人の代わりに給与から所得税を天引きして納めています。しかし会社員も働くためにはスーツや靴、鞄などを購入しなければならないため、それらを必要経費として課税額から差し引かなければ不公平となります。そこで所得税法上、会社員の必要経費は給与所得控除として年収に応じて一律に定められているのです。例えば年収が800万円以下の人の場合は、給与所得控除額は200万円となります(収入金額×10%+1,200,000円)。200万円が必要経費として認められ、課税される金額から引いてもらえるというわけです。こうして一律に控除額の割合を決定することで、源泉徴収義務者である会社の負担も減らそうというシステムになっています。

年収からこの給与所得控除額を差し引いた額が「給与所得」となり、この金額が所得税の課税金額となります。自分の所得が知りたい場合は、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」を確認しましょう。

3. 会社員なら知っておくべき知識その3、手取り収入とは

月収は基本の給与に加え、役職手当や残業代、通勤手当など会社から支給されるすべての手当の合計額を指す用語でした。しかし月収20万円の人は、会社からそのまま20万円をもらえるわけではありません。実際にその人の手元に入り、自由に使えるお金は「手取り(手取り収入)」と呼ばれます。

会社は税や社会保険料を会社員本人に代わり、給与から天引きして納めてくれています。この天引き後の金額を手取り収入、あるいは「可処分所得」といいます。ここで注意すべきなのは、給与明細の振込額がそのまま手取り収入にはならないということです。例えば、財形貯蓄や社食代、社員寮費などが支給額から天引きされていたとしても、それは手取り収入に含まれてしまいます。あくまで「税や社会保険料」のみを差し引いた額が手取りとなることを覚えておきましょう。

手取り収入は、給与支給額+交通費-社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険、40歳以上の方は介護保険)-所得税-住民税で計算できます。毎月給与明細をもらったら自分の手取りを確認する習慣をつけましょう。

住宅ローンの契約時や、アパートの賃貸借契約の際に必要となるのは年収ですが、実際にローンや家賃を捻出していくのはこの手取り収入からとなります。自分の手取り収入をしっかりと把握して、適正なローンの返済額や家賃の額を計算するようにしましょう。

4. 転職の際に必要な情報と注意すべき点は

年収、所得、手取り収入と、それぞれの用語の違いをご説明しました。実はこれらの用語を理解しているかいないかで、転職を優位にすすめられるかどうかが決定してしまうことがあるのです。

例えば転職サイトの求人を見ていくと、仕事内容や勤務地、福利厚生など様々な条件が並んでいます。自分の希望する勤務条件が当てはまる求人が複数見つかった場合、多くの人が給与の高い方を優先して応募していくでしょう。その時に、「手取り32万円以上確約」と記載のあるA社と、「初年度年収450万円から」と記載のあるB社があった場合、どちらがもらえるお金が多いでしょうか。どちらもボーナスなしと仮定して、実際に計算してみます。

まずは「手取り32万円以上確約」と記載のあるA社から見てみましょう。数字だけをみれば、32万円を12か月分と計算して「年収384万円」と思いがちですね。しかしB社が示しているのはあくまで手取り収入ですので、単純に12か月分が年収となるわけではありません。

対して「初年度年収450万円から」と記載のあるB社はどうでしょうか。独身者の場合、額面金額のおよそ75%から85%が手取り収入になります。年収450万円の場合、一か月辺りの月収は37万5千円となります。これに手取り収入を算出するため、80%をかけてみると、30万円となります。

このように手取り収入で比べてみると、A社は32万円、B社は30万円とA社の方が給与面での条件が良いことが分かりました。手取りと年収の違いを理解していないと、優位な条件で転職できない危険性もあります。そのため、転職の際は条件欄の数字だけでなく、「年収」、「月収」、「手取り」などの用語に注意して条件を比較するようにしましょう。

5. 源泉徴収票の見方をマスターしよう

年収と所得の違いをご説明しましたが、最も簡単にこれらの金額を把握できるのが、源泉徴収票です。

会社は会社員に代わって所得税を源泉徴収し納めています。しかし所得税を決定する際には、生命保険に加入していれば生命保険料控除、ふるさと納税をしていたなら寄付金控除など様々な控除を行う必要があります。また、その会社員が年内に病気で欠勤したなど、会社が想定していた年収と実際の給与支払額が異なる場合もあり、1年間の収入を再計算する必要があります。控除額を加味し、収入を再計算して正しい所得税額を割り出すことを年末調整といいます。年末調整の結果、多く源泉徴収していた場合は従業員に還付され、逆に少なかった場合は追加で徴収されます。

この年末調整の結果表が源泉徴収票です。源泉徴収票は早ければ12月中、遅くても翌年1月末までには会社員に交付されます。源泉徴収票をもらったら、各項目を確認しましょう。

源泉徴収票の「支払金額」に記載してある金額は、年収を指します。つまり、社会保険料や源泉所得税、住民税が天引きされる前の金額です。手取り収入ではないことに注意しましょう。

「給与所得控除後の金額」は支払金額から給与所得控除額を差し引いた金額です。「所得」を調べたいときはこの金額を確認しましょう。また、自分の年収から給与所得控除額を計算し、正しく差し引かれているかも確認しましょう。

会社が負担してくれる経費以外に自腹で高額を支出していた場合には更に注意が必要です。所得税法では「単身赴任の際の帰宅旅費」や「資格取得費」など6項目を給与所得者特定支出として定めています。例えば単身赴任をしている会社員が、自宅に帰るための新幹線代や飛行機代などを自腹で支出するケースは多いかと思います。この特定支出の合計が給与所得控除額の2分の1を超えた場合、給与所得者の特定支出控除が受けられます。

特定支出控除は年末調整ではなく、自分で確定申告する必要がありますので注意が必要です。また控除の際にはいずれの項目についても雇い主の証明書が必要となりますので、特定支出控除を受けたい旨をあらかじめ会社に伝えて証明書の発行を依頼しておきましょう。

6. ビジネスパーソンならちゃんと把握しておこう、年収と所得の違い

年収、所得、そして手取り年収の違いは理解できましたでしょうか。
年収は給与や賞与などの年間の合計、所得はそこから給与所得控除額を差し引いたものと覚えておきましょう。そして手取り年収は、年収から税や社会保険料を差し引いた額と覚えましょう。所得と手取り年収はそれぞれ差し引く項目も金額も大きく異なりますので、混同しないように注意しましょう。

おわりに

いかがでしたか?年収と所得、手取り年収の違い理解できたでしょうか。年収に関することはプライベートな話題のため、同僚・友達・知人同士の会話で話題になることが少なく、つい意識しないまま日常生活を過ごしがちです。しかし各種ローンやクレジットカードの契約の際、あるいは転職の面接の際には「現在のあなたの年収は」と聞かれることは少なくありません。ビジネスパーソンであればそれぞれの違いを理解した上で、自分の年収、所得、手取り年収をしっかりと把握するようにしましょう。加えて源泉徴収票を毎年しっかり確認し、各項目の数値を確かめるだけでなく、自分の控除額が正しく適用されているかを再計算できるとよいですね。

LIMO編集部