なぜ大企業は、毎回入札ではなく同じ下請けを使うのか

”グローバルスタンダード”は必ずしも最善ではない

大企業が、毎回の調達で入札するより、いつも同じ下請けを使う理由について、久留米大学商学部の塚崎公義教授が解説します。

毎回入札は手間がかかりリスクがある

大企業が部品を調達するとき、毎回「入札で最も安いところから買う」という選択肢もあります。その方が安く調達できるのだから、そうすべきだ、と考える人も大勢います、というよりも、そちらがグローバルスタンダードと言えるでしょう。

しかし、それだと面倒です。毎回、部品の仕様を説明しなければなりませんし、納入方法などの打ち合わせも必要です。毎回同じ下請けを使うのであれば、打ち合わせは「いつも通り」で済みます。

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しかも、品質が期待通りであるか否か、相手が誠実に納期を守る企業なのか否か、保証がありません。これは、「情報の非対称性」と呼ばれる問題で、大企業側は「相手は嘘をついているのではないか」と疑心暗鬼になりますが、部品メーカーとしても「自分は嘘をついていない」ことを証明することが難しいのです。結局のところ、相手が誠実な業者であるか否かは、付き合ってみなければわからないのです。

部品メーカーの手抜きを防ぐ仕組みを考える

ちなみに、入札派は下請け制度について、「将来の受注が確定していると、手抜きをする可能性がある。入札制度だと、手抜きをした部品メーカーは次回から落札できないので、手抜きをする部品メーカーはいない」と考えるかも知れません。たしかに手抜きをする会社は少ないかも知れませんが、技術力の低い会社を選んでしまう可能性は否定できないでしょう。

一方で、下請けが手抜きをするかと言えば、それは考えにくいでしょう。下請けといっても未来永劫の受注が決まっているわけではありませんし、一方で手抜きをして大企業に嫌われてしまうと、唯一の販売先を失うことになりかねないからです。

大企業としては、複数の下請けを競わせることもできます。品質の良い下請けへの発注量を少しずつ増やし、品質の悪い下請けへの発注量を少しずつ減らしていく、というわけです。

下請けならば、安心して設備投資ができる

下請け企業は、今後も安定的に注文が来ることがわかっていますから、安心して設備投資ができます。親会社も、下請け企業に対して技術指導を行うインセンティブがありますし、製品開発段階から部品の仕様等について擦り合わせもできます。

毎回入札だと、部品会社は「今回は受注できたけれども次回以降も受注できるか否かわからない」という不安な状態にありますから、思い切った設備投資をすることができません。部品メーカーが設備投資を決心しても、銀行が設備投資資金の融資に慎重になるでしょうから、容易ではありません。

これは、部品メーカーにとって不幸なことであるのみならず、大企業にとっても不幸なことです。入札に応じるすべての部品メーカーが設備投資をしないで手作業で部品を作っているとしたら、どの企業を選んでもマトモな部品は期待できないからです。強度等々の最低基準を決めることはできるでしょうが、手作業の部品メーカーに強度を要求すれば、高い価格を覚悟する必要があるでしょう。

自社で作らず下請けを使う理由

「同じ下請けを毎回使うのであれば、自分で作れば良い」という考え方もあるでしょうが、そうではなく下請けを使う理由としては、分業が考えられます。難しい仕事は優秀な社員を高い給料で雇っている大企業が行ない、難しくない仕事は下請けに任せる、というわけです。先進国と途上国の国際分業、といったイメージですね。

大企業の中で企業内分業をすれば良い、という考え方もありますが、日本企業は「年功序列賃金で、同期入社の給料は同じ」ということで会社の一体感を醸成しているため、同じ社内で給与体系が大きく異なるということは望ましくない、ということなのでしょう。

毎回入札が高くつく可能性を数値例で考える

ここからは、頭の体操です。難しい数式は出てこないので、興味のある方は、お付き合いいただければ幸いです。

手作業だと10万円でできる製品が、32万円の設備(耐用年数は無限大)を導入すると、1万円の材料費だけで作れるとします。大企業としては、入札をせずに下請けに「4万円で11年間発注する。真面目に仕事をしていれば、その後も1万1000円で発注を続ける」と言えば良いのです。下請けは、真面目に働くでしょう。

一方、毎年入札だとすると、毎年10万円(+部品会社の利益)だけ払わされる可能性があります。もっとも実際には今少し安いでしょうが。

A社が設備投資を行ない、9万円で応札すれば、必ず落札できますから、8万円儲かります。4年続けて落札できれば、設備投資に用いた32万円を回収でき、その後は毎年8万円ずつ丸儲けです。

2年目にB社が設備投資をして8万円で応札する可能性がありますから、A社としては「2年目以降、当社が入札できなかった場合には、その翌年は1万1円で応札する」と宣言しておけば良いでしょう。そうすれば、B社は設備の導入を思いとどまるでしょうから、10万円以下では応札できず、A社が毎年9万円で落札し続けることになり、莫大な利益を上げ続けることができるわけですね。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

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塚崎 公義


1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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