社会人になると、社内外への報告書やメール、業務日報など「文章を書いて、人に何かを伝える」機会が増えます。忙しい業務の中で、伝えたいことを分かりやすく、読みやすい文章で伝えるにはどうすればいいでしょうか? 今回は、筆者が文章力向上セミナーでお話ししている内容の一部をご紹介いたします。

読み手の顔を意識しながら書く

日常的な会話をするとき、私たちは「相手によって話し方を変える」ことを、ごく自然に行っています。

たとえば、小学校1年生の子どもに高校数学の話をいきなり始める人はいないでしょう。逆に、高校生に向かって「足し算、引き算ってできる?」と聞いたりはしません。また、忙しそうにしている同僚には、報告や相談をできるだけ手短にしますが、時間がありそうな人には細部まで話すというように、相手の状況に合わせた話し方をすることも。

ところが、パソコンの前で書類を作成するときには、「私が書きたいことは何か?」にばかり意識が向いてしまい、読み手の理解度や状況について配慮ができなくなることがあります。

読み手の顔を意識し、どのような状況でこの書類を読むのか、どの程度の専門知識を持っているのか、などに配慮しながら言葉を選びましょう。

「何を伝えるのか」をはっきりさせる

報告書や業務日報を作成する場合は「何のために書類を作成するのか?」「何を伝えるのか?」を明確にすることから始めましょう。

プロジェクトの進捗状況をチームのメンバー間で共有するための業務日報と、社員それぞれの成長目標を記録するためのものでは、書き残しておくべき内容が異なります。社外の人に向けたメールやブログ記事を作成する場合にも「今日の会議や打ち合わせについて、早急に伝えたいことがある」ときと、「2週間後にセールがあるというお知らせ」では、書き方や伝えるべきことが異なるのです。

まず「何を伝えるのか」を明確すれば、「何を書けばいいのか」が見えてきます。

「何を書かないのか」も明確にする

「なんとか自分の伝えたいことを分かってもらいたい」と思うあまり、大量の情報を文章に盛り込んでしまうことがあります。でも、読み手の理解度、多忙さ、健康状態などによっては、多すぎる情報を受け取るのが負担になります。

たとえば、「梅田から難波まで、地下鉄を利用すると何分で行けますか?」と聞かれたとします。

まず伝えなければならないことは「御堂筋線で9分です」ということです。

「梅田から淀屋橋までが4分、淀屋橋から本町まで2分、本町から心斎橋まで2分、心斎橋から難波まで1分で合計9分です」

というように詳細を答えても間違いではありませんが、ここまで詳細な情報が必要かどうかは、状況に合わせて判断しましょう。

5W1Hに強弱をつけて伝える

情報を正確に伝えるために「5W1H(いつ、どこで、誰が、なにを、なぜ、どんな風にした)」に沿うという方法が知られています。5W1Hに1R(Result、結果、どうなった)を加えた「5W1H1R」や、Whom(誰に)を加えた「6W1H」などの言葉もあります。

5W1Hのすべてを同じ強さで伝えるのではなく、読者の顔を意識しながら、最も伝えたいポイントを強調する伝え方をしましょう。

たとえば「今、窓の外に黒い猫がいる」という情報も、相手の状況によって伝え方を変えるほうがよいでしょう。飼い猫が見当たらずに探している人には「窓の外にいますよ」と伝えることが先決ですし、「外で何か音がする」と怖がっている人には「猫がいるだけだよ」と伝えて安心させることが大事でしょう。

また、5W1Hのうち最も伝えたい部分は、文章の初めに伝えましょう。その他の情報は後から補足していけばよいのです。

参考になる物語として、「走れメロス(太宰治)」があります。「メロスは激怒した」という初めの1文が有名です。この1文のおかげで、私たち読者は「主人公が怒っている」と知ることができ、同時に「なぜ怒っているのだろう?」と疑問がわいてきます。

メロスが「いつ、どこで、なぜ、どんな風に」怒っているのか、という情報は後に補足されていき、物語が広がっていく様子が、非常に勉強になります。

終わりに

伝わりやすい文章を書くためには、常に読み手の顔を意識しましょう。「何のために文章を書くのか」「何を伝えたいのか」を明確にすれば、どのような情報を盛り込むべきか、逆に書かなくてもいい情報は何かが見えてきます。

今回は主に、情報の取捨選択や伝える順序について触れましたが、1文1文の読みやすさや、文章全体を分かりやすく構成することも大切です。これらはすべて、読み手の顔を意識し、疑問だらけの顔をしていた読み手を、「納得できた!」という表情に変えるためのテクニックなのです。

河野 陽炎