メガバンクの採用抑制は日本経済にメリット大

大量採用の時代は終わった!?

メガバンクの採用抑制は日本経済に大きなメリットをもたらす、と久留米大学商学部の塚崎公義教授が説きます。

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就職戦線が真っ盛りですが、今年はメガバンクが採用を絞っていると伝えられています。毎年大量に優秀な学生を採用しているメガバンクの採用抑制は、日本経済にとってプラスであるのみならず、メガバンク自身にとっても行員にとってもメリットがある「3方1両の得」だと言えそうです。

ゼロ成長とゼロ金利はメガバンクに逆風

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メガバンクは、ゼロ成長とゼロ金利で厳しい状況に置かれています。地銀とは異なり、多様なビジネスを行なっているので、厳しさが身に滲みるというほどではなさそうですが。

ゼロ成長だと、普通の企業は売り上げも利益も前年並みなのですが、銀行の貸出業務はそうではありません。借り手企業が能力増強投資をしないので、毎年の利益のうちで配当されなかった部分を借入の返済に回してしまうからです。更新投資は行いますが、その分の費用は減価償却で賄えますから、銀行借入には繋がらないのです。つまり、ゼロ成長だと、銀行の貸出業務は前年並みなのではなく、縮小してしまうのです。

融資残高を維持するためにライバル行の顧客を奪おうと考えて貸出金利を引き下げると、ライバル行も同じことを考えますから、お互いに貸出金利が下がるだけで貸出残高は増えません。

ゼロ金利の長期化も銀行にとっては痛手です。銀行の預金部門のコストがそっくり赤字になるからです。預金を集めなくても他行から金利ゼロで資金を借りてくれば良いので、短期的に見れば預金部門は不要なのです。そうはいっても、将来ゼロ金利でなくなった時に備えて預金部門は解散せずに維持せざるを得ないのです。

採用抑制はメガバンクにメリットあり

採用を抑制しても、新入社員の給料が浮くだけであれば短期的なメリットは小さいようにも思えますが、「短期的に苦しいので、採用を抑制する」というのは合理的なのでしょうか。

実は、結構合理的なようです。採用にかかるコストは大きなものがありますし、採用後の研修等にも多大なコストがかかります。そして、新入社員がミスをして銀行に迷惑をかけるリスクを考えると、これも期待値としてはコストと言えるでしょう。

今ひとつ、たまたまですが、今年のような売り手市場の時には、優秀な学生が採用しにくいでしょうから、無理をして優秀でない学生を採用してしまうよりは、採用を絞ったほうが優秀な学生だけを採用できるので、長期的にもメリットは大だと言えるはずです。

現役銀行員がリストラされる可能性が減る

バブル崩壊やリーマンショックに際して採用を絞ったことで、後日振り返ると企業内の「人口ピラミッド」が歪んでいた、という苦い経験を持つ企業も多いでしょうが、大丈夫なのでしょうか。その点も、今回に関しては問題ないようです。

銀行員の仕事は、中長期的には人工知能等によって少しずつ代替されていくと言われています。世界的にはキャッシュレスの流れが進みつつありますから、日本でも遅かれ早かれ現金の流通が減るでしょう。スマホ決済などが増えてくると、その分だけ銀行員の仕事は減るはずです。貸出の審査も人工知能が一部を担うことになるでしょう。そうなると、今後も大量採用に戻る可能性は大きくなさそうです。

むしろ、中長期的に銀行員がリストラされるリスクがあるわけですから、新入社員の数が減るということは、現役銀行員にとってリストラされる可能性が減ることを意味しており、彼らはホッとしていることでしょう。

優秀な人材が分散することで日本経済に資する

金融は経済の血液と言われていますし、金融業が重要な仕事であることは疑いのないところでしょう。銀行員を「自分では何も作り出さず、右の金を左に動かしているだけで高い給料をもらうケシカラン奴らだ」と揶揄する向きもあるようですが、それを言い始めるとすべての商業関係者の反発を受けますから、やめておきましょうね(笑)。

とはいえ、銀行があれほど大量の優秀な人材を集める必要があるのかというのは疑問です。「難関大学の卒業生が社会人として優秀とは限らない」という人がいるでしょうから、「優秀とは、難関大学の学生という意味ではなく、銀行以外の企業が採用したいのに、銀行に採用されてしまう学生のこと」としておきましょう。

メガバンクが採用を絞ることで、他社が採用したい人材がメガバンクに採られてしまうケースが減り、各社が採用したい優秀な学生を採用できるようになれば、日本経済にとって素晴らしいことです。

心配は、銀行志望の学生が減りすぎること

銀行の置かれた状況が短期的に苦しいこと、中長期的に銀行員の仕事が減っていくであろうことを考えると、銀行志望の学生が減ることが予想されます。採用数が減るわけですから、志望者が減ることは問題ないのですが、志望者が激減して採用数以上に減ってしまうのも問題でしょう。

上記のように、金融は経済の血液であって銀行が重要産業であることは疑いないわけですから、一定数の優秀な学生が応募してくれる必要があります。集まり過ぎも集まらな過ぎも問題ですから、適度に志望者が減ってくれることを期待しましょう。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

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塚崎 公義


1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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(雑誌寄稿等)
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