最近、アジアでフィンテックの起業に関するご相談を受けた場合、感覚的には香港やシンガポールがやりやすい印象があるので、どちらかをお薦めしています。

一方、残念ながら、世界のフィンテック企業の集まりや関連ネットワークの中では東京の存在感が小さいため、東京や日本のエコシステムやマーケットがどうなっているのか見えにくいというのが実感です。

そこで今回は、フィンテックのエコシステム整備状況などについて、どの都市が優位なのか考えてみたいと思います。

フィンテックの基礎環境ではシンガポールとロンドンが最高点

世界のフィンテック環境を概観するには、『Connecting Global FinTech: Interim Hub Review 2017』(Global FinTech Hub Federation & Deloitte)が参考になります。

この記事では、世界の主要44都市についてインデックス・パフォーマンス・スコアとハブ指標を付与しています。

インデックス・パフォーマンス・スコアとは、世銀のDoing Business Index、Global Innovation Index、Global Financial Centres Indexを活用して、ハブとしての数量的評価を行ったものです。都市別順位ではなくスコアが発表されています。

ハブ指標の方は、各都市にあるハブ機関に対して自己評価を行ってもらったものがベースの定性指標です。政府支援、イノベーション文化、金融・技術・起業家の質と量、顧客のフィンテック適応度、規制環境、外国起業家の誘致といった項目が調査対象になっています。

インデックス・パフォーマンス・スコアは、大きく3つの区分となっています。最上位カテゴリーを見ると、シンガポールとロンドンが最高スコアで、ニューヨーク、シリコンバレー、シカゴ、香港が続きます。

中位カテゴリーでは、スコアの高い都市から、チューリッヒ、シドニー、フランクフルト、トロント、ストックホルム、東京、台湾となっています。

フィンテック向けの国別VC投資額

どの国でフィンテックが盛り上がっているかは、VC投資が活発かどうかで決まるという面があります。フィンテック起業家としてはVC投資が活発な国が良いというのは人情です。

そのVC投資額を国別(2016年度)で見ると、1位は中国(77億ドル)、2位米国(62億ドル)、3位英国(7.8億ドル)、4位アイルランド(5.2億ドル)、5位ドイツ(3.8億ドル)、6位インド(2.7億ドル)、7位カナダ(1.8億ドル)、8位イスラエル(1.7億ドル)、9位香港(1.7億ドル)となっています。

その後に、ようやく日本(0.9億ドル)とシンガポール(0.9億ドル)が続きます。

東京へのプラス評価とマイナス評価

前掲の『Connecting Global FinTech: Interim Hub Review 2017』のインデックス・パフォーマンス・スコアで、東京は12位となっています。

そこで、東京に関する個別の評価シートを読んでみると、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、機械学習などの技術面ではプラス評価のようですが、マイナス面として、リスク回避文化、資本へのアクセス難、出口機会の制約が指摘されています。

日本では2016年頃にフィンテックのコンセプトが本格的に登場したばかりですが、一般社団法人Fintech協会が銀行業界に対して技術革新を促していることなどから、 2018年までに金融機関におけるフィンテック活用が相応に進むと見られています。

お薦めはやはり香港・シンガポールか

アジアで長く金融コンサルティングの仕事をしていると、時折、アジア人や欧米人のフィンテック起業家から、グローバルでやっていくためにアジアなら本社をどこに設置すべきかという相談を受けます。

これはケースバイケースなのですが、現状、一般論としては、どうしても香港かシンガポールになってしまいます。なお、最近、中東バーレーンのマナマも政府による諸政策があり関心が集まっています。

一方、東京については、グローバル起業家にとってスピーディーに仕事をする上では英語で一気通貫できるのが望ましいので、日本のマーケットだけでも相当に魅力があるということでなければ、残念ながらお薦めしにくいというのが現実です。

フィンテック業界の集まりやグローバルネットワークの方々と交流していても、東京での仕事環境や規制環境はほとんど話題になりません。

日本もフィンテック関連イベント等で盛り上がっているのだと思いますが、少なくともアジア人・欧米人起業家にとっては関心が薄れているような気がします。一昔前、よく言われた日本家電のガラパゴス化に近い印象をフィンテック業界でも感じます。

フィンテック起業家が頼りにするプラットフォーム

グローバルでやっていこうとするフィンテック起業家が頼りにするプラットフォームを思い浮かべると、たとえば、次のようなものがあります。これからフィンテックでグローバル起業しようという方がいらっしゃれば、ご参考まで。

なお、日本でも、一般社団法人Fintech協会が2015年9月に発足しています。

また、フィンテック業界では「regulatory sandbox」というものが一般的になっています。sandboxとは子供が遊ぶ砂場を意味し、政府等がイノベーションを実験できる環境を提供しているというものです。

最初は英国Financial Conduct Authority(金融当局)が2015年末にレポートでregulatory sandboxについて言及し、2016年中頃に実施されました。その後、香港、シンガポールなど20カ国近くで、この試みがなされています。

日本でも政府内で議論(『規制の「サンドボックス」制度について』 )が始まっており、昨年12月には経済同友会からも『「日本版レギュラトリー・サンドボックス」の早期実現に関する要望』が出されました。今後の展開が楽しみです。

日本経済の今後を大雑把に考えてみると、労働人口の減少に対処して一人当たり生産性を上げることが課題ですので、そのためにはイノベーションを立て続けに起こすほかないでしょう。

金融分野におけるフィンテックやそれによるイノベーションについては、香港・シンガポールに比べ半周遅れ気味の東京ではありますが、今年は「AIの民主化元年」でもあり、さらなる盛り上がりを期待しています。

大場 由幸