マレーシア総選挙(連邦議会下院、定数222)が9日、投開票されました。事前の世論調査では、マハティール元首相(92)を首相候補として擁立する野党連合・希望連盟(PH)が、推計支持率で与党連合をやや上回り接戦が伝えられていました。

野党が激戦を制したマレーシア総選挙

ナジブ首相(64)率いる与党連合・国民戦線(BN)は、選挙に備え選挙区の区割りを有利なように変更したり、BNが強いと言われるボルネオ島部や農村部に議席を手厚く配分したりと、対策を講じてきました。実際に、2013年の前回選挙では、与党連合の得票率が当時の野党連合の得票率を下回ったものの、小選挙区制のため与党が議席の約6割を獲得して勝利しています。

今回の総選挙の公式な開票結果では、マハティール氏率いる野党連合PHは113議席を獲得し、多数を握った一方で、ナジブ首相率いる与党連合BNは79議席の獲得にとどまりました。

PHの支持層は都市部の有権者や中国系・インド系の少数民族で、人口の大半を占めるイスラム教徒のマレー系民族は長年、BNを支持してきましたが、生活費の上昇やナジブ首相の巨額汚職疑惑といったナジブ政権に対する国民の不満を理由に、BNの支持者離れが地すべり的な勝利をPHにもたらしました。

マハティール氏は10日未明の会見で、野党連合は「圧倒的多数」で勝利したとし、政権を担うと宣言しました。会見では、すでに国家元首の国王側と連絡をとり、10日午前に新首相として認証式を行うよう調整を行ったとも言及しています。マハティール氏は92歳で首相に返り咲くこととなり、選挙で選ばれた指導者としては世界で最も高齢となります。

マハティール新政権の課題

マハティール新政権には課題もあります。まず、第一にマハティール氏自身の高齢問題です。マハティール氏は、ナジブ政権打倒を目指し、確執のあったアンワル・イブラヒム元副首相(70)と手を組みました。

しかし、アンワル氏は、かつてはマハティール氏の後継者とみなされていましたが、のちに対立し、その後は同性愛行為を巡り有罪判決を受けて、現在も収監中の人物です。マハティール氏は選挙に勝利した場合、国王にアンワル氏の恩赦を求め、釈放されればアンワル氏に首相の座を譲ると公約しており、これをどう進めるのか、注目されます。

また、マハティール氏が糾弾してきた公的資金流用疑惑を抱えるナジブ氏に対する処遇にも注目が集まります。マハティール氏は、「仕返しはしない。だが『法の支配』に従う」として、刑事訴追する可能性を示唆しました。

経済政策はどうなるか

中国の影響力が強まる中で、経済運営を順調に行ってきたナジブ政権の経済政策をどうするかにも注目が集まります。

マレーシア経済は2017年に5.4%成長を遂げる一方、インフレ率も3.7%と良好な状態でした。しかし、2018年の成長率は4.8%と2017年をやや下回る見通しです。新政権下でどのような経済政策を打ち出すのか、野党勢力の政権運営能力に懐疑的な見方もあり、市場は比較的厳しく見ているようです。

実際、選挙結果を受けて、マレーシアの通貨リンギは小幅ながら、対米ドルで下落しています。リンギは歴史的な安値圏にあり、長期的にリンギ上昇の流れにあると筆者は引き続き見ていますが、短期的には、新政権の財政・経済政策を巡る不透明感から、マレーシアの株式や通貨は売り圧力に晒される可能性があります。

かつて22年間政権を担い、マレーシアの工業化を推進して経済成長を導いたマハティール氏の指導力で、早期に市場の信任を取り戻せるかが、大きな鍵となるでしょう。

ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一