米国政府が中国ZTEへの米国製品の輸出禁止を打ち出し、大きな波紋が広がっている。クアルコムなど米国企業からの部品供給が止まったことで、ZTEのスマホ販売は非常に困難な状況に陥った。ZTEの本社直営店では全製品を撤去する一方、自社内のネット販売も中止した。

 アリババが運営する通販サイトのTモールでもZTEのスマホの購入ができなくなっている。この状況が続くのであれば、中国におけるスマホ1位のファーウエイ、2位オッポ、3位ビボ、4位シャオミなどにも、いずれ大きな負のインパクトをもたらすだろう。

アリババは人工知能向け半導体チップ「NPU」製造へ

 そうした状況下において「中国におけるアマゾン」といわれるアリババはとんでもないことを発表した。すなわち、アリババの運営する世界最高峰の研究機関であるDAMOアカデミーが半導体分野に本格参入するというのだ。DAMOアカデミーは世界7カ所の研究所で3年間1.7兆円の研究開発費を保有しており、これをフル活用して最先端技術を駆使する半導体製造に着手するというのだから驚きだ。

 しかも参入する分野はCPUでもなく、GPUでもなく、ましてやフラッシュメモリーでもない。人工知能解析と融和する、NPUと言われる人工知能向けの専用半導体チップに一気に踏み込む。NPUができあがれば、画像解析、映像解析を活用して、ディープラーニングにおいて、ウルトラ高速かつ圧倒的低消費電力の実現が図れることになるとしている。価格も安いといわれており、現在人工知能に使われている汎用品の40倍の効率を実現すると豪語しているのだ。

力業で半導体を国産化し迫る中国

 こうした動きの前に、中国政府は半導体技術を持つ企業が独立するのであれば、何と5兆円強の新ファンドを創設するとまで言い出した。何かと話題の多い清華紫光集団は今年後半から一気にメモリー半導体の量産に入るのだ。またファーウエイなどのスマホメーカーは、こうした動きに乗じて中国製メモリーの採用の検討を開始した。中国の国有企業が半導体を量産すれば、当然のことながら価格は一気に下がるだろう。メモリー特需で大きな利益を出しているサムスン電子、SKハイニックス、東芝メモリも価格競争に巻き込まれ、減益に追い込まれる可能性も強くなる。

 そればかりではない。ソフトバンクが3兆円を超える巨額を投じて手に入れた英国アームの技術も流出の憂き目にあっている。現地合弁会社の「アーム・ミニ・チャイナ」の先端技術が中国に移管してしまうのだ。この会社の出資比率はアーム49%、中国51%であり、もはや中国政府の意向で何でもできることになってしまう。ここに来てトランプもこれをかなり問題視しているのだ。

 それにしても、米国シリコンバレーに始まり、日本の九州シリコンアイランド、そしてまた台湾や韓国が死に物狂いで築いてきた半導体産業が、あたかもゴジラのような巨大怪獣ともいうべき中国によって踏みつぶされる、という悪夢が迫っていることは間違いない。「あなおそろしや」とはこのことだろう。

(泉谷渉)

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■泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
 30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉