需要と供給が一致するところに価格が決まるといいますが、日本のガソリン価格はニューヨークで動いている、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説明します。

ガソリンの値段は、ニューヨークの原油価格と為替レートを反映

最近、ガソリン価格が値上がりしています。しかも、数年前と比べると結構大きな値上がり幅です。どうしてでしょうか。経済学の教科書の基本中の基本は「需要と供給が一致するところに価格が決まる」ということですが、最近ドライブに行く人が急に増えたとも思われません。

実は、ガソリンの値段はニューヨークで動いているのです。それを反映して日本のガソリンの値段も動いているのです。そのメカニズムは、以下の通りです。

ガソリンスタンド(を運営している日本の石油会社)は、アラブの王様から原油を輸入しますが、「原油1リットルは◯ドル」といった値段は、ニューヨークで決まります。原油を売り買いしたい人が世界中からニューヨークに集まり、そこでの需要と供給が等しくなるように値段が決まるのです。

ガソリンスタンドとアラブの王様は、輸入する原油の品質を考えて「品質が良いので、ニューヨークで決まった値段より2%高い値段で取引する」といった契約を交わしてあるので、契約通りの値段で毎月原油を輸入します。

アラブの王様に送金するのはドルですから、ガソリンスタンドは銀行でドルを買う必要がありますが、ドルの値段(為替レート)もニューヨークで決まっています。ドルを売り買いしたい人が世界中からニューヨークに集まり、そこでの需要と供給が等しくなるように値段が決まるのです。

ちなみにドルは東京やロンドンなどでも取引されていますが、その際にはニューヨークで取引されていた値段を参考に取引される場合が多いようです。

ガソリンスタンドは、ニューヨークで決まったドルの値段に銀行の手数料を上乗せした値段で銀行からドルを買い、アラブの王様に送金して原油を輸入するわけです。

その時の値段に、原油をガソリンにするコスト、ガソリンスタンドの社員の人件費、ガソリン税、「適切な幅の利益」等々を上乗せしてガソリンの売値を決めるのですが、上乗せ分はそれほど大幅には変動しませんから、ガソリン価格が動く主因はニューヨークでの原油価格とドルの値動きということになります。

国内のガソリン供給には、需要が増えれば増える柔軟性あり

日本国内でドライブに行く人が増減しても、ガソリン価格にはあまり影響はありません。需要が増減しても、供給も同じように増減してしまうからです。つまり、ガソリンスタンドの供給は「コストに適切な幅の利益を上乗せした価格で買う客がいればいくらでも売るが、客が少なければその分しか売らない」というものだからです。

一方、野菜の値段は買い手が少ないと値下がりします。ガソリンも野菜も「需要と供給が等しくなる所で価格が決まる」のに、不思議なことです。

それは、野菜の売り手が「今日中に売らないと腐ってしまうから、買い手の状況を見ながら、今日中に野菜がすべて売れるように売値を決めよう」と考えるからです。ガソリンは腐らないので売り急ぐ必要がありません。つまり、野菜とガソリンは供給量の決まり方が全く異なっているのです。

ニューヨークの原油や為替の決まり方は複雑

ニューヨークの原油価格は文字通りの需要と供給で決まりますが、実はこれも、複雑な決まり方をしています。単にドライブに行く人が増えたから原油価格が上がった、といったことにはならないのです。

まず、原油を使う人の量は、それほど動きませんが、原油を掘る人の量は、結構変動します。原油が値上がりすれば掘る人が増える、という自然な動きのみならず、「産油国が相談して原油の生産を減らして原油価格を押し上げよう」といった動き(カルテルと呼ばれます)も時々見られます。

もちろん、カルテルに参加せず、原油価格が上がったら増産しようと待ち構えている国もあるわけですが。

より重要なのは、「原油価格が値上がりしそうだから今のうちに原油を買っておこう」という投機家が取引に参加することです。そうなると、「人々が原油価格が上がりそうだと思うと買い注文が増えて実際に原油価格が上がる」ということが起きるわけです。

ドルに関しても同様です。輸出入のためにドルを買う人、米国の高金利に誘われて日本の国債を売って円をドルに替えて米国の国債を買う投資家、といった普通の取引に加えて、「ドルが値上がりしそうだから、今のうちにドルを買っておこう」という投機家が活躍するのです。

野菜の値段は、投機家の影響を受けません。投機家が野菜の値上がりを予想しても、野菜は買いません。野菜を買って保存している間に腐ってしまうからです。コメであれば保存が可能なので、ある程度は投機家の活躍は可能ですが。

野菜やコメと比べると、原油とドルには「先物市場」があって、原油やドルを保管しておく必要がないので、投機家の活躍が非常に容易なのです。そうしたことも、原油やドルの値動きを激しくしている要因だと言えそうです。

なお、本稿は、拙著『経済暴論』の内容の一部をご紹介したものです。厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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塚崎 公義