はじめに

近年、政府が推し進めている働き方改革の一環として再び注目を集めているのが、オフィスにとらわれない、在宅勤務という就業形態です。ともすれば、こちらも最近よく目にする「テレワーク」と混同されがちな在宅勤務ですが、実は両者にはちゃんとした違いがあります。それぞれの特徴を理解することで、在宅勤務という働き方について、今一度考えてみましょう。

目次

1. 在宅勤務とはどのような就業形態か
2. 在宅勤務?テレワーク?モバイルワーク?
3. 在宅勤務に向いている仕事とは
4. 在宅勤務をするうえでのメリット・デメリット
5. 企業が在宅勤務を導入するメリットは
6. 企業が在宅勤務を導入した場合のデメリットは
7. 在宅勤務を経験してわかること

1. 在宅勤務とはどのような就業形態か

まずは、在宅勤務について見てみましょう。
在宅勤務とは、「企業から依頼を受けた業務を、自宅を拠点として行う」就業形態を指します。仕事を依頼する企業によって、在宅勤務のやり方は、実に様々です。

例えば、雇用の方法では、オフィスに通勤している人と同様に、在宅勤務者に社員という立場を与える企業もありますし、在宅勤務者に個人事業主となってもらい、請負契約を結ぶという企業もあります。また、就業ルールとして、定期の報告や連絡があれば完全に出社不要、としているところもありますし、定例会議等のために、月に数回の出社を義務付けているところもあります。ただ、介護や育児、その他もろもろの事情によって、通勤を伴う規則的な就業が難しい人にとっては、在宅勤務は、非常に魅力的な働き方といえるでしょう。

2. 在宅勤務?テレワーク?モバイルワーク?

テレワークの定義は、「情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」とされています。つまり、会社との連絡や、成果物の納品に、パソコンやモバイル端末、インターネット環境といった情報通信技術を活用することで、オフィス以外の場所でも、オフィスに出社しているのと同等の作業を行うことができる就業形態ということになります。

テレワークを行う場所に決まりはなく、自宅のほか、作業さえできれば、移動中の電車、客先も職場となります。ときには、サテライトオフィスとよばれる、本部以外の業務を行うためのスペースを企業が用意することもあります。

近年の在宅勤務においても、パソコンやインターネット環境が必要とされるケースが多いため、在宅勤務とテレワークは同じと考えられがちですが、両者の定義には、次のような違いがあります。

【在宅勤務】
・職場は自宅。
・就業において、必ずしも情報通信技術を使用する必要はない。

【テレワーク】
・職場は自宅とは限らない。(仕事ができれば、自宅外の場所も職場となりうる。)
・就業において、情報通信技術を活用している。

仕事に情報通信技術が絡むか絡まないかといった点においては、両者を明確に区別することは難しいですが、職場が自宅か、自宅以外も含まれるのかといった点については、明らかに両者に違いがあります。広く考えれば、電話やメール、Faxといった連絡手段も情報通信技術のひとつといえますから、「テレワーク」のうち、自宅を職場とする就業形態を「在宅勤務」とよぶ、というとらえ方をしたほうが、わかりやすくてよいかと思います。

なお、最近では、テレワークをさらに発展させ、携帯端末を中心に仕事をしていくモバイルワークという働き方も登場してきています。これは、スマホやタブレットを利用して、移動中や休憩中などの僅かな時間を使って稼ぐという方法ですが、今のところ、簡単なデータや文章の入力といった作業が中心のため、現状、これで高収入を得ることは難しいようです。

3. 在宅勤務に向いている仕事とは

では、実際に在宅勤務を行っているのは、どのような職種の人なのでしょうか。
代表的な職種としては、以下のものがあげられるようです。

【クリエイティブ系】
イラストレーター、ライター、漫画家、WEBデザイナーなど

【技術系】
建築士、CADオペレーター、SE、プログラマーなど

【未経験でもOK】
テレフォンアポインター、内職など

共通しているのは、企業側から、ある程度の指示をもらったら、あとは作業者自身の判断で作業をすすめるということができるという点でしょうか。

「テレワーク」という概念が浸透してきたことで、音声やビデオ通話による会議、インターネットを使った資料やデータの即時共有など、情報通信技術を活用することで、今まではオフィスに出向かないとできなかった作業が、オフィスの外でも比較的簡単に行うことができるようになってきました。
今後も、在宅勤務で行うことができる仕事の幅がどんどんと増えていくことが、期待できると思われます。

4. 在宅勤務をするうえでのメリット・デメリット

働く人にとって、在宅勤務で仕事をする最大のメリットといえば、通勤がないという点にあります。準備や移動中の時間の節約や、ストレスの軽減といった面を考えると、大きな魅力のひとつということができるでしょう。

また、在宅勤務の条件によっては、自分が都合の良い時間に自宅で作業が行うことができる方もいます。オフィスでの作業は、決められた勤務時間内での作業となりますが、在宅勤務の場合は、「今日できなければ明日」「まとまった時間を取ることが難しければ、こまごまとしたスキマ時間を利用しての作業」など、臨機応変に、仕事を進めることも可能なため、自由に時間設計してもよいという条件での在宅勤務は、働きかたを考える上でも、大きな魅力といえるでしょう。

しかし、在宅勤務には、サポートを受けにくいというデメリットもあります。簡単なことであればメールや電話でのやりとりで完結できますが、企業側の勤務時間外の夜中などに作業をするような場合は、トラブルが起きても、すぐには助けてもらうことができません。

また、すべての人に当てはまるわけではありませんが、個人事業主として請負契約をする場合や、出来高制での報酬ということになると、月によって収入が安定しないといった側面もあります。

5. 企業が在宅勤務を導入するメリットは

介護や育児などの事情により、オフィスへの通勤が難しい人にとって、在宅勤務はとても魅力的な就業形態といえますが、一方で在宅勤務は、仕事を提供する企業側にとっても、大きなメリットがあります。

例えば、多くの働く女性は結婚・妊娠・出産といった人生のターニングポイントにおいて、大なり小なり、仕事か家庭かという選択を迫られていくことになります。

特に、「妊娠や出産によって、オフィスへの通勤が難しくなった。」「子供が小さく、会社が指定する勤務時間では、働き続けることが難しい。」となってくると、それは仕事を辞めるかどうかの決断につながります。そして、その方が有能で意欲的な社員であった場合、その方が仕事を辞めてしまうことで、企業は貴重な人材を失ってしまうことになります。

在宅勤務という就業形態を企業が導入することで、通勤や勤務時間を理由に社員が仕事を離れてしまうというケースを、今よりも減らすことが期待できます。また、自宅という作業がしやすい環境で仕事を続けてもらうことで、将来的にオフィスへの復帰をスムーズにする効果も期待できるかもしれません。

また、在宅勤務という就業形態での人材を募集することで、家庭の事情等で、なかなか表に出ることのなかった有能な人材を、発掘することができるかもしれません。

6. 企業が在宅勤務を導入した場合のデメリットは

企業が在宅勤務を導入するにあたっては、メリットがある反面、デメリットもあります。

例えば、CADオペレーターなど、専用の機材を必要とするような職種の場合、依頼した業務を、作業者が滞りなく遂行できるだけの設備の準備は、一般的に企業側の負担となります。また、会社との連絡や成果物の納品などに、パブリックネットワークを使用することが考えられますが、社内だけではなく、社外に向けたシステムのセキュリティーの強化など、不正アクセスや情報漏洩といった事態に対する対策も必要になってくることが予想され、オフィスで勤務してもらう時よりも、設備等に関する費用が余計に生じる可能性があるといえます。

また、企業と作業者の間のコミュニケーションが、対面の時ほどスムーズにいかない可能性も否定できません。さらに、契約の内容によっては、仕事を依頼する企業側は仕事をする時間が決まっているのに対し、作業者のほうは自分の都合の良い時間に作業を行うケースもありますから、双方緊急の連絡を取りたい時に、相手に反応してもらうことができない、という事態も考えられます。

ただ、コミュニケーション面においては、対面の時よりも丁寧なやり取りを行い、それらの経験を積み上げてゆくことで、解決するケースの方も多いと思われますので、こちらについては、在宅勤務の導入を躊躇するほどのデメリットとはいえないのかもしれません。

7. 在宅勤務を経験してわかること

介護や育児などでなかなか外に働きに出られない方の中には、在宅勤務を経験してみたいという方も多いと思います。ただ、ここで注意したいのは、在宅勤務は、「単純に空いた時間を有効活用」というような、気軽なものではないという点です。

以下、いくつか在宅勤務経験者のエピソードを集めてみました。

【エピソード1】 作業時間すべてがお金になるわけではない。
会社に通勤していると、たとえ仕事がなくて待機という時でも、出社していることでお給料をもらうことができます。しかし、在宅でデータ入力を行っているAさんの話によると「私が選んだデータ入力のお仕事は出来高制。思いのほか作業に時間がかかっても、決められた一定額しかもらうことができません。仕事の効率が悪かったときは、時給単価を計算して泣きそうになった。」という状況もあるようです。

【エピソード2】育児をしながらの在宅勤務は想像していた以上に大変
育児をしながら在宅勤務を選択したBさんは、「在宅勤務を始める前は、自宅でパソコンを開けばすぐに仕事を開始できると思っていたのですが、子供が家にいる間は殆ど仕事になりませんでした。結果、朝と深夜の作業がメインになっています。」とのこと。育児をしながらお仕事をするというのは、たとえ場所が自宅であっても大変な状況だということでしょう。

【エピソード3】在宅勤務に対しての家族の理解が薄い
親の介護を視野に入れ在宅勤務を選択したCさんのケース「家にいるというだけで家族に暇だと思われて雑用を頼まれたり、たびたび話しかけられたりしてしまう。勤務場所が自宅になったというだけで、終わらせなくてはいけない仕事は山ほどあるのに…。」のように、意外にも家族を説得しなければ仕事に集中できないという落とし穴もあるようです。

【エピソード4】すべての苦労が水の泡
在宅勤務で、プログラム開発を行っているDさんのエピソードです。
「仕様の理解が間違っていて、納品物がNGと判断されてしまいました。当然、お金はもらえません。結構苦労した案件だったので、すべての苦労が水の泡、という感が否めませんでした。」Dさんは、忙しそうな企業側の担当者に手間をかけさせないようにと、やりとりを少なめにして作業をすすめていたとのことなのですが、それが企業側には、確認不足ととられてしまったようです。

こうしてみると、在宅勤務は、オフィスへの通勤よりも、高い作業効率と細やかなやりとりが求められる就業形態ということができるかもしれません。

おわりに

育児と仕事を両立したいという方や、難関の資格試験の勉強をしつつ収入を得たいという方などに、場所にとらわれない、フレキシブルな働き方として注目を集めている、在宅勤務やテレワーク。導入を進める企業も増えており、仕事の幅も増えつつあります。自分の生活スタイルにあわせて働くことができるという魅力の反面、甘い気持ちだけでは続かないという厳しい面もありますが、まずは、興味がある分野から、トライしてみてもよいのではないでしょうか。

LIMO編集部