資産をつくる人には共通点がある。たとえば、「嫌われることなく、周囲との協力関係をうまく構築できる」という点だ。資産形成がうまい人は、関係者とお互いに利益を分け合うことで、持ちつ持たれつの関係ができ、さらによい話が舞い込んでくるという好循環になっている。

 そうした「資産形成に必要なマインドセット」について、『年収1000万円の人が、5年で現金3000万円をつくる方法』の著者で、横濱コーポレーション社長の菅沼勇基氏に解説してもらった。

「給料以外の収入」という選択肢

 資産形成を始める前に、まず「どうしてお金を増やしたいのか」について考えてみましょう。

 私が投資を始めた理由の一つは、会社でも人生でも「ストレスなく過ごしたい」というものでした。多くの方は共感してくださるでしょうが、会社では思ったことを思ったままには言えません。どんなに上司の仕事のやり方が間違っていると思っても、普通は上司に逆らえばまともな仕事は来なくなり、出世の道は断たれます。

 そこで、「給料以外の収入」を得るために投資を始めました。出世の道が絶たれるのが恐ろしいのは、自分の給料、ひいては生活に響いてくるからです。その恐怖を投資によって減らしていければ、ストレスなく過ごせると思ったのです。

サラリーマンが別の収入源を持つ効果

 私の場合、このように目的が明確だったため、お金の増やし方にはシビアでした。もとより「なんとなく」ではお金は貯まりません。

 そうして別の収入源を得たことで「もしこの会社でダメになっても、食べていける」と考えるようになりました。それによって社内でも、上司を含めて思い切った言動をとれるようになり、効果があると思った方法はどんどん実践した結果、業績も上がっていきました。新しい収入源を得たことで、仕事でもうまくいくという好循環に入っていったのです。

似たような話は、同じようにサラリーマンで投資がうまくいっている人からもたびたびお聞きします。

資産形成に何より必要なもの

 資産形成がうまくいく人とうまくいかない人の違いは何か? 一言でいえば、それは「マインドセット」です。マインドセットとは、日本語に訳すと「考え方の基本的な枠組み」です。要は行動の基となる心構えのことです。

 すべての行動を規定する、このマインドセットを間違えていると、何をどうやってもお金が貯まる体質にはなりません。心構えも含めて、武道における「型」のようなものと言えます。

 資産形成・資産運用においても、まずは正しいマインドセットを身につけた上で、実際の投資をスタートさせることが大事です。

お金は目標を達成するための手段

 資産を形成するための最も大事なマインドセットは、「お金は目標を達成するための手段である」という考えです。言い換えれば、「お金を何に使いたいのか」が明確になっていることです。

 お金を貯めることは、それ自体が目的なのではなく、何かを行うための手段であるべきです。私の場合であれば、地元で「病院をつくりたい」「学校をつくりたい」「街をつくりたい」といった、自分のやりたいことのために、お金を貯めようとしています。

 単にお金を膨らませるだけでは、マインドセットとしては弱いので、途中でくじけてしまいます。稀に「通帳の残高が増えていくこと」だけを生きがいにできる人もいますが、そうした人はむしろ少ないでしょう。

 多くの人は、「毎年、海外旅行に行けるようになりたい」や、「子供の可能性を引き出すために、教育レベルの高い学校に通わせてあげたい、そのために塾にも通わせたい」といった目的のためにお金を貯めます。幸福を追求するための手段のひとつとしてお金があるのです。

幸福はお金の多寡に連動しない

 現に、収入が幸福度と比例するのは、600万~800万円までとされています。それ以上になっても、幸福感はそれほど上がってはいきません。では、それ以上の幸福をどうやって得るのか。この場合、「自己実現」の中にヒントがあります。

 アメリカの心理学者、アブラハム・マズロー(1908-1970年)が提唱した説によれば、人間の欲求には、図表1(別画像)のように5つの段階があります。

 最初は「生理的欲求」、つまり、食欲・性欲・睡眠欲・排泄欲といった生理的な現象が満たされることを望みます。そして、それが満たされると、安全に暮らしたいという「安全欲求」が生まれます。

 その次には、何かの集団に属したい、愛されたいという「所属・愛情の欲求」が生まれます。さらには、社会から認められたいという「社会的承認欲求」が生まれ、最上位には「自己実現欲求」があります。

6段階目の欲求

 マズローはこの「欲求5段階説」では最上位に「自己実現」を置きましたが、著書を読むと、その上にあるもう一つの段階を示唆しています。それは「自己超越欲求」です。

 図表2(別画像)に示しましたが、目的の遂行・達成だけを純粋に求めるという領域で、見返りも求めず、エゴもなく自我を忘れてただ「目的」のみに没頭し、何かの課題や使命、職業や大切な仕事に貢献している状態。自我の超越を求めること。それが自己超越の欲求です。

 

 ここまでいくと、いくらかスピリチュアルな雰囲気が漂ってくる話でもあるのですが、要は「利他性」がカギになります。「自分さえ幸せであればいい」という境地を脱して、他の人のために生きるとき、人間は自我を超越します。会社が大きくなればなるほど、社会貢献や、もっと大きな全体の幸福を考えるようになる経営者も多いのはそのためです(もちろん、そうでない人も多くいますが……)。

十分なお金があっても働くのはなぜ?

 経営者の方々で、何十億、何百億という資産を持っている人とお会いして話してみると、ほとんどの方は決してお金のためだけ、自分のためだけには働いていません。

「自分だけが裕福であればいい」という人であれば、貯金が1、2億円もあれば十分でしょう。食べるのはせいぜい1日3食ですし、服は一度に1セットしか着られませんし、車も同時に2台には乗れません。だから「自分だけが幸せならいい」人々は、ある程度成功したらビジネスを辞めてしまいます。

 しかし、中にはビジネスを「自分以外の人のため」にやる人もいます。どこまで売上を伸ばしてもビジネスをやめられない人は、ビジネスが上手くいっているときはもちろん、リスクをとってハラハラするときにさえ、「誰かの幸せのため」に生きているという実感を得て、それによって充実感を味わいます。こうした人を私は「ビジネス的麻薬中毒」と呼んでいます。

 まだ自分の仕事や生活に余裕がないときは、利己的になるのは当然です。しかし、徐々に余裕が出てきたら、どんどん利他的になっていき、他人にも優しくできるものです。まさに「衣食足りて礼節を知る」です。そうしたことが、周囲との協力関係をよくし、「持ちつ持たれつ」でうまくいくことにつながっていくのです。

精神的な余裕のためにやはりお金は必要

 かくいう私も起業して1年目から3年目くらいは、「いま生きていくためにどうすればいいのか」「一生懸命にお金を稼がなければいけない」と、正直、目の前しか見えていませんでした。精神的な余裕を持つために、やはり最初はお金が必要なのだと思います。

 しかし、それが4年目、5年目となるにつれて余裕ができてくると、社会貢献に興味が出てくるようになっていきました。基本的には、こうした「やりたいこと」や「目的」がなければ、資産形成は難しいでしょう。

 繰り返しになりますが、確固たる資産をつくるには、まず「なぜそれだけの資産をつくる必要があるのか」を自分の中で整理する必要があるのです。

筆者の菅沼勇基氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

目標を見据えて強く意識すること

 また、20万円貯める程度なら別ですが、金額が大きい場合、絶対に達成すべき目標として、たとえば「金融資産で3000万円をつくる」というように強く意識し続けない限り、その額に達することはまずありません。

 そうは言っても3000万円は大きなお金です。簡単に転がり込んでくる額ではありません。「簡単に手に入りますよ」という人がいたら、それは大風呂敷を広げて情報商材を販売したい人か、詐欺師だと思ったほうがいいでしょう。

「強く意識し続けない限り、高い目標には手が届かない」ということは、世の中の真理だと思います。たまたま儲かることなどほとんどありません。

 私は高校時代、野球に打ち込んでいましたが、なんとなく「甲子園に行けたらいいな」という心持ちで日常を過ごしている球児が、甲子園で活躍することはまず考えられません。やはり、高い目標を達成するために、「絶対に達成したい」と日々努力をする人しか、その舞台にはたどり着けないものなのです。

 

■ 菅沼 勇基(すがぬま・ゆうき)
横濱コーポレーション株式会社 代表取締役。1985年、横浜市生まれ。横浜市立大学卒業後、住友不動産を経て横濱コーポレーション設立。投資用不動産としてこれまで300棟の取引実績があり、現在、計300億円の資産を稼働率95%以上で運用。また、自身でも不動産投資を積極的に行い、家賃収入だけで年間2億円を超えるほか、医療法人の理事も務める。

菅沼氏の著書:『年収1000万円の人が、5年で現金3000万円をつくる方法

菅沼 勇基