退職金での投資、4人に1人が初めて

以前の記事、『退職後の生活資金を準備するための3つの掛け算と3つの対策』では、退職後の生活資金総額を考える3つの掛け算を紹介した。

その際に、対策も3つあると示した。3つのうち2つは必要額をいかに減らすかで、生活費の引き下げによる目標代替率の引き下げと退職後年数を減らすために長く働くことだ。そして残りのひとつは生活資金総額を賄うための資産運用だ。

退職後の資産運用というとすぐに思い出すのが、退職金での投資だ。しかしこれまで投資をしてこなかった人が、急に退職金で投資をすることはかなり心配な点が多い。

フィデリティ退職・投資教育研究所が2015年に退職金を受け取った8000人を対象に調査したところ、退職金で投資をした2676人の25.9%がそれまで投資をしていなかったことが分かった。

そもそも現役時代に投資をしなかった理由として、「まとまった資金がないから」と答える人がNISA(少額投資非課税制度)施行以前には非常に多かった。

2010年のアンケート調査では、投資をしていない人がその理由として「まとまった資金がないから」を挙げていたのは48.6%とほぼ半数だった。そうした人が、退職でまとまった資金を受け取ったのだから、投資に目を向けるのはわからなくもない。

相場の変動が自分の心にどんな変化をもたらすか

ただ、その際には価格の乱高下が自分の心にどんな波風をもたらすものかを理解することが大切になる。価格変動にどの程度まで泰然としていられるのか、どれくらいの変化で心が穏やかでなくなるのかを自分で知ることだ。

本来なら、現役時代に小さな金額でも資産形成を始めておくことが重要だが、まとまった資金の退職金であっても分割して投資をするのは必要なことだ。

無理をする必要がない退職後の投資

退職してからの資産運用で最も大切なことは「減らすことが目的だ」と理解することだろう。資産運用というと、多くが「いかに増やすか」に目が行くが、退職してからの場合には無理をする必要はない。

資産運用はいい時もあれば厳しい時もあり、現役時代なら厳しい時には生活資金はお給料などで賄い、運用の成果は日々の生活にそれほど影響を与えないだろう。そのためにじっくりと運用と向き合うことができる。

しかし、退職してからは資産運用の成果が生活費の原資に直結するため、現役時代以上に生活に直接影響する。

そこで念頭に置くのは、「使いながら運用する」という設定で、使っていくことと運用することのバランスを考えることだ。無理な運用をしないで、退職後は「資産は使っていくことで減るものだ」と考えれば、使って減る額よりも運用で増やす額が少なくていいと理解できよう。

合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史