最先端の半導体製造装置を開発・生産・販売する東京エレクトロン(TEL)は、何と放送事業者のTBS(東京放送)が出資し1963年に作られた会社である。今や半導体装置業界で国内ではダントツ、世界ランキングでも4位に位置するTELも、誕生当初はわけの分からない3流のカンパニーという評価であり、この会社に出資しようという企業はいなかった。ところが、TEL創業者の知り合いにTBSの人がおり、「面白い、半導体はものになるかも」という軽いノリで出資するに至った。現在もTELの本社は赤坂のTBSの隣にある。

目標を前倒しで達成、株価は2年で3倍に

 さて、TELは今日にあってサプライズの高成長を遂げつつある。2016年度の売り上げは7498億円であったが、2019年度までに1兆2000億円まで一気に伸ばすというアクションプランを打ち出した。

 ところがである。何と2017年度には1兆552億円に押し上げ、2018年度売上予想は1兆2880億円(4年前に比べ2.2倍!)となる見込みで、目標を1年前倒しで達成してしまうのだ。株価に至っては16年ごろに6000~7000円程度であったものが、何と3倍以上の2万円台まで押し上げている。

 TEL躍進の最大の秘密は何といってもデータセンターの主要記憶媒体が3D‐NANDフラッシュメモリー(これは世界トップをあの東芝・ウエスタンデジタル連合と韓国サムスンが争っている)になっていくことで、この製造に使われるエッチング装置(エッチャー)が爆発的に伸びていることだ。少し前の半導体メモリー工場では露光機1台でエッチャー1台であったが、直近では東芝四日市工場の場合、露光機1台にエッチャー8台が使われており、近い将来にはこれが20~30台になると予測するアナリストもいる。最先端フラッシュメモリーの多層化が進んでいるために起きている現象なのだ。

 こうなればエッチャーを量産する米国のラムリサーチ、同アプライドマテリアルズ、そして日本のTEL、日立ハイテクなどにすさまじい追い風が吹いてくることになる。先ごろ筆者はエッチャーを量産する東京エレクトロン宮城に出かけ取材したが、おそらく1日10台は作っており、生産量は昨年の倍となり、向こう3~4年間は注文でいっぱい、そろそろ新工場立地も考えたいと言っていた。

 このTELに人材派遣をしているUTグループ、さらにはメンテナンスの一括請負もしているジャパンマテリアル(いずれも上場会社)の売り上げも急増しており、この2~3年で倍増するだろう。UTグループは日本経済新聞が調査する中堅の売り上げ急増企業の第1位にランクされている。

 はてさて、おそらく多くのTBS関係者も含めた55年前の人々は、このTELの大躍進を全く想像できなかったに違いない。将来予見ほど難しいものはなく、あの映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」ですら、スマートフォンの誕生は予想できなかったのだ。

(泉谷渉)

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■泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
 30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉