半導体産業の活況を受け、主要材料の1つであるシリコンウエハーの需給環境は逼迫した状況が続いている。主流の300mmウエハーでは信越化学工業やSUMCOら主要シリコンウエハーメーカーが増産投資を実施しているものの、生産能力として寄与してくるのは2019年からと見られており、少なくとも18年いっぱいは厳しい調達環境となりそうだ。

「まずは値戻し優先」のスタンス崩さず

 業界団体SEMIの統計によれば、18年第1四半期(1~3月)のシリコンウエハーの出荷面積は、前四半期比3.6%増の30億8400万平方インチと過去最高を記録。16年後半から毎四半期高水準の出荷を続けており、需給環境は非常にタイトな状況が続いている。

 顧客である半導体メーカーはウエハーメーカーに対し、増産要請を再三行ってきたが、ウエハーメーカーは「まずは価格改定(値戻し)が優先」という姿勢を崩さなかった。一見すると傍若無人な態度にも映るが、過去を振り返ればウエハーメーカーのこの動きはごく自然なものといえる。

 実のところ、シリコンウエハーの価格は2000年代以降下がり続けており、ウエハーメーカーも業績悪化に苦しんでいた経緯がある。ITバブルやリーマンショック前の過剰投資により、需給バランスがなかなか改善しないなか、単価は下がっても、上昇することはなかった。

 付け加えると、最先端で用いられるシリコンウエハーは微細化に対応すべく、年々高精度化しており、製造・検査コストは数年前と比べ物にならないほど上昇している。ウエハーメーカーは現在の半導体市況の好調を「千載一遇」のチャンスと捉え、半導体メーカーを交渉のテーブルに着かせた。

増産分寄与は19年以降に

 16年末から主要顧客を中心に値戻しの交渉が本格化。18年末まで段階的に価格が上がっていく見通しで、SUMCOによれば300mmウエハーの18年末時点での価格は、16年末に比べて40%強改善する見通しだ。

 長年の悲願であった値戻しに成功したウエハーメーカーは徐々に生産能力増強に着手している。まずは生産性の改善(デボトルネック投資)によって、生産能力を高めたのち、生産ラインの空きスペースに製造装置を追加する「ブラウンフィールド投資」を現在行っている。

 しかし、ここで問題となってくるのが、増産投資が実際に寄与するタイミングだ。シリコンウエハーを製造する設備の納期が非常に長期化し、増産分が能力として加わってくるのが19年以降となるため、18年は「増え続ける需要に対して供給能力は横ばい」という状況が続く。SUMCOは17年8月に月産11万枚分の生産能力増強を発表しているが、実際に寄与するのは19年上期(1~6月)としており、リードタイムは1年半にも及ぶことになる。

 経済産業省が公表している生産動態統計でも、販売数量に生産数量が追いついておらず、月末在庫が減少傾向にあることがわかる。

 

新工場の必要性も現実味、今後も価格は上がり続ける?

 「争奪戦」の様相を強めるなか、半導体メーカーはウエハーメーカーとの間で長期契約を結ぶケースが相次いでいる。詳細は明らかにされていないが、TSMCやサムスンといった大手企業は3年にも及ぶ長期供給契約を結んでいるとされている。各社は「顧客と21年以降の契約が始まっている」(SUMCO)、「20年度契約分はすでに5~6割ほど埋まっている」(信越化学)としており、18~19年の生産分の大半が「売り切れ」状態となっていることがわかる。

 主要ウエハーメーカーは現在、ブラウンフィールド投資によって生産能力を高めようとしているが、余剰スペースにも限りがあり、21年以降を見据えれば新工場をゼロベースから立ち上げる「グリーンフィールド投資」の必要性も当然増してくる。

 SUMCOは先の決算説明会で、このグリーンフィールド投資について言及しており、これが行われれば、償却負担をまかなうためにもさらなる値戻しが必要であることを強調している。同社会長兼CEOの橋本眞幸氏は、16年末比で75%の値戻しがグリーンフィールド投資を行ううえでのボーダーラインであると示唆しており、しばらくはウエハーメーカーの強気の価格交渉が続くことになりそうだ。

(稲葉雅巳)

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳