少子高齢化では「仕送り」方式の制度維持は困難に

日本人の平均寿命が年々伸び、「人生100年時代」とも言われます。長生きできるのは喜ばしいことですが、心配なのは老後の生活費です。ずっと働き続けることができればいいのですが、それも難しいところです。収入を公的年金に頼らざるを得なくなるでしょう。

ただし、その公的年金も支給額は安心できるほどではありません。厚生労働省によれば、夫が平均的な給与で40年働き、妻が専業主婦という標準世帯の場合、支給額は月額22万1277円となっています(2018年度)。

ところで、この支給額は毎年変わるということを知っていましたか。

厚労省は毎年1月末に、新年度の支給額を発表します。2018年度の支給額は2017年度と同額に据え置かれました。月額22万1277円という支給額もゆとりのある生活を送るには安心できませんが、将来にわたりそれが約束されているわけではないことも不安です。

少子高齢化時代を迎え、財政も厳しいことから、支給額が増えることは考えづらく、今後はむしろ減っていくと予想されます。日本の社会保障制度は、現役世代が納めた保険料を高齢者に支給する「仕送り」方式になっています。このため、保険料を納める現役世代が減少すると、制度を維持することが困難になります。

2004年に「マクロ経済スライド」が導入される

公的年金の支給額はこれまで、賃金や物価の変動に応じて決められてきました。賃金や物価が上がれば支給額を増やし、下がれば支給額を減らしていたのです。これを「賃金・物価スライド」と言います。

2004年にこの仕組みを大きく変える制度が導入されました。「マクロ経済スライド」です。保険料を納める現役世代が減少したり年金受給者の平均寿命が延びたりしていることを考慮して、物価や賃金が伸びている間は、「スライド調整率」と呼ばれる額を支給額から差し引くというものです。調整率は約1%となっています。

「マクロ経済スライド」では、賃金や物価が上昇しても調整率分が引かれるため、たとえば1%物価が上昇しても年金支給額は据え置きになります。インフレが続くとその差は年々広がり、お金の価値も大きく目減りすることになります。

こうしたことから一部のマスコミや野党だけでなく、与党議員の中にも、「高齢者の生活費を減らす」と、「マクロ経済スライド」の導入に反対する声が少なくありませんでした。

発動はわずか1度のみ。2016年には改革法案も可決

2004年の導入の際に大きく注目された「マクロ経済スライド」ですが、その後の成果については疑問点もあります。というのも、「マクロ経済スライド」は、「スライド調整率」と呼ばれる額を支給額から差し引くのが大きな特徴ですが、導入以降、調整が実施されたのは2015年度の1度しかありません。

というのも、「マクロ経済スライド」では、賃金や物価が上昇した場合には約1%を差し引きますが、賃金や物価が下落した場合は、「名目額」を下回らないように(スライドを発動しないように)なっていました。このため、支給額はずっと据え置かれてきたのです。

そこで、2016年に可決した国民年金法改正案では、物価が上がっても賃金が下がれば、年金額を下げるようにしました。野党はこれを「年金カット法案」だと批判し、反対しました。現在の受給世代の支給額が減るのは確かです。

ただし、物価が上がっても賃金が上がらないという状況下で調整を行わないと、現役世代の負担は大きくなるにもかかわらず、受給世代は支給額が変わらないので「もらい得」ということになります。まさに既得権益です。

世代間の不公平感などの課題が大きいにもかかわらず、野党だけでなく、一部の与党議員も改正に反対したのは、やはり「選挙」がちらつくからです。これまで名目下限の存続にこだわってきたのも与党議員でした。地元に帰れば支援者は高齢者が中心です。「みなさんの取り分を減らして、若い世代にツケを回すのはやめましょう」とはなかなか言えないでしょう。

むろん、高齢者が本当に必要な生活費をなくすことは避けなければなりません。また、制度だけでなく、税収増など国自体の力を高めていくことも必要です。そのためにも、若い世代の人たちも「自分事」として関心を持ち、議論に参加すべきでしょう。

上山 光一