公立校のレベルの高さが住宅価格を押し上げるシリコンバレーの不動産事情

パロアルトにある小学校の1つ、オーロン・エレメンタリー・スクール(写真提供:筆者)

前回前々回の記事で、パロアルトの住宅価格が高い理由は、極端な需給のアンバランス(需要>>供給)からきていると説明してきました。その需要を支えている一番の要因は、レベルの高い公立学校です。

シリコンバレーで一番高いパロアルトの平米単価

2015年のパロアルトにおける住宅の中間価格は248万ドル($2.48mn、約2億8千万円)でしたが、この数字自体は決してシリコンバレーの中で一番高いわけではありません。例ば、隣町のロス・アルトスにおける中間価格は260万ドル($2.6mn、約2億9千万円)です。

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さらに、アサートンでは中間価格が600万ドル($6mn、約6億7千万円)を超え、“全米で一番高い郵便番号”と言われています。しかし、パロアルトの特徴は、平米当たりの単価が一番高いことです。言い換えると、価格が同じだとしても、パロアルトの家は平均的に狭いということになります。

2015

何を基準に公立学校が良いと判断するのか

カリフォルニア州では公立学校を評価する統一基準があり、2013年までは200から1000のAPI(Academic Performance Index)スコアとして発表しています。

シリコンバレーの全学校のAPIを見てみると、APIの高さとアジア系学生の割合が比例しているイメージを払拭できないというのが正直なところです。つまり、アジア系の学生が多い学校は、APIの点数が高いのです。

実際は、APIの点数が一番高い小、中、高校はそれぞれパロアルトにあるわけではありません。しかし、パロアルトの公立校の良さは以下の4点から説明できます。

(1)すべての学校のAPIが高い

シリコンバレーにあるほとんどの町では、APIの高い学校と低い学校が共存しています。しかし、パロアルトにある12の公立小学校、3つの中学校と2つの高校のAPIはすべて900点以上です。このAPIは、学年が上がるほど高く維持することが難しくなります。従って、パロアルトの学校が良いというのは高校のことを指していると言っても過言ではありません。

(2)生徒の人種は偏っていない

高いAPIは決してアジア系の学生が多いからではありません。パロアルトにあるほとんどの学校において、アジア系、白人とその他が3分の1ずつを占めています。生徒の多様性からくるカルチャーの豊かさは、子供達の価値観の豊かさにもつながります。

(3)ユニークな教育プログラムを提供している

パロアルトに2つの「チョイス小学校」があります。チョイスとは近所の子供達だけではなく、パロアルトに住んでいる全ての子供が応募し、抽選で入学することができるものです(記事冒頭の写真のオーロン・エレメンタリー・スクールも、このチョイス小学校の1つ)。

そして、この2つの小学校は全く違う教育方針に従っています。1つはアカデミック重視、もう1つは宿題やテストなしで、プロジェクト(問題解決)を通じて基礎知識を把握して行きます。後者はAPIがやや低いにも関わらず、近年人気急上昇しています。それは、シリコンバレーの革新を促進するというカルチャーに沿ったものだと思います。

(4)親の学校への参加

公立学校の良し悪しを判断する時に、学校のリソースや先生の質以上に重要なのは親の学校への参加です。育った環境やカルチャーからして、一般的にアメリカ人の親はアジア人よりも積極的に学校に参加しています。参加の方法は、時間(ポランティア)やお金(寄付)など様々です。

一方、アジア系の親は学校に対して、子供の成績を上げてほしいと要求しても、自らが何を貢献できるのかを考える習慣がまだ身に付いていません。私は娘が通っているチョイス小学校のPTAボードメンバーを務めていますが、アジア出身で初めてのボートメンバーでもあります。

PTAは親からの募金で学校へ金銭面での援助をするほかに、コミュニティ作りや子供達の勉強の意欲を上げるためのイベントを主催しています。さらに、学校のリソース配分に大きな発言権があり、学校による決定の1つずつが全生徒にとって有益であるかどうかを細かく見ています。

パロアルトらしい話としては、つい最近、ある親が子供が通っている公立小学校のリノベーション資金、1千7百万ドル(約19億円)を全て献金すると学校へ意思を表明しています。

そもそもカリフォルニアの公立教育は競争力があるのか

基礎知識という面では、パロアルトの小学生は同じ年齢の日本や中国の小学生より多分遅れています。よく日本人の友人が言うのが、4年生の子供が学んでいる数学は日本でたぶん2年生のレベルでしょうということです。

こちらの学校の、特に低学年では“Earlier is not always better”(早く始めるのは必ずしも良いことではない)の指針の下で、勉強の意欲やタイム・マネジメントの力を身に着けるのを重要視しています。

そして、中学校に入ると一気に勉強のペースを上げます。しかも、科目を自分で選び、スポーツや音楽など勉強以外のアクティビティを含め、ポートフォリオ感覚で自分の10代の過ごし方を設計していかなければなりません。

パロアルトの公立学校システムは、子供の早い時期から、自ら人生を設計していく習慣を身に付けさせます。しかし、近年、シリコンバレーの創業ブームは多少行き過ぎの面もあり、ギャンブルと誤解している子供達も出てきています。

詰め込み教育をずっと受けてきた私は、一流の組織で一生懸命働くのがずっと正論と信じていました。今はパロアルトで暮らす1人の親として、子供には努力をする覚悟とリスクをとる勇気のバランスをうまく取れるようになってくれれば良いと思っています。

【2016年4月5日 Jiang Xin(ジャン・シン)】

■参考記事■

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Jiang Xin

中国生まれ。早稲田大学商学部卒業後、メリルリンチ証券・投資銀行部門の東京とパロアルトで勤務。その後、ペンシルベニア大学ウォートン校にてMBAを取得。
2005年から2013年まで、日本のフィデリティ投信とサンフランシスコにあるマシューズ・インターナショナル・キャピタル・マネジメントで日本株を含めたアジア株のアナリストとして従事。
2013年からパロアルトを中心に、シリコンバレーで不動産の仲介と住宅の開発に専念。7歳になる娘の母親でもあり、シリコンバレーの住宅と教育事情に詳しい。