黒田電気の臨時株主総会に参加、新村上ファンドの次の手はいかに?

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新大阪に向かう新幹線の中にて(筆者撮影)

アナリストが気づいた3つのポイント

黒田電気側は、新村上ファンドの提案の狙いをうまく先取りしました。

黒田電気は有言実行と発信力が試される局面に入りました。結果が問われます。

株主重視の「伊藤レポート」の主役は、実は個人投資家になるかもしれません。

2015年8月21日。役者が揃う舞台、新大阪へ向かう

筆者は黒田電気の株主として、8月21日の臨時株主総会に出席する機会を得ました。黒田電気は一般にはあまり知られていない会社かもしれませんが、あの「村上ファンド」の流れをくむ投資家が黒田電気の大株主になっていることから、今回の臨時株主総会は株式市場の関係者の間では大変注目されていたのです。

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新大阪駅近くの本社で午前10時から始まる臨時株主総会に合わせて、筆者は東京から午前6時台ののぞみに乗り込みました。黒田電気と「村上ファンド」の流れをくむ投資家の対決がどんな結末になるのか思いを巡らしていますと、富士山を拝むことも忘れ、あっというまに9時過ぎに新大阪に到着です。

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新幹線での道中、臨時株主総会の役者と論点を整理

村上ファンドとは何者か

皆さん、「村上ファンド」という言葉を覚えておられますか?

2000年代前半に株主価値の最大化を掲げ、「もの言う株主」として通産省のエリート官僚だった村上世彰氏が率いた投資ファンドです。東京スタイル、ニッポン放送、東京放送(TBS)、阪神電気鉄道などの大株主となり、株主重視や業界再編に少なからぬ貢献を果たした投資ファンドでした。しかし、ライブドアによるニッポン放送株の買い付けにかかわりインサイダー取引を行ったとされて有罪になり、シンガポールに拠点を移すなど日本の表舞台から離れていました。

村上世影氏の娘が代表を務める新村上ファンドが登場

では、今回なぜ村上ファンドが関係するのでしょうか。実は今回黒田電気に対して、新しい取締役4名の選任を求めて「臨時」の株主総会の開催を求めたのが、C&I Holdingsおよび南青山不動産という会社です。今回このファンドが、共同保有者と合わせて黒田電気の18%の株を保有し(2015年8月6日付C&I Holdings社レターによる)、頭角を現してきたのです。そして、この代表者が、村上世彰氏の娘である村上絢氏なのです。これからはこのファンドを“新村上ファンド”と呼ぶこととします。

ROE重視を説く「伊藤レポート」で、旧村上ファンドの本来のミッションをコード化

筆者が今回の事例に注目するのはこれだけではありません。旧村上ファンドが活躍したのは、1990年代のバブル崩壊を乗り越え、小泉政権下で新自由主義的な経済政策がとられていた時期でした。今回は小泉元首相の盟友である安倍首相のアベノミクスのもとで景気が回復している局面です。

特に注目すべきは、アベノミクスの重要な支柱の一つとなっている「伊藤レポート」(2014年8月、経済産業省)です。一言でいえば、企業は株主重視の姿勢を強めよ、ROEを重視しなさいという内容です。まさに旧村上ファンドの本来のミッションがコードとして明文化されたのです。実際に多くの企業がいまこれに倣おうとしている、まさにその矢先に村上絢氏が舞台に登場したのです。

黒田電気とはどんな会社か

一方、黒田電気(証券コード:7517)はどんな会社でしょうか。社名に電気とありますが業種は卸売業です。本社は大阪市淀川区。1947年に設立され、現在の連結従業員は4,700人強。2015年3月期の連結売上高は3,264億円、営業利益が99億円、ROE10%と好業績をあげています。

商社としても立派な経営成績ですが、これには秘密があります。単に部品を右から左へ流通させるのではなく、顧客ニーズに密着し部品を加工して納入することで利益率を高めているのです。具体的には液晶関連のモジュール組立、ハードディスクドライブ部品の製造、自動車関連の金型の製造などを手掛けています。

筆者は機関投資家として黒田電気に取材に出向いたこともあります。2002年ごろが最初だったでしょうか。実直な会社だ、というのがその時の印象です。

臨時株主総会の論点

さて、今回の臨時株主総会の争点は、現在6名の取締役(うち社外取締役3名)に、新たに最大4名の取締役を加えるべきか否か、です。新村上ファンドによれば、4名の選任によって、(1)黒田電気に必要なM&Aの推進が加速する、(2)その上で今より手厚い株主還元が実現できる(当期利益の全額を配当などの株主還元にあてるなど)というメリットがあるということです。

なお、黒田電気側はこの提案に全面反対の意見を表明しています。

臨時株主総会実況中継

午前10時、臨時株主総会が始まる

入口で4名の取締役候補について4色の投票用紙が渡され、5階の会場に向かいます。会議室は満席です。

午前10時、黒田電気の細川社長を議長として議事がはじまりました。大阪地裁の検査役がオブザーバーです。まず村上絢氏から議案の説明が行われました。その後、細川社長から提案反対の説明がありました。

会社側の説明のポイントは、既にガバナンス体制が確立されていること、黒田電気は単なる商社機能だけではなく顧客に寄りそった製造事業が重要であり、純粋な部品商社とのM&Aは企業価値の向上には結びつかないこと、などです。

白熱の質疑応答

その後、株主からの質問に対して会社側と新村上ファンドが回答する質疑応答が1時間以上続きました。会社側だけでなく、新村上ファンド側への質問も多く出ました。ちなみに提案者である新村上ファンド側には回答義務はないということですが、質問に対しては一つ一つ回答していました。

臨時総会の主な論点。一般株主からの実のある質問が印象的

この総会、一般株主の質問は元機関投資家のアナリストから見ても実のある内容でした。主な論点はこんな感じです。

  • 黒田電気の資本コストに対する認識や株主還元に対する姿勢
  • 取締役候補それぞれの適正、必要性
  • M&A、業界再編に対するスタンス
  • 6名に4名の取締役を加えたとして、新村上ファンドの主張はどこまで通るのか
  • 株主重視が行き過ぎることが取引先や従業員に認識されることで黒田電気の不利益にならないのか

筆者は、こうしたやり取りの中で、「新村上ファンドの狙いは、少なくとも取締役一人を送り込むことかなぁ」と感じ始めます。質問者である一般株主側の真剣な問いかけに対し、会社、新村上ファンドの応酬は、正直なところ原稿の読み合いの部分が多く、自分の言葉で自らの信念に関してエビデンスを持って力強く語る、という展開にはなりませんでした。

採決へ

11時半を過ぎ、質疑を終了し、出席者は各候補の選任に対する是非を投票用紙に書き込み投票箱に入れます。

これまでのやり取りを踏まえたうえで、筆者は、「ファンド側の主張も分かるが、具体性に欠ける部分が多く、4名全員を選任しても黒田電気の経営に関する実効性はあまりない」と考えました。一方、どこの歴史のある企業にも応用できるかもしれませんが、前席に陣取る取締役などの経営陣の顔色を見ると、「黒田電気のためには一人二人くらい異分子がいたほうがいいのかなあ」とも悩み始めます。

12時に結果発表。驚きの結果に

12時前に投票が済み、12時に結果が発表されました。総会欠席者の方が圧倒的に多く、事前に投票をすませているので、集計はすぐに終わりました。結果は、4名の取締役候補者が全員否決されました。個人的には少し驚きの結果でした。

臨時株主総会後、東京に向かう新幹線の中で考えたこと

新村上ファンドは敗北したのか

提案した取締役候補者が4名とも否決されたので敗北ではありますが、よく考えてみると新村上ファンド側に何もメリットがなかったわけではありません。

一つには2015年5月に発表された黒田電気の新中期計画で、「集中と選択を進め、事業提携・M&Aを進める」と表明されていることです。もう一つは同年7月に発表された業績連動要素を取り入れた新しい配当政策です。2016年3月期の通期の配当は36円から94円に引き上げられました。

黒田電気側は否定するでしょうが、ファンドの存在があったからこそ、黒田電気側も先手を打って対応してきたと言えるでしょう。従来に比べて、株主全体にとって良かったと言えるのではないでしょうか。

黒田電気は「有言実行」を求められる局面に

黒田電気側はこの臨時株主総会を首尾よく乗り切りましたが、のんびりはできません。新村上ファンドの前で、成長投資と株主還元強化を約束してしまったからです。世界景気に不透明感が増す中、来年の株主総会に向けて従来にも増して緊張感のある経営が求められています。

新村上ファンドの次の一手とは

このように考えると、新村上ファンド側の今回の株主提案の狙いはどこにあったのか、釈然としません。しかし今回の結果をもって市場で株式を売却すると目立ってしまいます(共同保有者分も含め)。黒田電気に自社株買いを求めるか、あるいは黒田電気の新しい投資家を見つけてくる必要がありそうです。

筆者としては、とりあえず配当をもらいながら、じっと1年待ってみるのがいいのではないかと思います。その間に“もう少し説得性のある株主提案”を準備してはどうでしょうか。

「もの言わぬ個人投資家」はいなくなる

いろいろな株主総会を見てきましたが、今回の臨時総会では個人株主の質疑のクオリティが高かったと思いました。ファンド側にロジックを求める迫力ある株主もおられました。現金配当と株主優待を厚くすれば個人投資家はものを言わないと、たかをくくることはもはやできません。

株主重視をうたう「伊藤レポート」はどちらかと言えば、上からあるいは外部からやってきた感じがしますが、実は個人投資家層で株主重視という“地殻変動”が進んでいるのかもしれません。個人投資家が従来より低コストで自由に世界中の投資対象に手が出せるようになってきたことがその背景にあるのでしょう。「伊藤レポート」の主役は実は個人ではないか、そんな印象で帰路に着きました。

アナリスト表明:

本記事の筆者は、株式会社ナビゲータープラットフォーム入社以前から黒田電気株を保有しています。そのため、過去において同社の投資判断を記事中で述べたことはなく、今後もその予定はありません。

【2015年8月22日 椎名 則夫】

■参考記事■

>>失敗しない投資信託の選び方:おさえるべき3つのNGと6つのポイント

>>ネット証券会社徹底比較:株も投資信託も気になるあなたへ

椎名  則夫

早稲田大学政治経済学部を卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。証券運用と法人融資に携わる。
シカゴ大学MBA取得。フィデリティ投信に入社、中小型株全般、医薬品・ヘルスケア、保険、通信、インターネットの企業調査に従事。その後モルガンスタンレー証券にて株・クレジットのリスク管理業務を行う。
日本証券アナリスト協会検定会員、CFA。