この記事の読みどころ

海外投資家は2015年9月に前月を大幅に上回る大量の日本株の現物を売りました。

この結果、海外投資家が2014年10月末の日銀のハロウィーン緩和以降に積み増したポジションの整理はかなり進みました。今後はアベノミクスの信頼維持が彼らの売買動向を決めるカギになります。

海外投資家の売りに対して、買い向かっているのは個人、信託銀行と事業法人です。今後は事業法人の余剰現金の使い方が需給を決める注目ファクターになるでしょう。

海外投資家は4か月連続で日本株の現物を売った

日本取引所グループの週次データを累積すると(2015年8月31日から9月25日までの累計)、海外投資家の日本株現物の売買は、2015年6月以降4か月連続でネットで売り越し(売りが買いよりも多かったという意味)になりました。売り越し額は、6月約1,700億円、7月約3,000億円、8月約1兆1千億円に対して、9月は2兆4千億円程度の売り越しと推計されます。

前月の記事で「2015年春先以降の買い越し分のポジションの解消リスクが残る」と述べましたが、9月にはこの買い越しはほぼ全て解消されています。もう少しさかのぼると、2014年10月末のハロウィーン金融緩和以前のポジションに戻ったと言えそうです。

アベノミクスの信頼維持こそ、今後の海外投資家の行動を決める

つまり、海外投資家の現在のポジションはアベノミクスに一定の信認が出始めた頃の水準まで戻っているということです。これを踏まえて、今後海外投資家が日本株の売り姿勢を強める可能性には2つのシナリオがありそうです。

1つは、資産市場全体のリスク許容度が低下し、極端なリスクオフ相場になる場合。しかしこの場合は情勢が落ち着くや否やリスクオンに戻るため、筆者はあまり気にしていません。

もう1つは、アベノミクスの信頼が失われ「日本はやはりだめだ」と海外投資家に見捨てられる場合です。この場合はアベノミクス開始前まで売り込まれる危険性があります。

海外投資家はアベノミクスの何に期待しているのか

では、具体的に海外投資家は何を期待しているのでしょうか。実は、海外投資家は「デフレ脱却」「2%の物価上昇」「(合計特殊)出生率1.8」「介護離職ゼロ」などを期待しているのではありません。

海外企業は、日本企業が事業環境の変化(これは今のような事業環境の悪化も含む)に適切に順応し、株主価値増大・ROE向上のために柔軟に自己変革できるのかを見極めたいのです。コスト構造や事業ポートフォリオを柔軟に変更し、必要なら果敢に投資を実行し、M&Aを敢行し、そして使いみちのない現金は株主に積極的に還元する、そうした行動を求めています。

今後は事業法人の株式売買も注目に

今後の株式需給の買い手として、買い越しに転じている個人・信託銀行や日銀に加えて、事業法人の株式取得(自社株買い)に、さらに注目が集まるでしょう。9月の事業法人の買い越しにはスズキ(7269)の自社株買いの寄与が大きいようですが、そればかりではないようです。日本企業の環境適応力の1つのバロメーターになるはずです。

LIMO編集部