三井住友アセットマネジメント 横山邦男 × 楽天証券 楠雄治

2015年9月18日より、楽天証券三井住友アセットマネジメント(以下、SMAM)が運用する確定拠出年金(以下、DC)向けファンド4本(三井住友・日本債券インデックス・ファンド、三井住友・DC新興国債券インデックスファンド、三井住友・DC全海外株式インデックスファンド、三井住友・DC新興国株式インデックスファンド 以下、本4ファンド)を、一般向け(DC以外)としては初めて取扱いを開始しました。本4ファンドは、楽天証券が取扱う投資信託の中でも最低水準の信託報酬です。

今回は、両社トップマネジメントに本4ファンドを提供・販売することに至った背景や、より多くの方に投資信託を身近な資産形成手段としてご活用いただくために運用会社と販売会社であるネット証券がどうしていくべきかなどについて、お話を伺います。

投資家に伝えたい3つのポイント

  • 2015年9月より、楽天証券はSMAMが運用する確定拠出年金(DC)向けファンド4本の取扱いを一般向け(DC以外)としては初めて開始しました。
  • SMAMの「フィデューシャリー・デューティー宣言」では、お客様に対し「運用責任を全うする」ため、これまでの「運用」に加え、「商品開発」、「お客さまサービス」、「経営インフラ」までを含めています。
  • 本4ファンドは投資経験者だけではなく、資産運用初心者の方も購入されており、個人投資家の資産運用の選択肢を広げています。

個人投資家の資産形成の選択肢を広げる

 

――はじめに、SMAMとして本4ファンドを楽天証券から個人投資家向けに提供しようと意思決定された背景から教えていただけますでしょうか。

三井住友アセットマネジメント 代表取締役社長 兼 CEO 横山邦男(以下、SMAM 横山):日本の個人金融資産は約1,700兆円ありますが、そのうち投資信託は約100兆円しかありません。一方で、預金は約900兆円あります。私はこれを「スリーピングマネー(眠っているお金)」と呼んでいます。この900兆円を活性し、「貯蓄から投資」の動きを本格的なトレンドとすることで個人の資産形成を進めていくことができますし、投資の一部が日本企業の成長投資に活用されることになります。個人投資家の資産形成や日本経済にとって今後は大変重要であると考えています。今回のファンドはそうしたきっかけになる投資信託になってくれればという思いで提供させていただきました。

――資産運用に関しては、これまではほとんどが銀行預金という方も多いと思います。「貯蓄から投資」という動きはどのようなきっかけがあれば本格的なトレンドになるのでしょうか。

SMAM 横山:900兆円の「スリーピングマネー」の中には、投資経験がないという方が多いと思います。まずは初心者でも投資しやすい投資信託が必要だと考えました。その中で重要視したのが、DCの持つ「長期・分散・積立投資」というコンセプトです。DCで運用実績を積んできたファンドをより多くの方にご活用いただき、着実な資産形成に取り組んでいただくことで、「貯蓄から投資」の本格的なトレンドを作ることができればこれほどうれしいことはありません。

――なぜ楽天証券で本4ファンドを提供されるのに至ったのでしょうか。

SMAM 横山:SMAMは2015年4月1日から、国内大手アセットマネジメント会社の中では初めてインターネットによる直販に参入しました。直販サイトでもまた別のDCファンドを一般向けに扱っていますが、それだけでは個人投資家との接点は十分とは言えません。個人投資家の中での知名度や集客力のある楽天証券さんの力をお借りして、お客様の裾野を拡げ、日本の資産運用市場を活性化させることができれば、という思いで今回ご一緒させていただくことになりました。

運用会社の役割を明確化―「フィデューシャリー・デューティー宣言」とは

――投資経験のない方にも扱いやすい金融商品を提供するというお話がありましたが、投資家にとって必要な投資信託を新たに設計し提供していくことも運用会社に求められる役割ですね。

SMAM 横山:その通りです。運用会社の役割を分かりやすく定義し、また改善していくため、2015年8月27日に我々は「フィデューシャリー・デューティー宣言」を行いました。お客様の大切なご資金に対し「運用責任を全うする」ことを当社の役職員がお約束するものです。これまでは、「運用」に注目がされていたと思いますが、当社の「フィデューシャリー・デューティー宣言」では、より広義の「運用責任」を設定しています。これまでの「運用」に加え、「商品開発」、「お客さまサービス」、「経営インフラ」までを含めています。

――これまでも顧客資産の「受託者責任」はあったかと思いますが、今回改めて宣言された背景について教えてください。

SMAM 横山:業界内では、受託者責任の話を持ち出しても、「もうすでにやってるよ」「何を今さら」という反応が返ってくるのが普通です。しかし、私からすると、十分とは言えないだろうと考えています。たとえば、お客様向けの投資信託の目論見書や販売用資料、あるいはそうした資料が掲載されているホームページは投資をこれから始めようとする方や初心者の方には分かりにくいと思います。また、説明資料にやみくもに法律用語を使えばそれでいいのか、と思うような場面もあります。そうした開示姿勢は金融商品を提供する側の満足感やコンプライアンス上の理由に過ぎず、お客様に理解してもらおうという姿勢が十分とは必ずしも言えません。

――「フィデューシャリー・デューティー宣言」を徹底すると、投資家にとってはどのようなメリットがあるのでしょうか。

SMAM 横山:投資信託は投資の初心者にとっては扱いやすい金融商品だとは思います。一方で、投資信託は販売会社である銀行や証券会社、委託会社である運用会社、受託会社である信託銀行等の多くの人が関わる仕組みになっており、投資信託初心者の方には、投資信託のコスト構造は分かりにくいと思います。たとえば、なぜ販売手数料が3%なのかとか、各社がどのようなサービスを提供しているからこの水準の信託報酬をいただきますよという説明も不足しています。今後は各社の役割をより明確化することで投資信託のコスト構造もより理解しやすくなるのではないのでしょうか。

楽天証券 楠雄治社長(左)、SMAM 横山邦男社長(右)

個人投資家の資産形成におけるネット証券の役割-大衆化の歴史

――ここまでは、個人投資家の資産形成にとって本4ファンドに期待される役割についてお伺いしてきました。ここからは、ネット証券が個人投資家向け資産運用プラットフォームとして果たすべき役割についてお伺いしたいと思います。まだネット証券になじみがない方もいらっしゃると思いますので、はじめにネット証券の歴史について教えてください

楽天証券 代表取締役社長 楠雄治(以下、楽天証券 楠): 1999年10月1日の株式売買委託手数料自由化のタイミングで多くのネット証券会社が創業しました。その後、インターネットやスマホの普及により、どこにいても取引できるという環境が整い、お客様が増えてきています。ここ最近は、証券会社に口座を開くのだったらまずはネット証券に開くというお客様も多いです。インフラやハードウェアの普及と変化とともにネット証券が大衆化してきた歴史といえます。

――ネット証券の大衆化ということですが、その中での楽天証券の立ち位置について教えてください。

楽天証券 :楽天証券の口座数はもうすぐ200万口座に到達する勢いです。楽天証券は楽天グループのネット証券ということで、楽天グループの1億IDにアクセスできる唯一のネット証券ということになります。現在はインターネットが普及し、また楽天証券が楽天グループの中にいるということもあり、これまで資産運用や株式市場になじみの薄かった方も口座を開いているというのが現状です。楽天スーパーポイントをプレゼントするキャンペーンなどを実施することで、これまで投資にそれほど興味がない方でも関心を持っていただき、気軽にネット上で手続きをして、口座を開設していただいています。

――ネット証券の大衆化の話もありましたが、富裕層とネット証券の相性はどうでしょうか。

楽天証券 :当社は、独立系フィナンシャル・アドバイザー(IFA)というアドバイザーのビジネスも行っています。その場合は、取引に際してアドバイザーがいますので、アドバイスにサービス対価を払っていただいていますが、富裕層も自分のポートフォリオはネットを通じてスマホやPCで見ています。したがって、ネット証券は資産の多寡にかかわらず、なくてはならないプラットフォームになっていると言えます。

本4ファンドが起こしつつある資産運用の内容の変化

――本4ファンドの信託報酬は20ベーシスから60ベーシス台で、相当お手頃な信託報酬の水準になっています。SMAMはアクティブファンドも取り扱う中、この報酬水準では、他のアクティブファンドに影響が出るのではないかと考えてしまいますが、改めて本4ファンドの狙いを教えてください。

SMAM 横山:インデックスファンドである本4ファンドをご提供することで投資初心者の方に興味を持っていただき、投資を身近なものにしていただけたらと考えています。では、当社のアクティブファンドがどうかというと、まず今回ご提供させていただいた本4ファンドで投資経験を積んでいただき、さらに資産運用に興味が出てきた際には、アクティブファンドに挑戦していただきたいと考えています。投資信託の中でも投資経験による階段があると思います。

――実際、投資経験の長短で資産運用の内容は変化するものなのでしょうか。

楽天証券 :当社のお客様を見ていると、投資初心者はインデックスファンドを1から2本購入するところからから始める傾向にあります。ただ、ある程度の投資経験を積むと、インデックスファンドだけではない金融商品や資産に興味を持ち、順次広げていく方が多いです。今回の本4ファンドの動きも見ているのですが、全く投資が初めてという方もいらっしゃれば、既にいろいろな金融商品を試した後で、本4ファンドを購入されている方もいらっしゃいます。

投資を始める前の投資教育の重要性-中学・高校からでも早過ぎない

――ここまでのお話から、運用会社の商品開発の工夫やネット証券の普及といった投資環境の整備が進んできていることは実感できました。今後、より多くの人に「貯蓄から投資」を実践してもらうためには、どのようなことが必要となるのでしょうか。

SMAM 横山:日米を比較すると、日本では投資教育が不足していると思います。税制や制度面の違いはあるものの、投資や資産形成を考えるきっかけづくりも、必要なのかもしれません。当社は漫画「インベスターZ」を活用するなど投資初心者向けのツールを多く開発し、投資教育に取り組んでいます。また、こうした投資教育を展開する取り組みは、資産運用業界や証券業界としてみんなでやらなければならないと考えています。若い世代が投資を身近に感じるような取り組みを今後も企画し、展開していこうと計画しています。

――ジュニアNISAも若い世代の投資教育を浸透させるきっかけになるのでしょうか。

SMAM 横山:2016年からジュニアNISAが始まります。親が子供のために資産形成をするというのもいいですが、子供が投資教育を受けることによって、たとえばお年玉で投資を始めてみるとか、そのような状況になれば変化が起きつつあると手ごたえを感じることができるでしょうね。子供の時から投資に関して自分で考えて行動することで経済や投資が身近なものになってくると思います

SMAMの運用会社としての事業戦略-若い世代の資産運用に寄り添うイノベーター

――SMAMが運用会社として目指すべき姿とはどのような内容でしょうか。また、他の資産運用会社とはどのような差別化を行っていくのでしょうか。

SMAM 横山:日本の運用会社や大手証券、銀行で投資信託や資産運用に関わる部署は高齢者層に相当程度フォーカスをして事業展開しているのではないかと思います。ただ、私は当社をより一層、若者を始めとした資産形成層に寄り添う会社にしていきたいと思っています。そうしたアプローチを他の運用会社と比較すれば、当社は違う会社になりつつあるのではないかと思います。そのビジョンを実現するために楽天証券さんが販売面や投資教育面でご協力してくださっているというのが実際です。

――ターゲットとする顧客層が異なれば、今後のSMAMの商品は企画から変わってくると理解してもよいでしょうか。

SMAM 横山:確実に変わってきますね。運用会社はややもすると銀行や証券会社がお客様だと思いがちですが、最終投資家はその先にいる個人のお客様です。その方々との接点を増やすことによって、本当のニーズを引き出していきたいと思っています。そうすることで商品開発や企画は今までと違ったものになってくるだろうと思います。これから何十年とかけて資産形成をしていく人たちのニーズに沿う投資信託をメインのビジネスにしていきたいと考えています。

――本4ファンド以外で、今後新たな投資信託を出されるとすればどのようなコンセプトでしょうか。

SMAM 横山:たとえば、年齢に応じて投資信託に組み込まれている資産の割合が変わる商品は必要だと考えています。また、テーマを持った商品というのもこれから投資を始めようとする方には受け入れやすいのではないかと考えています。たとえば、SRI(社会的責任投資)や環境・社会・企業統治を重視したESG投資といった切り口で、自分が応援してみたい分野にお金を出してみるというようなアプローチも面白いと思います。

楽天証券がSMAMと一緒に取り組みたいこと-ニーズに合わせた商品開発と分かりやすい情報開示

――資産運用をより多くの個人投資家の皆様に身近に感じてもらえるために、楽天証券がSMAMに期待することは何ですか。

楽天証券 :商品開発は今後も両社でいろいろと一緒にやっていければいいなと思います。当社もネット証券ですから、お客様の動きや足あとは全部把握できています。そういった情報をお互いに共有して商品開発にうまく転換できればと思います。また、投資信託の目論見書や月次レポートなどを見ても投資信託初心者には非常に分かりづらいと考えています。こうした情報開示でも運用会社と証券会社で協力して改善していきたいと考えています。

SMAM 横山:情報開示に際しても、法律用語で説明してご理解いただけるのならよいですが、分かっていただいたつもりになって終わらせているとすれば、それは結局何もしていないと同じだと私は思います。

楽天証券 :同意見です。相手が理解していなければ、伝えたことになりません。小難しい言い回しと専門用語で、相手は十分に理解していないかもしれないと思いつつ、相手を何となく分かったような気にさせているだけではいけません。今後より多くの方に投資を身近にお考えいただこうとするのであれば、そうした情報開示姿勢はボトルネックになるかもしれません。我々はサービス業です。サービス業であるのにお客様に小難しいことを言ってどうするのだと思います。

――ファンドマネージャーが直接自分の言葉で自分の運用方針を語るというのもあまり目にしませんね。

SMAM 横山:私はファンドマネージャーを積極的に表に出そうと思っています。スーパーマーケットの野菜売り場で、これは私がつくりましたという表示がありますよね。資産運用業界でもファンドマネージャーが自分はどんな気持ちで、またどういう方針で運用をしているかというのを語るべきです。

おわりに

――では最後に、個人投資家の方にメッセージをいただければと思います。

SMAM 横山:若い世代であれば、まずは資産形成を始めていただきたいと思います。プロゴルフのトーナメントで例えてみましょうか。16番ホールまでトップだったのに、17番のショートホールで池に入れてトリプルボギーをたたいてしまった場面を想像してみてください。17番で失敗したら取り返しがつかないですよね。1番か2番ホールで失敗をしたのならもう一度気合を入れ直してリカバリーできたかもしれません。若い世代はこの先時間がある優位性を生かしていただきたいと思います。

楽天証券 :NISA、ジュニアNISA、また401Kの制度改正も準備されつつあります。非課税枠を活用した個人の資産形成に役立つような制度が徐々に整備されてきています。そうした制度変更などにも気を配りながら、今後の長期の資産形成を真剣に考えるきっかけにしていただければと思います。我々はそうした環境の変化に対応し、サービス業として個人投資家の皆様をサポートできるサービスを充実させていきますので、ぜひご活用いただければと思います。

――本日はどうもありがとうございました。

SMAM 横山・楽天証券 :どうもありがとうございました。

Longine編集部