騙されてはいけない! 日本にはびこるヘッジファンドへの誤解

”専門家”が与える誤解をQ&A形式で一挙に解消

本当にしつこい! ヘッジファンドと決算にまつわる誤解

先日、「ヘッジファンドと決算」に関する誤解についての記事を書きましたが、ニュースメディアやソーシャルメディアでは、「決算」に関する間違った情報が日々はびこっている状況に変わりはありません。

もう一度正しい結論をお伝えします。ヘッジファンドは自らの「決算」に絡んだ売りなどは一切しません! 意地悪な言い方ですが、ヘッジファンドの決算に関して誤った情報を出している”専門家”の方々がいたら、その方はヘッジファンドのことなど全く理解していないということです。

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「45日前ルール」:それは正しくない!

「ヘッジファンドが決算期を前に利益確定のための売りを出す」という間違った認識と同じぐらい広がっている、もう一つの間違いに「解約申込の45日前ルールに従って、ヘッジファンドが売り注文を浴びせてくる」というものがあります。

今回は、これを否定しつつ、ヘッジファンド投資の際に重要な判断材料となる流動性について一問一答形式で説明してみたいと思います。

Q1:「45日前ルール」ってよく聞くけど本当のところはどうなの?

結論からお話すると、この「ルール」も市場に影響を与える要因にはなりません。たとえば、3月末の基準点において解約したい投資家は、45日前に遡及し1月中旬までに解約申込書を送付する必要があります。ヘッジファンドは解約申込に対応するため、ファンドの⼀部を現⾦化する期間が45日間もあり、その間ポジションを調整すればよいのです。つまり、ヘッジファンドは焦って売却する必要はないのです。

しかし、なぜか「ヘッジファンドが基準点の45日前に売り注文を浴びせるから相場が荒れる」という誤解が広がりました。ちなみに現在では、このような条件(四半期の買付・解約、45日前ルール)はそもそも陳腐化しており、多くのヘッジファンドで日次や週次での買付・解約が可能です。

Q2:45日間でも対応が難しいぐらい大量の解約申込が発生した場合はどうなるの?

ヘッジファンドでは、解約申込が殺到した場合、解約申込の受入れを停止する場合があります。これは、各ファンドの目論見書に記載されているのでよく見てください。たとえば、「ファンド全体の資産に対して10%を超える規模の解約申込みが発生した場合は、ファンドの取締役会の判断により解約受入れを停止する場合があります」というものです。

これは、「ゲート条項」と言われます。ゲートというのは門のことですから、ゲート条項が発動されると、ヘッジファンドが文字通り門を閉めて投資家からの解約を堰き止める、というイメージです。このようなケースはまれですが、リーマンショックが世界を揺るがした2008年において多くのヘッジファンドがゲート条項を発動し問題となりました。

ただし、ゲート発動の後、一生解約できないというわけではありません。市場に流動性が回復した後、申込順に解約が可能となります。

Q3:ヘッジファンドはどうして解約を「制限」したいの?

解約を制限、つまりゲートを発動することで、ヘッジファンドが何か悪いことを企んでいるということではありません。ゲートを発動する時というのは、投資家の懸念が高まる時で、リスク資産を処分したい投資家が増え、「今まで持っていたものを売りたい、売値を下げてでも売りたい」という、売りが売りを呼ぶ展開となる場合があります。

そのような環境下で、ヘッジファンドが解約申込を受けた場合、理想的な水準でファンドのポジションを売却することが困難となり、結果としてファンドの投資家全体に不利益を及ぼすことが考えられる、というのが解約に「制限」を設ける主な理由です。制限を加えてでも時間をかけてポジションを売却していくことが、投資家にとってメリットがあるという考えが根本にあります。

Q4:そもそもヘッジファンドは流動性に問題があるの?

流動性リスクを取りながら高い収益を追求することには問題ありません。流動性リスクを取る代わりに、流動性プレミアムと呼ばれる、通常の投資対象からは獲得できない収益機会にアクセスできると考えられています。

ただ、当初の設定条件を逸脱して、流動性リスクを取らないはずだったヘッジファンドが突然流動性リスクを高めるような傾向を見せた場合は、運用戦略に変更が生じた可能性が考えられ、注意が必要です。

Q5:ヘッジファンドって流動性の高いほうが良いの?

ここ数年人気を集めているのが買付・解約の頻度を著しく向上したヘッジファンドです。ヘッジファンドの流動性は、月次・四半期というのが一般的でしたが、それを日次、つまり毎日買付・解約できる状態にしたものです。

投資家にとっては、自分たちのタイミングに合わせてファンドへの投資エクスポージャーをコントロールできるという点はメリットとして挙げられます。デメリットとしては、投資家の出入りの頻度が高まることで、それに合わせてファンドの売買コストも上昇することです。

筆者は、複数のヘッジファンドの運用者に、「ヘッジファンドの流動性向上を求める投資家の動きをどう見るか?」と聞いたことがあります。率直な意見として挙がったのは、「運用戦略によりけりだけど、むやみに流動性を追及することは投資家のベネフィットにはならないよ」ということでした。

「買付・解約が頻繁に発生すると、それによるポートフォリオ調整に時間を取られるから運用者が本来集中すべき運用活動に負担がかかるし、従前は取れていた流動性リスクを取り難くなってしまう結果、運用成績はマイナスに作用する可能性もあるよ。でも、それでビジネス的にファンドの人気が出るなら仕方ないのかな」と言っていたのが記憶に残りました。

ヘッジファンドの流動性に関する情報は、ヘッジファンドを選定する際に重要です。単に、流動性が短ければ良い、長ければ悪いということでもありません。流動性の設定に納得できる意味があるのか、投資家にとってメリットがあるのか、上記を踏まえ冷静に検討する必要があります。

こうした点を理解していただくことで、投資家の皆さんが正しい情報に基づき、健全な判断ができる一助となれば幸いです。

 

小田嶋 康博

金融系ベンチャー企業を経て、イギリス系大手ヘッジファンドであるマン・グループにて、東京、チューリッヒ、ロンドンで勤務後、ピクテに入社。

ピクテでは、従来型のディストリビューションモデルと異なる戦略立案及び営業活動を担当。 特に富裕層向けビジネスモデルの構築、並びにネットチャネル経由のビジネスモデル構築及び促進に向け販売会社とのコラボレーション施策の開発に従事。

慶應義塾大学入学後渡米し、ニューヨーク州立大学経営学士取得。