質問.ESGとは一体何か。いつ成立し誰が決めたのか、そして誰が内容を語ってよいのかを解説
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答え.ESGとは責任投資として投資を実行する際に考慮すべき要因
ESGとは環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の英語の頭文字をとったもの。
国連の資料から引用すると「責任投資原則(Principles for Responsible Investment, PRI)は責任投資をESG要因を投資決定やアクティブ・オーナーシップに組み込むための戦略及び慣行と定義」しています。
国連資料の日本語訳がわかりにくいので、まずはPRIの6つの原則を見ていくことにしましょう。
- 私たちは、投資分析と意思決定プロセスにESGの課題を組み込みます
- 私たちは、活動的な所有者となり、所有方針と所有習慣にESGの課題を組み入れます
- 私たちは、投資対象の主体に対してESGの課題について適切な開示を求めます
- 私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるように働きかけを行います
- 私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します
- 私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します
これらも日本語がよくわかりません。
第1の原則から、投資決定のプロセスにおいて「課題を組み込む」といっているだけで、それに何かが変わるのでしょうか。
第1の原則の「実行可能な行動」からいくつかピックアップしましょう。
- 投資方針ステートメントでESG課題に取り入れる(日本語おかしいですよね)
- ESG関連ツール、測定基準、分析の開発を支援する
- 内部の投資マネージャーのESG問題組み込み能力を評価する
- 外部の投資マネージャーのESG問題組み込み能力を評価する
- 投資サービス・プロバイダー(金融アナリスト、コンサルタント、ブローカー、調査会社、格付け会社等)に対し、進化する調査・分析にESG要因を組み込むように依頼する
これだけ見ると、ESGの課題を何として認識するかどうかというのは、それぞれによって異なるという見方をした方がよさそうです。
むしろ、課題設定すら能力だというように読み取れます。これはなかなか基準が定まらないので難しい要素ですね。
しかし、第2の原則を見ると少し理解できてきます。
第2の原則の「実行可能な行動」として以下のような内容を上げています。一部を抜粋します。
- 本方針に沿ったアクティブ・オーナーシップ方針を策定・開示する
- 議決権を行使し、(外部委託の場合は)議決権行使方針の順守を監督する
- エンゲージメント能力を(直接また外部委託により)開発する
- 長期的なESGの考慮に沿った株主決議を提出する
- ESG問題に関し、企業にエンゲージメントを行う
- 投資マネージャーに対し、ESG関連エンゲージメントに取り組み、その報告を行うように依頼する
これを読むと投資家としての基準を企業に押し付ける要素もあり、投資家としての基準をしっかりとした建付けがないと記号と議論がかみ合わなさそうです。
一口に投資家といっても様々なので、その基準が明確でないと発行体である企業は対応のしようもないですね。
執筆者
株式会社ナビゲータープラットフォーム
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社ナビゲータープラットフォーム代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役、株式会社OneMile Partners取締役も務める。東京工業大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォームを原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2024年1月11日