期待高まるマイクロLED、実用化の課題は「量産技術」

次世代アップルウオッチはマイクロLEDディスプレー搭載に?

写真提供:電子デバイス産業新聞(以下同)

投信1編集部による本記事の注目点

  • アップルは次世代アップルウオッチで有機ELに代えてマイクロLEDディスプレーを搭載する計画ではないかと、あちこちで繰り返し報じられています。
  • シャープは2017年5月、マイクロLEDを開発する米ベンチャーeLuxに出資すると発表しました。
  • 現在のところ、世界で唯一のマイクロLEDディスプレー製品と呼べるのは、ソニーが大型ビデオウォールとして販売している「CLEDIS(クレディス)」です。
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およそ1年前に本コラムでマイクロLEDディスプレーを取り上げた(「意外に期待できる? マイクロLEDディスプレー」)が、ここ1年でその期待感は格段に高まったと感じている。アップルが次世代アップルウオッチに有機ELに代えてマイクロLEDディスプレーを搭載する計画ではないかとあちこちで繰り返し報じられていることが最大の理由だと思う。アップルの採用はまだ噂の域を出ないのだが、一方で現実に、事業化に向けて企業が動き始めた事例がいくつか出てきた。直近の企業の動きをまとめつつ、事業化への最大の課題とされる量産技術を探ってみる。

鴻海がグループで事業化へ

シャープは2017年5月、マイクロLEDを開発するベンチャーeLux(米デラウェア州)に出資すると発表した。シャープは、保有するマイクロLED製造技術に関連する特許21件を現物出資するかたちで参画する。eLuxには、シャープのほか、鴻海グループの投資会社CyberNet Venture Capital、液晶パネルメーカーのInnolux、LED後工程を手がけるAdvanced Optoelectronic Technologyも出資し、まるで鴻海グループ4社が持つLED関連のノウハウをeLuxに集めるかのごとき体制で、事業化を急ぐことにした。

まずは液晶ディスプレー用の新型バックライトとして事業化することを検討中のようだが、「本件に関する鴻海の狙いはあくまで“アップル向けの受注獲得”であり、発表以前にはアップルと鴻海の合弁ビジネスになるのではという噂もあった」(業界関係者)。鴻海としては、量産化で韓国サムスンに大きく遅れを取っている有機ELディスプレーに対し、マイクロLEDでは是が非でも先手を取りたいという決意の表れなのかもしれない。

一方で、サムスンは、マイクロLED開発ベンチャーの台湾PlayNitrideを1.5億ドルで買収することを検討中だと報じられている。

マクロブロックが駆動IC開発へ

LEDディスプレーやLED照明用のドライバーICを開発する台湾のマクロブロック(聚積科技)は17年4月、台湾工業技術研究院(ITRI)とウルトラファインピッチLEDディスプレー用のドライバーICを共同開発すると発表した。IC開発を加速することで、LEDディスプレーメーカーの開発負担を軽減する考えだ。

本件に際し、ITRI電子・光電子システム研究所所長のChih-I Wu博士は「重要な技術はマストランスファーであり、これによりディスプレーの解像度を上げ、生産コストを削減できる。台湾経済部のサポートのもと、ITRIは09年から技術を開発しており、ドライバーICの製造プロセスで多くの経験を積んでいる」と述べた。マイクロLEDディスプレーでは、大量のLEDチップの駆動を制御する必要があるため、データの大量高速転送が必須になることを示唆した発言とみられる。

ノウハウを融合してIC開発を加速

マクロブロックは14年に初のファインピッチLEDディスプレー用のドライバーICを発売した。「LEDディスプレーはすでに技術や生産のボトルネックに直面している。当社の主要技術を用いてドライバーICの開発を加速する必要がある」と語っている。

モノクリスタルが高清浄ウエハーを開発

同じく17年4月、サファイア結晶・ウエハーの世界最大手であるモノクリスタル(ロシア・スタヴロポリ)は、マイクロLEDの開発・量産用にウルトラクリーン(UC)サファイアウエハーを発売した。最先端の洗浄技術を駆使し、表面に1μm以下のパーティクルが20~50個という高い清浄度を実現した。

開発したサファイアウエハー

開発したUCサファイアウエハーは、PSS(Patterned Sapphire Substrate)プロセスと互換性があるという。前洗浄を不要にでき、PSSメーカーは歩留まりを95~99%に向上できるため、コストが削減できる。すでに複数の顧客から良好なフィードバックを得ているという。

唯一の商品化事例はソニー

現在のところ、世界で唯一のマイクロLEDディスプレー製品と呼べるのが、ソニーが大型ビデオウォールとして販売している「CLEDIS(クレディス)」だ。CLEDISは、一般的なLEDチップより小さい約20μm角のRGBチップ「ウルトラファインLED」を独自開発し、これを黒いプリント基板上に等間隔に実装してユニットを構成。このユニットをタイリングすることで、横9.7×縦2.7mの8K×2K大画面など、任意のスケーラブルなディスプレーを実現することができる。ソニーでは、まず工業用デザインやシミュレーションといった実務用途、企業やホテルの受付といった高品位の空間演出を必要とする半屋内の用途に展開している。

CLEDISは視野角や省エネ性にも優れる

ソニーが現状、CLEDISでRGBチップを実装しているのは、チップの製法が色ごとに異なることに由来する。一般的に、青と緑のチップはサファイアウエハー(SiCやGaNウエハーも可)上に発光層を作り込むが、赤はGaAsウエハーを用いるため、RGBを同一ウエハー上にモノリシックに作り込むことができないためだ。

それでも、CLEDISのように大型ビデオウォールとして商品化するなら、RGB LEDチップの実装ピッチはまだ比較的緩くて済む。だが、アップルウオッチのように小さなディスプレーに高画素を詰め込もうとすると、きわめて高密度な実装が要求される。「同一ウエハー上にモノリシックでRGBを作れず、高精細化には超高密度実装が必要」というのがマイクロLED量産のネックなのだ。実装せずに転写プロセスなどを使うという手段も考えられるが、やはりモノリシック化に敵う技術はないだろう。

モノリシック化を期待させる技術

だが、「これはひょっとすると」と可能性を感じさせる技術もある。それが「薄膜による波長変換」と「マイクロ(ナノ)ワイヤーLED素子」だ。

薄膜による波長変換は、15年にVerLASE Technologies(米デラウェア州)が発表している。青色LEDチップアレイ上に、半導体量子井戸に囲まれた共振器キャビティーからなるモノリシックな薄膜変換層を重ね合わせるというもので、この薄膜を青色光で励起すると緑や赤に変換できるため、既存の蛍光体や量子ドットを代替できる新構造だと紹介している。同社はこれを「Chromover波長変換技術」と呼び、米国で特許を取得している。

薄膜変換層とは、セレン化ガリウム、二硫化タングステン、二硫化モリブデンなどをグラフェンのように薄いシート状にしたもの。青色LEDチップアレイと別のウエハー上にMBEで形成し、あとでこれを青色LEDチップアレイに貼り合わせる必要があるようだが、青色LEDチップアレイ上に直接形成できるように発展できれば、モノリシック化に最も近いかもしれない。

一方、マイクロ(ナノ)ワイヤーLED素子は、フランスのAlediaやスウェーデンのgloなどが開発しているもので、簡単に言うと、ウエハーをマイクロあるいはナノサイズのロッド(柱)状に3D加工し、このワイヤー1本ずつを発光素子として機能させる。Alediaによると、この3D構造のLEDは一般的なLEDより高輝度なうえ、同一ウエハーまたは同一チップ上でマルチカラーを実現することが可能。gloが開発しているナノワイヤーLED(nLED)も発想はAlediaとほぼ同じで、同一チップ上でRGBを発光させて白色を得ることができると説明している。

Alediaは、フランスの研究機関CEA-Letiが6年間開発してきた3D-LED技術をスピンアウトして11年に設立された企業で、GaN on Si LEDの開発を進めており、15年にはシリーズBとして3100万ドルの資金調達に成功している。gloはルンド大学Nanometer Structure Consortiumでの11年間の研究成果をもとに設立された企業で、米シリコンバレーに開発パイロットラインを持つ。

どの技術にも実用化の可能性があり、これ以外の新技術登場にも期待がかかる。いずれにせよ、モノリシックな製造技術が実現できれば、マイクロLEDはスマートウオッチに限らず、スマートフォンなどより大画面のアプリケーションまで代替していく可能性が広がる。もしそうなれば、有機ELディスプレーの天下も長くは続かないかもしれない。

電子デバイス産業新聞 編集長 津村明宏

投信1編集部からのコメント

これまで液晶ディスプレーの時代が長く続いてきました。また、次は有機ELだとされてきたものの、スマートフォンやTV向けに大きく離陸しているとは言いがたいものがあります。その中で、マイクロLEDが次世代ディスプレーデバイスとして浮上してきています。

新しい技術が出てくる場合、初期には基幹技術を押さえたプレーヤーが業界のリーダーとなり、その後は資金調達で優位性のある企業が業界をリードしていきます。現時点でどの技術、プレーヤーが浮上するのかわかりませんが、デバイスが変わるときはアプリケーションも大きく変わることが多いため、そろそろ”ポストスマホ”を本格的に議論すべきポイントに差しかかっているのかもしれません。

電子デバイス産業新聞×投信1編集部

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