退職後の「使いながら運用する時代」の隠れたリスクとは?

「率」で考える引き出しを

収益率配列のリスクとは?

これまで何度も「使いながら運用する時代」を設定することの重要性を紹介してきました。退職後も一定期間、お金に働かせる時代を用意することで、資産の持続力を高めるためです。

ただ、「使う」ということと「運用する」ということを同時に行うために、単なる運用するだけの現役時代にはないリスクも念頭に置かなければなりません。その一つが、「収益率配列のリスク」と呼ばれる新しいリスクです。少し具体例で説明することにします。

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一般に、退職したら「毎月10万円ずつ引き出す」といった定額引き出しの考え方が好まれます。それ以上使わないようにするという意味では、この定額引き出しは大切なのですが、残った資産に目を向けていないことで隠れたリスクに振り回される可能性があります。

一番下にある図表で、ポートフォリオAの定額引き出しの欄を見てください。保有資産1000万円で毎年40万円ずつ引き出して残りを運用すると想定します。運用するマーケットの収益率はその左側の欄に、1年目の15.3%の上昇から15年後の23.5%の下落まで仮定しています。

60歳から75歳までの15年間の運用環境は平均収益率(年率)で0.9%、リスク指標である標準偏差で22.3%。この運用と引き出しを行った結果、15年後の資産額は670.4万円です。使っている割に意外に減っていないですね。

一方、ポートフォリオBは、15年間の平均収益率は0.9%、標準偏差は22.3%とポートフォリオAと同じですが、毎年の収益率の並びを逆にしただけです。もちろん1000万円の資産で40万円を引き出して残りを運用するという方法もポートフォリオAと全く同じです。しかし、15年後の残高は240.5万円とポートフォリオAと大きく違っています。

なぜこんな現象が起きるのでしょうか。これはポートフォリオBの場合、収益率の並び具合が前半に大幅なマイナスが続いて後半にプラスが多くなっているからです。

大幅なマイナスが続いている前半のなかで、定額の引き出しを続けると元本の減少を早めることになります。その結果、最後の方で収益率が回復しても、元本が大きく毀損しており、その回復力を享受できないのです。

これを避けるための「定率引き出し」

75歳以降に安定的な生活を望んでいる場合、Aになるのか、Bになるのかわからないのはかなり大きなリスクといえます。

これを回避する方法が残高の一定率を引き出す「定率引き出し」です。表ではポートフォリオA、Bともにそれぞれの右側に定率引き出しによる資産の減少パターンを並べていますが、15年後の残高はともに621.7万円です。

毎年の収益率の配列を予測することはほとんど不可能なため、事前にポートフォリオAのパターンなのか、ポートフォリオBのパターンなのかを知る方法はありません。そのため、それを避けるには定率引き出しが有効な手段となるのです。

収益率配列のリスク(単位:%、万円)

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出所:フィデリティ退職・投資教育研究所

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フィデリティ退職・投資教育研究所 所長 野尻 哲史

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野尻 哲史
  • 野尻 哲史
  • フィデリティ退職・投資教育研究所
  • 所長

国内外の証券会社調査部を経て、2007年より現職。アンケート調査をもとに個人投資家の資産運用に関するアドバイスや、投資教育に関する行動経済学の観点からの意見を多く発表している。
日本証券アナリスト協会検定会員、証券経済学会・生活経済学会・日本FP学会・行動経済学会会員。
著書には、『老後難民 50代夫婦の生き残り術』、『日本人の4割が老後準備資金0円』(講談社+α新書)や『貯蓄ゼロから始める安心投資で安定生活』(明治書院)などがある。
調査分析などは専用のHP、資産運用NAVIを参照